青のスーラ

月芝

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56 王都編 王女と幼女とドリル 1

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 王都でのお茶会も、途中で些細なトラブルはあったものの無事に終了。
 オレの披露した「スーラ式メリーゴーラウンド」も大好評。場を大いに盛り上げるのに一役買った。
 ちなみに「スーラ式メリーゴーラウンド」とは、オレを主軸にして六本ほど周囲に伸ばした触手に客を掴んで、ぐーるぐる回るというモノ。子供たちが酔わないように速度に気を使いつつ、乱高下することでスリルも与える。初めは怖がっていた子供でも、じきに空を飛んでいるかのような独特の乗り心地に、もう夢中。みんな最低三回は乗っていたね。王女も主催者側なのにお客の五歳児たちに混じって五回も乗ってたよ。なんにしても喜んでもらえてよかった。
 これでもう王都に用はない。あとは少し遊んでから帰るだけ……、だと思っていたのに昨日の今日で、オレたちはまた王城に足を運んでいる。
 理由は第一王女にお呼ばれしたから。
 メーサには自分の弟が仕出かした不始末に対して改めて謝罪を。クロアにはスーラことオレを連れて来てくれたお礼をしたいとのこと。
 王族とは極力関わりたくないコチラとしてはありがた迷惑。しかしながら二人はわりと王女を気に入っているみたいだし。まぁ、しばらくは様子見かなと、オレは考えている。

 王城への入場は先日と同じ流れ。正し違う点が一つあった。それは馬車から降りたら、いきなり第一王女のお出迎えがあったことである。

「いらっしゃい。お待ちしておりました」

 お供も連れずに極上の笑顔が一人で待っていた。
 王城の煌びやかさを背景に、王女のハニーブロンドの髪も輝きを増し、後光の如き眩さを放つ。キラキラにきらきらが重なって、クロアとメーサが目をしょぼしょぼさせている。
 いくら城内とはいえ、いささか不用心なのではと思ったが、コレが彼女の日常らしい。
 この国では男子以外に王位継承権は発生しない。つまりいくら王族とはいえ、女子の扱いは男子に比べると数段低く扱われる。
 第一、第二王子ならばお付きもゾロゾロ。第三はそこそこだが、当人がアレなので居つかない。そして王女には最低限の人員が割かれているだけ。どれだけ優秀であろうが、女の身ではいずれ降嫁に出されるか、どこかの国へと嫁に出されるか。
 オレと同じ疑問が浮かんだのだろう。メーサが訊ねると王女がサバサバした様子でそのように答えた。

「でも、わりと自由にさせてもらえるから。これはこれで悪くないのよ」

 言いながらウインクして見せるファチナ。
 茶目っ気たっぷりな彼女は大層可愛らしかった。

 王女の案内で城内を進む一行。
 メーサやクロアが何かに興味を持つ度に、立ち止まってはちゃんと説明をするファチナ。それもお義理ではなく実に楽しそうに話す。王家主催の茶会の差配という重責から、解放された直後ということもあるのだろうが、こちらが本来の彼女の姿に近いのだろう。会話の端々でコロコロとよく笑う、蕾がほころぶとはこのことか。一緒にいるこちらまで自然と笑みになる。幼女らもすっかりご機嫌だ。

 みんなで賑やかに歩いていると、王女の表情が不意に曇った。
 彼女の視線の先には一人の男が立っている。
 壁にもたれて、こっちを見ながらにやにや。見てくれは一端の貴公子然としているが、中身からなんだか不快なモノが滲み出ている感じがする。この気持ちを明確に表現するとしたら「生理的に受け付けない」という言葉がピッタリ、そんな男だ。
 でもどっかで見覚えがあるなー、と記憶を探っていたら思い出した。
 アレだ。王都へ来る途中のゲードで騒いでいた若い奴。「自分を誰だと思っている」とか言って警備の人たちを困らせていたっけか。どっかのいいところのバカボンだとは思っていたが、城に自由に出入り可能ということは、少なく見積もっても八大公家に類するか。
 少し立ち止まったものの、王女は男を無視するかのように通り過ぎようとする。
 男は不躾にもそれを遮った。

「お退き下さい。私はいま客人を案内しているところです」

 努めて冷静に淡々と告げるファチナ。
 しかし男はにやにやするばかりで、体を避けようとはしない。
 足元の幼女らに目を向ける。目を細め「ほぅ」と息を漏らすも、そこに込められた邪な気配を察してか、クロアとメーサは顔を顰めた。まるで値踏みするかのような視線に、オレも嫌悪感を募らせる。

「いえ。ほんの少しでいいのです。自分にお付き合い下さいませんか」

 甘ったるいような粘りのある声で王女に懇願する男。
 もちろん彼女の答えはいいえ。なのに男はなかなか引き下がらない、かなりしつこい。
 初めのうちは感情を伏せて丁寧に応対していたファチナも、ついに嫌気がさしたらしく幼女らの肩を抱いて、強引にその場を抜けようとした。
 すると背後から伸びた男の手が王女の二の腕を掴む。

「何をなさるんですか!」
「うるさい! ちょっとでいいんだから、ソコまで僕に付き合え!」

 嫌がる王女を無理やり手直な扉の向こうへと連れこもうとする悪漢。
 オイオイ。人気のない所に美少女を連れ込んで何をするつもりだ。
 さすがにこれはダメだろう。これ以上はオレも見過ごせない。
 クロアやメーサも気持ちは同じ。二人は咄嗟に目を合わせると、コクンと頷き行動を起こす。

「アー! アレワー!」

 メーサが叫んだ。迫真のひと声だ。
 彼女の指さす方へ反射的に男の視線が釣られる。
 その瞬間にクロアが動く。
 男と王女の間の、僅かな隙間にスルリと体を潜り込ませる。
 勝負は一瞬でついた。
 鈍い音がした直後に、白目を剥いた男が糸の切れた人形のように、ぐにゃりと倒れた。
 金髪幼女のショートアッパーが決まったのだ。高さといい角度といい、男の急所の位置は最適の打撃点だった。しかもクロアは腕輪装着時でさえも、瞬き一つの間に最高で六発の拳を繰り出すことが可能。きっちり六発、寸分違わず決めてみせる。威力こそは抑えているみたいだが、ちょっと割れて中の具が零れているかもしれない。
 目の前の男が急に倒れて泡を吹く。
 慌てるファチナ。
 そんな王女を宥めるのは幼女二人に任せる。
 オレは倒れた男の足を掴みズルズルと引きずって、こいつが行こうとしていた部屋の中へ。室内は普通の応接室みたいな場所。特にいかがわしい点は見られない。
 
《ここで真面目に告白……は、あの態度からしてないな》

 だとしたら、まさか強引に既成事実でも作って、モノにするつもりだったのか? いくらなんでも一国の王女相手に無茶が過ぎるだろうに。おっさん、奴の正気を疑うわ。あー、でも馬鹿だから案外本気かも。よしんば失敗しても、「王女と密室で二人っきり」という事実があれば、なんのかんのと悪巧みしそうな気もする。風評被害をでっち上げて精神的に追い詰めるとか、普通に考えそうだわ、コレ。
 ふむ。きっとコイツはまた犯行を試みるに違いない。この手の奴は懲りないしな。
 似たような真似をして他のお嬢さん方にも被害が及ぶ恐れもある。

《自業自得だな。怨むなら己を怨めよ》

 キチンと始末しておくことに、オレは決めた。



「ムーちゃん。おわったー?」

 のそのそと戻ってきたオレにクロアが訊ねてきたので、触手を立てて「やったぜ」と意志表示をしておく。さすが、とメーサが撫でながら誉めてくれた。
 王女はそんな二人と一匹の姿に呆気にとられていた。


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