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57 王都編 王女と幼女とドリル 2
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王女が爆笑している。
「キャハハ」と、それはもう小気味よい笑い声。
テーブルをバンバンと叩いて、ヒーヒー悶えている。
笑い過ぎて腹筋が痛いと涙目だ。
クロアとメーサは素知らぬ顔で紅茶を飲んでいる。
オレはお茶請けのクッキーを頂いている。
《モグモグ。うむ。腕は悪くないが、ウチの料理長には一歩及ばない》
王女は今度はソファーにダイブして、ケタケタ笑い転げている。
よっぽどツボにハマったのだろう。
落ち着くまでには、まだまだかかりそうだ。
王城内に数ある部屋の一つにクロアたちは招かれていた。
窓からは季節の花が咲き乱れる庭が一望できる。今の時期は紅い花が咲き乱れていた。
ファチナ王女は特に気に入った相手だけをここに招待する。
初めは違う場所を用意してあったのだが、途中で彼女は考えを変え、急遽場所をこちらに移す。
それほどまでに先の迷惑男を撃退してくれたことを、彼女は心底喜んでいたのである。
アレでも一応は八大公家の一つであるルーサイト家の三男。第二王子の取り巻きの一人。王家との繋がりもあって、あんまり邪険にも扱えない。だから大人の対応をしていたら、何を勘違いしたのか増長して、しつこくつきまとうようになった。
誰かに相談しようにも母親は弟の事しか関心がないし、父親の王は忙しい。こんな些事で煩わせるわけにはいかない。
恐らくあの男は、自分の女としての評判を落として、図々しくも責任をとる呈を装い手に入れるつもりであったのだろうと、ファチナは語った。
そんな男を美幼女二人とスーラが撃退したもんだから、可笑しくって仕方がない。
あんまりのことに決定的瞬間を見逃していた王女さま。
事の次第をメーサから教えてもらってからは、ずっとこんな調子である。
「あのスカシ野郎め。ざまぁ」
一人の女性にここまで嫌われるって、いったい奴は何をしたのだろう。
リアルで「ざまぁ」なんて台詞を聞けるとは……、普通はここまで行けば、少しは気がつきそうなもんなのに。この頃の若い奴が何を考えているのか、おっさんにはさっぱりだわ。
トントン。
部屋の扉を叩く音がする。
すぐさま王女の仮面を被ったファチナが、すまし顔で「どうぞ」と応えた。
すると城詰めの騎士が慌てた様子で入ってきた。
「報告します。現在、城内にて不審者が出没しております。念のために警護をつけておきますので、しばしこちらにてお控え下さい」
「賊ですか?」
「いや、あの、それが、その……でして……」
王女の言葉に返事を濁す騎士。どうにも歯切れが悪い。
はて、と小首を傾げるファチナ。
クロアとメーサに至っては興味がないのか、ホヘーと完全に気を抜いている。
オレはこの騎士の様子に心当たりがあったので密かに天を仰ぐ。
《あらら? やっぱり女神さまに見放されたか》
オレが先ほど不埒者を部屋に運んだ際のこと。
どうせ同じようなことを繰り返しそうな相手だったので、キツイお灸を据えることに決めた。
奴のズボンとパンツを奪うと、その場で跡形もなく処分した。なんだか自分のアイテム収納に入れるのも嫌だったので。酸性の液をピュピュッとすれば簡単さ。
本当は全部ひん剥いて真っ裸にしてやろうかとも思ったが、それは思い留まる。だって普通の裸よりも、下半身だけ丸出しのほうが、変態度が増すだろう?
あとは手を後ろにがっちりロープで縛っておけば処理完了。
ちっとやそっとでは解けないぜ。なにせアラクネの糸を贅沢に練り込んだ、頑丈な特別製のロープだからな。おそらく大の男が二十人ぐらいぶら下がっても切れないと思う。
目覚めた奴は自分が縛られていることに気付く。
うっかり助けを求めれば露出で「キャーッ」と大騒ぎ。
自力でなんとかしようとしても、ここは城内。誰かに見つかって、やっぱり「キャーッ」となる寸法だ。
ついでにオマケして特殊な薬品も嗅がせておいた。
クコの実の汁を煮詰めただけのモノだが、これは医療現場では麻酔の一種として使われている。患部に塗ると麻酔効果があるのだ。それを気化したものを吸い込めばバタンきゅうとなる。効果の持続時間は短く、寝覚めに頭がぼんやりするので、使用上の注意が必要。
誰にも見つからずに逃げられるかは運次第。
なーに、日頃の行いがよければ、きっと女神さまが味方して下さるさ。
……といった感じで放置しておいた。
たぶんソレが目覚めたんだろう、そして見つかったと。そりゃあ報告に来た騎士の口も重くなるってもんだ。十二歳の乙女を捕まえて、下半身丸出し男が城内を練り歩いているなんて、ちょっと言えないわな。
王女がクロアたちとお茶のテーブルに着いて、しばらく経った頃……。
誰もいない部屋の中で目を覚ました男。
ぼんやりとして頭が働かない。自分はどうしてこんなところで寝ていたんだ? たしかさっきまで王女と話をしていたはずだ。それから……それから……。
働かない頭でフラフラと立ち上がる。
とりあえずここから出て、それから、そうだ。王女を探さないと。
自分の野心を叶えるにはアレが必要。アレをモノにするのが手っ取り早い。
三男の自分では家に飼殺されるか、外に出されるか、どちらにしても先はたかが知れている。そんなのはまっぴらご免だ。
そんなことを考えながら廊下へと出た彼。
ばったりと淑女らの一団と出会う。
いつも通りに如歳なく挨拶をする。外面は一級品だと自負している。
しかし帰ってきたのは「ギャーッ」という悲鳴だった。
声に驚いて意識が覚醒する。それにともない感覚も戻ってくる。
あれ? なんだか腰から下が、やけにスースーするような……。
「キャハハ」と、それはもう小気味よい笑い声。
テーブルをバンバンと叩いて、ヒーヒー悶えている。
笑い過ぎて腹筋が痛いと涙目だ。
クロアとメーサは素知らぬ顔で紅茶を飲んでいる。
オレはお茶請けのクッキーを頂いている。
《モグモグ。うむ。腕は悪くないが、ウチの料理長には一歩及ばない》
王女は今度はソファーにダイブして、ケタケタ笑い転げている。
よっぽどツボにハマったのだろう。
落ち着くまでには、まだまだかかりそうだ。
王城内に数ある部屋の一つにクロアたちは招かれていた。
窓からは季節の花が咲き乱れる庭が一望できる。今の時期は紅い花が咲き乱れていた。
ファチナ王女は特に気に入った相手だけをここに招待する。
初めは違う場所を用意してあったのだが、途中で彼女は考えを変え、急遽場所をこちらに移す。
それほどまでに先の迷惑男を撃退してくれたことを、彼女は心底喜んでいたのである。
アレでも一応は八大公家の一つであるルーサイト家の三男。第二王子の取り巻きの一人。王家との繋がりもあって、あんまり邪険にも扱えない。だから大人の対応をしていたら、何を勘違いしたのか増長して、しつこくつきまとうようになった。
誰かに相談しようにも母親は弟の事しか関心がないし、父親の王は忙しい。こんな些事で煩わせるわけにはいかない。
恐らくあの男は、自分の女としての評判を落として、図々しくも責任をとる呈を装い手に入れるつもりであったのだろうと、ファチナは語った。
そんな男を美幼女二人とスーラが撃退したもんだから、可笑しくって仕方がない。
あんまりのことに決定的瞬間を見逃していた王女さま。
事の次第をメーサから教えてもらってからは、ずっとこんな調子である。
「あのスカシ野郎め。ざまぁ」
一人の女性にここまで嫌われるって、いったい奴は何をしたのだろう。
リアルで「ざまぁ」なんて台詞を聞けるとは……、普通はここまで行けば、少しは気がつきそうなもんなのに。この頃の若い奴が何を考えているのか、おっさんにはさっぱりだわ。
トントン。
部屋の扉を叩く音がする。
すぐさま王女の仮面を被ったファチナが、すまし顔で「どうぞ」と応えた。
すると城詰めの騎士が慌てた様子で入ってきた。
「報告します。現在、城内にて不審者が出没しております。念のために警護をつけておきますので、しばしこちらにてお控え下さい」
「賊ですか?」
「いや、あの、それが、その……でして……」
王女の言葉に返事を濁す騎士。どうにも歯切れが悪い。
はて、と小首を傾げるファチナ。
クロアとメーサに至っては興味がないのか、ホヘーと完全に気を抜いている。
オレはこの騎士の様子に心当たりがあったので密かに天を仰ぐ。
《あらら? やっぱり女神さまに見放されたか》
オレが先ほど不埒者を部屋に運んだ際のこと。
どうせ同じようなことを繰り返しそうな相手だったので、キツイお灸を据えることに決めた。
奴のズボンとパンツを奪うと、その場で跡形もなく処分した。なんだか自分のアイテム収納に入れるのも嫌だったので。酸性の液をピュピュッとすれば簡単さ。
本当は全部ひん剥いて真っ裸にしてやろうかとも思ったが、それは思い留まる。だって普通の裸よりも、下半身だけ丸出しのほうが、変態度が増すだろう?
あとは手を後ろにがっちりロープで縛っておけば処理完了。
ちっとやそっとでは解けないぜ。なにせアラクネの糸を贅沢に練り込んだ、頑丈な特別製のロープだからな。おそらく大の男が二十人ぐらいぶら下がっても切れないと思う。
目覚めた奴は自分が縛られていることに気付く。
うっかり助けを求めれば露出で「キャーッ」と大騒ぎ。
自力でなんとかしようとしても、ここは城内。誰かに見つかって、やっぱり「キャーッ」となる寸法だ。
ついでにオマケして特殊な薬品も嗅がせておいた。
クコの実の汁を煮詰めただけのモノだが、これは医療現場では麻酔の一種として使われている。患部に塗ると麻酔効果があるのだ。それを気化したものを吸い込めばバタンきゅうとなる。効果の持続時間は短く、寝覚めに頭がぼんやりするので、使用上の注意が必要。
誰にも見つからずに逃げられるかは運次第。
なーに、日頃の行いがよければ、きっと女神さまが味方して下さるさ。
……といった感じで放置しておいた。
たぶんソレが目覚めたんだろう、そして見つかったと。そりゃあ報告に来た騎士の口も重くなるってもんだ。十二歳の乙女を捕まえて、下半身丸出し男が城内を練り歩いているなんて、ちょっと言えないわな。
王女がクロアたちとお茶のテーブルに着いて、しばらく経った頃……。
誰もいない部屋の中で目を覚ました男。
ぼんやりとして頭が働かない。自分はどうしてこんなところで寝ていたんだ? たしかさっきまで王女と話をしていたはずだ。それから……それから……。
働かない頭でフラフラと立ち上がる。
とりあえずここから出て、それから、そうだ。王女を探さないと。
自分の野心を叶えるにはアレが必要。アレをモノにするのが手っ取り早い。
三男の自分では家に飼殺されるか、外に出されるか、どちらにしても先はたかが知れている。そんなのはまっぴらご免だ。
そんなことを考えながら廊下へと出た彼。
ばったりと淑女らの一団と出会う。
いつも通りに如歳なく挨拶をする。外面は一級品だと自負している。
しかし帰ってきたのは「ギャーッ」という悲鳴だった。
声に驚いて意識が覚醒する。それにともない感覚も戻ってくる。
あれ? なんだか腰から下が、やけにスースーするような……。
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追記(2021/10/7)
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