青のスーラ

月芝

文字の大きさ
上 下
61 / 226

60 王都編 王の依頼

しおりを挟む
 とっとと、おさらばして家に帰ろうとしたアンケル爺とオレ。
 しかしアッサリと足止めを喰らう。
 そりゃあそうだ。なにせ城内で王子三人が、一度に毒殺されかけるという大事件が起こったんだから。簡単に人を城外に出すわけがない。ちょっと考えればわかりそうなものなのに、どうやらオレたちも少し慌てていたようだ。
 まぁ、あの修羅場に連れ戻されなかっただけマシだがな。

 あてがわれた客室にて寛いでいると、しばらくしてから呼び出しがかかった。
 事情聴取でもされるのかと思いきや、向かった先に待っていたのは王様と王女様。

「先ほどはすまなかった。とんだ醜態を晒してしまった」
「母が申し訳ありませんでした」

 頭を下げる王様と王女。二人ともかなりお疲れのご様子。
 ファチナのハニーブロンドの髪も心なしか艶を失っている。
 目も赤い。きっと泣いたのであろう。
 まったくもってとんでもない母親である。
 なのに「迷惑だ」と容赦のない爺。いくら人払いがされているとはいえ、不遜が過ぎるのではと心配になってくるが、王様は気にした様子もないのでいいのか。
 話ではあの修羅場は、互いを強引に引き離すことでなんとか収束したのだと。
 特に第二側妃の精神状態がかなり不安定で、魔法で無理矢理に眠らせたのだという。
 招待客らは一応、簡単な聞き取りだけをして開放。
 事件が起きた時、檀上に固まっていた王族に近寄った参加者らはいなかったから、とりあえずはこんなところだろう。すでに調査が始まっているというし、じきに詳細も判明するはず。
 
《……なのはわかるのだが、どうにも王城内の反応が弱い気がする》

 だって王子暗殺未遂だよ。しかも三人同時に。結構な大事件だろう、これって。城内の空気がピリリと張り詰めてはいるんだが、なんていえばいいのか、必死さが足りない? そんな感じ。微妙に出足が鈍いように思う。うーん、何か自由に動けない事情でもあるのかも。

 説明がひと区切りついたところで、王様が本題に入る。

「アンケル・ランドクレーズに頼みたいことがある」

 フルネームによる王命。正式な依頼に、爺の顔つきも変わった。

「王女を、ファチナをしばらく預かってほしい」
「理由をお訊ねしても」
「あぁ、さっきの彼女の母親の暴言は聞いていただろう」
「あれか……酷い物言いじゃったな」
「もちろん事実無根だ。だが城内には口さがない者もいる。それだけでもこの子には負担になるというのに、更にアレだ。本来ならば守るべき立場の母親が、率先して自分の娘を貶める、その意味を深く考えもせずに。まさかあれほど愚かだったとは……」

 自分の娘が犯人ならば、己は犯人の母親となる。
 どうしてそんな考えに至るのか謎である。
 何かあるのか? この目の前の憔悴した少女にも。

「話はわかりましたが、どうして私なのですかな」
「まず人物がしっかりとしているのは誰もが知るところ。中央から距離を置いており派閥に属していないところ。お孫さんと仲良くさせてもらっていること。それから……」

 チラリとオレの方を王様が見た。

「それからアンケル殿の家人らの優秀さは有名だからな。きっとこの子を、ファチナを周囲の無粋な好奇と疑惑の目から守ってくれると、私は信じている」

 さっきよりも深く頭を上げる王様。
 アンケル爺は王命を承った。

 話がまとまったところで早速、王女の身柄はオレたちが世話になっている別宅へと移す。迅速かつ秘密裡に、荷物は最低限の身の回りのモノだけを鞄に詰めて。近習らも誰も連れて行かない。人が増えればそれだけ動きが目立つから。
 煌びやかな王城から遠ざかっていく馬車の中は静かだった。
 アンケル爺は黙って周囲を警戒している。
 ファチナはオレを抱きしめたまま、目を閉じてぐったりしていた。
 気丈には振舞っているが彼女はまだ十二歳の少女。
 今日は変態男に始まり、兄弟らの毒殺未遂事件に、母親の暴言、そして身を隠すための移動と、起こった出来事が多すぎる。心労で倒れてもおかしくないというのに……、強い子だ。
 心なしかオレを抱く彼女の体が震えている。
 それが馬車の振動ゆえなのか、ファチナの発するものなのかはわからない。
 オレは自身の体温を調節して少し暖かくしておいた。

《とりあえず動くか……、友達が悲しむとクロアやメーサが泣くしな》

 おっさんは、美少女のハニーブロンドの髪にくるまれながら、明日から自分がどう動くのかを考えていた。
 馬車はじきに別宅に着く。
 周囲に怪しい気配はない。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

御者のお仕事。

月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。 十三あった国のうち四つが地図より消えた。 大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。 狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、 問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。 それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。 これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...