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60 王都編 王の依頼
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とっとと、おさらばして家に帰ろうとしたアンケル爺とオレ。
しかしアッサリと足止めを喰らう。
そりゃあそうだ。なにせ城内で王子三人が、一度に毒殺されかけるという大事件が起こったんだから。簡単に人を城外に出すわけがない。ちょっと考えればわかりそうなものなのに、どうやらオレたちも少し慌てていたようだ。
まぁ、あの修羅場に連れ戻されなかっただけマシだがな。
あてがわれた客室にて寛いでいると、しばらくしてから呼び出しがかかった。
事情聴取でもされるのかと思いきや、向かった先に待っていたのは王様と王女様。
「先ほどはすまなかった。とんだ醜態を晒してしまった」
「母が申し訳ありませんでした」
頭を下げる王様と王女。二人ともかなりお疲れのご様子。
ファチナのハニーブロンドの髪も心なしか艶を失っている。
目も赤い。きっと泣いたのであろう。
まったくもってとんでもない母親である。
なのに「迷惑だ」と容赦のない爺。いくら人払いがされているとはいえ、不遜が過ぎるのではと心配になってくるが、王様は気にした様子もないのでいいのか。
話ではあの修羅場は、互いを強引に引き離すことでなんとか収束したのだと。
特に第二側妃の精神状態がかなり不安定で、魔法で無理矢理に眠らせたのだという。
招待客らは一応、簡単な聞き取りだけをして開放。
事件が起きた時、檀上に固まっていた王族に近寄った参加者らはいなかったから、とりあえずはこんなところだろう。すでに調査が始まっているというし、じきに詳細も判明するはず。
《……なのはわかるのだが、どうにも王城内の反応が弱い気がする》
だって王子暗殺未遂だよ。しかも三人同時に。結構な大事件だろう、これって。城内の空気がピリリと張り詰めてはいるんだが、なんていえばいいのか、必死さが足りない? そんな感じ。微妙に出足が鈍いように思う。うーん、何か自由に動けない事情でもあるのかも。
説明がひと区切りついたところで、王様が本題に入る。
「アンケル・ランドクレーズに頼みたいことがある」
フルネームによる王命。正式な依頼に、爺の顔つきも変わった。
「王女を、ファチナをしばらく預かってほしい」
「理由をお訊ねしても」
「あぁ、さっきの彼女の母親の暴言は聞いていただろう」
「あれか……酷い物言いじゃったな」
「もちろん事実無根だ。だが城内には口さがない者もいる。それだけでもこの子には負担になるというのに、更にアレだ。本来ならば守るべき立場の母親が、率先して自分の娘を貶める、その意味を深く考えもせずに。まさかあれほど愚かだったとは……」
自分の娘が犯人ならば、己は犯人の母親となる。
どうしてそんな考えに至るのか謎である。
何かあるのか? この目の前の憔悴した少女にも。
「話はわかりましたが、どうして私なのですかな」
「まず人物がしっかりとしているのは誰もが知るところ。中央から距離を置いており派閥に属していないところ。お孫さんと仲良くさせてもらっていること。それから……」
チラリとオレの方を王様が見た。
「それからアンケル殿の家人らの優秀さは有名だからな。きっとこの子を、ファチナを周囲の無粋な好奇と疑惑の目から守ってくれると、私は信じている」
さっきよりも深く頭を上げる王様。
アンケル爺は王命を承った。
話がまとまったところで早速、王女の身柄はオレたちが世話になっている別宅へと移す。迅速かつ秘密裡に、荷物は最低限の身の回りのモノだけを鞄に詰めて。近習らも誰も連れて行かない。人が増えればそれだけ動きが目立つから。
煌びやかな王城から遠ざかっていく馬車の中は静かだった。
アンケル爺は黙って周囲を警戒している。
ファチナはオレを抱きしめたまま、目を閉じてぐったりしていた。
気丈には振舞っているが彼女はまだ十二歳の少女。
今日は変態男に始まり、兄弟らの毒殺未遂事件に、母親の暴言、そして身を隠すための移動と、起こった出来事が多すぎる。心労で倒れてもおかしくないというのに……、強い子だ。
心なしかオレを抱く彼女の体が震えている。
それが馬車の振動ゆえなのか、ファチナの発するものなのかはわからない。
オレは自身の体温を調節して少し暖かくしておいた。
《とりあえず動くか……、友達が悲しむとクロアやメーサが泣くしな》
おっさんは、美少女のハニーブロンドの髪にくるまれながら、明日から自分がどう動くのかを考えていた。
馬車はじきに別宅に着く。
周囲に怪しい気配はない。
しかしアッサリと足止めを喰らう。
そりゃあそうだ。なにせ城内で王子三人が、一度に毒殺されかけるという大事件が起こったんだから。簡単に人を城外に出すわけがない。ちょっと考えればわかりそうなものなのに、どうやらオレたちも少し慌てていたようだ。
まぁ、あの修羅場に連れ戻されなかっただけマシだがな。
あてがわれた客室にて寛いでいると、しばらくしてから呼び出しがかかった。
事情聴取でもされるのかと思いきや、向かった先に待っていたのは王様と王女様。
「先ほどはすまなかった。とんだ醜態を晒してしまった」
「母が申し訳ありませんでした」
頭を下げる王様と王女。二人ともかなりお疲れのご様子。
ファチナのハニーブロンドの髪も心なしか艶を失っている。
目も赤い。きっと泣いたのであろう。
まったくもってとんでもない母親である。
なのに「迷惑だ」と容赦のない爺。いくら人払いがされているとはいえ、不遜が過ぎるのではと心配になってくるが、王様は気にした様子もないのでいいのか。
話ではあの修羅場は、互いを強引に引き離すことでなんとか収束したのだと。
特に第二側妃の精神状態がかなり不安定で、魔法で無理矢理に眠らせたのだという。
招待客らは一応、簡単な聞き取りだけをして開放。
事件が起きた時、檀上に固まっていた王族に近寄った参加者らはいなかったから、とりあえずはこんなところだろう。すでに調査が始まっているというし、じきに詳細も判明するはず。
《……なのはわかるのだが、どうにも王城内の反応が弱い気がする》
だって王子暗殺未遂だよ。しかも三人同時に。結構な大事件だろう、これって。城内の空気がピリリと張り詰めてはいるんだが、なんていえばいいのか、必死さが足りない? そんな感じ。微妙に出足が鈍いように思う。うーん、何か自由に動けない事情でもあるのかも。
説明がひと区切りついたところで、王様が本題に入る。
「アンケル・ランドクレーズに頼みたいことがある」
フルネームによる王命。正式な依頼に、爺の顔つきも変わった。
「王女を、ファチナをしばらく預かってほしい」
「理由をお訊ねしても」
「あぁ、さっきの彼女の母親の暴言は聞いていただろう」
「あれか……酷い物言いじゃったな」
「もちろん事実無根だ。だが城内には口さがない者もいる。それだけでもこの子には負担になるというのに、更にアレだ。本来ならば守るべき立場の母親が、率先して自分の娘を貶める、その意味を深く考えもせずに。まさかあれほど愚かだったとは……」
自分の娘が犯人ならば、己は犯人の母親となる。
どうしてそんな考えに至るのか謎である。
何かあるのか? この目の前の憔悴した少女にも。
「話はわかりましたが、どうして私なのですかな」
「まず人物がしっかりとしているのは誰もが知るところ。中央から距離を置いており派閥に属していないところ。お孫さんと仲良くさせてもらっていること。それから……」
チラリとオレの方を王様が見た。
「それからアンケル殿の家人らの優秀さは有名だからな。きっとこの子を、ファチナを周囲の無粋な好奇と疑惑の目から守ってくれると、私は信じている」
さっきよりも深く頭を上げる王様。
アンケル爺は王命を承った。
話がまとまったところで早速、王女の身柄はオレたちが世話になっている別宅へと移す。迅速かつ秘密裡に、荷物は最低限の身の回りのモノだけを鞄に詰めて。近習らも誰も連れて行かない。人が増えればそれだけ動きが目立つから。
煌びやかな王城から遠ざかっていく馬車の中は静かだった。
アンケル爺は黙って周囲を警戒している。
ファチナはオレを抱きしめたまま、目を閉じてぐったりしていた。
気丈には振舞っているが彼女はまだ十二歳の少女。
今日は変態男に始まり、兄弟らの毒殺未遂事件に、母親の暴言、そして身を隠すための移動と、起こった出来事が多すぎる。心労で倒れてもおかしくないというのに……、強い子だ。
心なしかオレを抱く彼女の体が震えている。
それが馬車の振動ゆえなのか、ファチナの発するものなのかはわからない。
オレは自身の体温を調節して少し暖かくしておいた。
《とりあえず動くか……、友達が悲しむとクロアやメーサが泣くしな》
おっさんは、美少女のハニーブロンドの髪にくるまれながら、明日から自分がどう動くのかを考えていた。
馬車はじきに別宅に着く。
周囲に怪しい気配はない。
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