青のスーラ

月芝

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58 王都編 王女と幼女とドリル 3

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 城内に変態男が出没し騒然となっていた頃、クロアとメーサとオレは王女に招待された広いお部屋で、まったりと過ごしていた。
 結局、報告に来た騎士は王女の追及を躱し切れずに白状させられ、ファチナは顔を顰めることになる。

「いやねぇ。下半身を出して廊下を走り回るだなんて。信じらんない」
「うちのダンチョウも、たまにはだかでソトをはしってるよ」
「クロアちゃん。アレは『うえ』じゃない。『した』といっしょにしたらダメ」
「どっちもはんぶんなのに? うえだったらワタシもいいの?」
「「ぜったいにダメ!」」 

 王女とメーサに同時にツッコまれるクロア。
 オレからも頼むから絶対にやってくれるなよ。そんな真似をしたら、たぶんアンケル爺がショックで倒れるから。

「それにしてもクロアちゃんって強いのね。お姉さんビックリしちゃった」
「そうかなぁ? センセイはまだまだだって」
「あー、アノひとかー。おめんのひと」
「ナニナニ? お面って仮面を付けてるの? 男、女?」
「おんなー。すっごいの」
「うんうん。アレはちょっとすごいよねぇ」
「ちょっと気になるわね。その辺くわしく教えて……」

 女が三人寄れば姦しいとはよく言った。キャイキャイと騒がしい。とりとめのない話題ですら盛り上がれるものだ。
 三人の間には七歳という年齢差があるものの、すっかり打ち解けた様に喋っている。歳が離れている分、かえって遠慮しなくて気が楽なのかも。いつの間にか王女も二人の名前をちゃん付けだ。あと、さり気に自分を「お姉さん」と呼ばせようと画策している。
 そういえば、ここの家には男ばかりで女の子は彼女一人。しかも弟はまったく可愛げがない。
 可愛い妹を欲しがってもしようがないか……、やらないけどな。

 トントン。
 再び扉を叩く音。
 すかさずお澄ましする王女。変わり身が早い。
 ファチナの許可を得て、扉が開かれる。
 てっきり変態がお縄になったので、騎士が報告にきたのかと思っていたのだが。

「これはまた随分と可愛いらしいお客様じゃないか、ファチナ」

 屈強な六人の護衛を引き連れて部屋の中に入ってきた男。連れに見劣りしない堂々とした体躯。白地に金糸で複雑な模様が刺繍されてある仕立てのいいタキシード姿。頭の上には王冠が乗っていた。
 まさかの王様の登場。
 しかしクロアとメーサはピンとこないらしく、普通にお辞儀をしている。
 王女にしたって「あら、お父様どうしたの」と素っ気ない。
 オレ? オレは内心ドッキドキだよ。なにせ前世からこっち、おっさんは権力に弱い生き物なのだ。

「なんだか変なのがうろついていたと耳にしてね。もう捕まったみたいだが」
「そうですの? それは良かったです。さすがにちょっと怖かったですから」
「ふふふっ。そうだね。報告を受けたときには、自分の聞き間違いかと思ったよ。それにしてもまさか彼にあんな趣味があったとは……、人は見かけによらないねぇ」
「誰ですか、その不埒者は?」
「あー、うん。ファチナも知ってるんじゃないかな。ほら、ピア―スの友達の。確かルーサイト家の子」
「えっ!?」

 父王の言葉に驚きを隠せない王女。
 王様はてっきり自分の知り合いが変態だと聞いて、娘が驚いたのだと誤解した。しかしそうじゃない。なにせ彼女はじっとこちらを見ている。
 オレのことを、ジトーと見ている。
 クロアとメーサも同じようにオレを、ジーっと見つめている。

 三人に同時に見つめられる格好になったオレ。
 なんだか居た堪れない。思わず青いスーラボディもぷるんと震える。
 するとそんな娘たちの視線に気がついた王様が、ようやく部屋の片隅でモゾモゾしている青いスーラの存在に気がついた。

「この子にもお礼を言わなくちゃね。先日の茶会では娘を手助けしてくれて、本当にありがとう」

 わざわざオレの元まで近寄ってきた王様。
 片膝をついた格好にて礼の言葉を口にする。骨の髄にまで染み込んだ滑らかな仕草。思わずおっさんも見惚れるほど絵になる。これで手でもとられて、甲にチュッとかされた日にゃあ大抵の乙女がポーッとのぼせちまう。かつてはさぞかし浮名を流したことであろう。
 それにしても実際に本人を前にすると、爺や婆から聞いていた話とは随分と印象が違うな。あの二人の話だと、家庭に振り回されてアップアップしていると思っていたのに。逆にこの人の寵愛を巡って三人の妃が、日夜熾烈な争いを繰り広げていると言われたほうが、素直に信じられるな。
 どちらにしても難儀な話だ。やっぱり王族には関わらないのが一番かな。

「そうそう。そういえば二人ともヘリオスと同じ歳だろう。どうかなアノ子? ウチのお嫁さんに来ない? それとも婿に出そうか? なんならピアースでも良いよ」

 だと言うのに、サラリと爆弾をぶっ込んでくる王様。

「「ぜったいにイヤ!!」」

 金髪幼女クロアとシングルドリルのメーサは即座に断った。
 いい歳をした大人が驚くほどの即断即決。
 おずおずと王様が理由を訊ねると、二人はこう答える。
 メーサ曰く、面倒くさい。単純に嫌い。ピアース? 知らない。
 クロア曰く、やっぱり面倒くさい。自分より弱いのはいいけど馬鹿は嫌だ。ピアース? 誰ソレ。
 幼女たちは遠慮がなくて辛辣だった。王子二人ともけちょんけちょんだ。
 ヘリオスが振られるのは仕方がない。自業自得だ。でも当人も知らないところで一方的に振られることになってしまった、第二王子は少し憐れ。
 話を聞いていたファチナが肩を微かに震わせつつ、笑うのを必死に堪えている。
 護衛の騎士らも同様だ。ポーカーフェイスを気取っているが、ちょっと鎧がカタカタ鳴ってる。

 自分からこんな話をしておいて我が子らがこき下ろされた王様は、そそくさと退散していった。
 扉が閉められて三人と一体になった途端に、王女がまたしても爆笑。

「くくくくくっ……、あー可笑しいったらないわー。ピアースの奴、影薄すぎー」

 さっきから、ちょいちょい名前が出てくるピアース。
 すっかりネタ扱いだが、一応はこの国の第二王子。正妃の息子で第二王位継承権を持つ、御年十歳。能力は可もなく不可もなくだが、選民意識ゴリゴリの母親の影響をモロに受けて、貴族主義にどっぷり染まっているんだとか。中途半端に出来がいい分、第三王子よりも始末が悪いかもな。

 ファチナの笑いが止むまでに、たっぷり十分もかかった。
 幼女二人はその間、お菓子の食べさせっこをして遊んでいた。
 オレも混ざってモグモグしていた。

「あー、こんなに笑ったのって久しぶり。クロアちゃんもメーサちゃんも今日はありがとうね。それから『ムーちゃん』もありがとう。君は実にいい仕事をしてくれたわ」

 目元の涙をハンカチで拭いつつ王女が感謝を述べる。
 よっぽどアノ男から解放されたのが嬉しかったのか、ファチナがオレを抱きしめて最大の感謝の意を表明した。

「あら? コレはなかなか、いい抱き心地……。ねぇー、クロアちゃん。この子、お姉さんにくれない? 代わりにおっきなヌイグルミをあげるから」
「やー」
「どうしても、ダメ?」

 オレを抱いたまま悪戯っ子みたいな顔をする王女。
 もちろん冗談、ちょっとクロアを揶揄っているだけだ。
「もーらった」と言って駆け出す王女。それを「ダメ―」と追いかけるクロア。「わたしもほしい」と一緒になって走り回るメーサ。

《三人の女がオレを巡って争っている。ついにモテ期到来か》

 王女のささやかな胸のふくらみに身を委ねながら、おっさんはそんな阿呆なことを考えていた。
 この夜に、あんな出来事が起こるとは思いもしないで……。

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