青のスーラ

月芝

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54 王都編 王家の茶会 1

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 王城は白くて立派だ。
 なんか大小の尖塔が沢山建っている。トゲトゲだ。
 城壁が立派だ。高くて厚くて強化と固定の魔法付与が施されている。強度はこれまで見た中でもダントツだろう。
 建物も立派だ。柱の一本一本に精緻な彫り物が施されてある。石材にも城壁同様の処理が為されてある。廊下がやたらと長いし、扉の数も一杯だ。いったいいくつの部屋があるのやら。
 調度品も立派だ。その辺の壁に飾ってある絵や置物も、まとっている雰囲気がただ者じゃない。きっと触れると懐が大怪我する。敷いてあるモノはふかふかで子供の足にはいささか歩きにくかろう。下を通る度に、落ちてこないか不安になる大きさのシャンデリアが、そこかしこにぶら下がっている。よくも天井が抜けないものだな。

 案内役のメイドは獣人のお姉さんだった。
 キツネ系の美人さん。歩く度に目の前で揺られる尻尾にクロアもオレも釘づけ。
 左右にゆらりと動くフサフサ。手入れが行き届いているらしく、毛は艶を帯びている。
 よっぽど夢中になっていたらしい。気がついたときには茶会の会場に到着していた。

 王城内の庭の一つを開放されてのお茶会。
 すでに結構な数の子供たちの姿あった。みな思い思いに着飾られている。
 服装を見れば家格も丸わかり。いいとこの子は高いモノを身につけている。ただし似合っているかどうかはまた別の話。安易に財力に走った結果はとても残念。ほどほどの品でも、見事に調和のとれた着こなしもチラホラ見られ、この辺は保護者らの腕の見せどころか。
 ふむ。金はなくとも知恵を絞る姿勢は大層好ましい。あの子らの家は一応記憶に留めておくとしよう。後々にクロアのよき友人になってくれるかもしれないからな。
 事前情報によると今回は五十人前後が参加。
 今年はまだ楽なほうで、酷いときには百を軽く超えたのだとか。その年はイベントの前後に城のメイドさんや従者らの離職率が跳ねあがったんだと。お気の毒に、よっぽど過酷で精神が耐えかねたのであろう。
 夜会とかならば入場にも身分によって順番が設けられるが、茶会は着いた客から順次入場。待たなくていい反面、調子に乗って偉い人より先に来すぎると、鼻白まれてしまうから要注意。うーん。前世の感覚が残るおっさんとしてみれば、先に来ておくのが当たり前。目上を待たせるなんて論外なのだが、どうにも貴族社会は匙加減が難しい。

 会場に着いた途端にキョロキョロするクロア。
 すぐに奥の方にお目当ての相手を見つけたようで走りだした。
 颯爽と会場を横切る金髪幼女。水玉模様のドレスの裾が優雅に揺れる。
 その姿は、さながら初夏の草原に吹く柔らかな風のよう。
 風の行先に待つのは、薄い緑色の髪をシングルドリルに整えたお嬢様。
 上品に裾をつまんで礼儀に沿った挨拶を交わす二人。

「メーサちゃん!」
「クロアちゃん!」

 きちんと挨拶を終えた幼女たちが、ヒシっと抱き合って再会を喜ぶ。
 なんとも微笑ましい光景だけど、君たちつい二十日ほど前にも領都で会ったよね? なんて言うのは野暮ってもんか。

「クロアちゃん。そのドレス可愛いねぇ」
「えへへへ。シーラさんが作ってくれたの」
「いいなぁ、わたしもほしい。とうさまにたのもうかなぁ」
「だったおそろいにしようよ」
「ソレいいね! うん。そうしよう」

 お揃いのドレスを作ろうと盛り上がる二人。
 そんな二人に周囲にいた女の子たちも、自然と会話に加わって「可愛い」「素敵」と騒いでいる。なにせクロアのドレスは、超売れっ子デザイナーのシーラさん(アラクネ)の最新モデル。おませな女の子たちは初めて見る水玉模様に、もう興味深々。
 実は目敏い城の大人たちも、早々にクロアの服には目を付けていた。見る者が見ればわかる超高級素材に、初めて見る柄。送迎の馬車からクロアが姿を現した途端に、当人も知らないところで、周囲の話題を掻っ攫っていたのである。
 そのせいか会場にて仕事をこなしつつも、聞き耳を立てているメイドさんやら従者の姿がちらほら。

 女の子らに囲まれてすっかり人気者のクロア。
 男の子のうち何人かは、こちらが気になってチラチラ見ているが、この輪に踏み込んでくる勇気はない。
 ドレスの話題がひと段落したところで、今度はオレの話題に盛り上がる。

「なんでスーラがいるの?」
「どうしてスーラをつれてるの?」
「こわくない?」
「このコ、とってもキレイ」
「うわー。とってもやわらかい」

 オレは子供らにされるがままに身をまかせた。無念無双の技能を発動。かつて石の上に半年も不動だったのは伊達じゃない。
 幼女たちにプニプニ、ツンツンされる。撫でくり回される。ギュムッと抱きつかれる。お尻に敷かれる。しかし足で踏むのはヤメなさい! オレにそんな趣味はない。

 話題がドレスやお洒落から青いスーラに移ったせいか、物欲しそうに遠巻きに眺めていてた男の子たちもチラホラと混ざってきた。初めはオズオズとしていたが、次第に調子を取り戻してきて、笑顔を見せる。
 これを機に、そこかしこで花が咲き始める会話。

《いい感じて場が温まってきたな》

 オレがそう思った矢先、水を差す邪魔者が現れる。

「きゃっ」

 小さな悲鳴が上がった。
 何事かと見てみると、そこには尻もちをついているメーサの姿。
 意地の悪い笑みを浮かべて彼女を見下ろす男の子。
 手にはシングルドリルを掴んでいる。
 何をしたのかなんて誰の目にも一目瞭然。
 男子が女子に手を上げる。それは恥ずべき行為だ。特に貴族教育をきちんと施された男子ほど、忌避感を抱く。女子にしたって、その事をよく知っている。
 当然のごとく周囲の女の子らからは非難の声が上がる。
 しかし男の子はどこ吹く風で、なんら悪びれることもない。
 可哀想なメーサはちょっと涙目だ。

「おまえはナニをしているんだ。そのテをはなせ」

 男気のある子が前に出る。
 しかしそんな彼の小さな勇気を打ち砕く言葉が発せられる。

「オレはおうじだぞ。えらいんだ。なんかもんくがあるのか」

 五歳児にしてはやや丸みを帯びすぎた体に、尊大な物言い。
 第三王子ヘリオス・ラ・パイロジウムの登場である。


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