青のスーラ

月芝

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53 王都編 別宅にて

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 ゲートが設置されていたのは、王都の少し外れとなる場所。
 さすがに中央には置けないらしい。便利だが悪用されたらヤバイからな。

 王都はとにかくデカい。人が多い。混雑する。渋滞で馬車の足止めもしょっちゅう。
 貴族特権を行使すればいいのだが、時間的に余裕があるので焦ることもない。
 クロアは外の景色を飽きることなく、ホヘーと見つめている。
 オレもクロアに抱かれる格好で同じ景色を眺めている。
 辺境のキャラトスや領都ホルンフェリスも、かなり人種の坩堝であったが、ここはそれらに輪をかけたような雑多。建築物まで多様過ぎて、およそ統一感とは無縁の街並み。そのおかげで飽きることはない。

 オレたちがお世話になるランドクレーズ本家の別宅に到着するまでには、かなり時間がかかったものの、夕方には辿り着けた。
 別宅といっても立派なお屋敷。夕陽を浴びて輝いている。明かり取り窓に色ガラスがはめ込まれており、室内もキラキラ。調度品もウチより豪華、うっかり壺でも割らないように注意せねば。
 恐ろしいことにこれでもかなり大人しい部類。近くにある本宅はすべてが倍々らしい。
 本家の当主からは滞在中は、なんなら本宅を自由に使って構わないとまで言われていたという話だが、爺がこれは断った。溜まった仕事の処理を手伝わされるのがわかっていたから。
 
「あ奴らは年寄りをなんじゃと思っておるのか」とボヤくアンケル爺。

 それだけ本家筋からも頼りにされているということ、ご愁傷様。
 別宅には専属の家人らがいるので、基本的にオレたちは上げ膳据え膳。
 前もってスーラを連れてくることも報されていたらしく、オレを見ても特に反応することもなし。さすがは王都付きの家人たち。躾けが行き届いていると感心する。
 爺はあくまでクロアの付き添いなので、今日のところはのんびり過ごす。明日からはあちこち訪問したりされたりと、そこそこに忙しい。
 エメラさんは大人しくしていない。出しゃばらない程度に別宅にて動く。
 クロアの専従メイドのルーシーさんに至ってはいつもと同じ。
 金髪幼女は三日後の茶会に向けての準備とマナーのおさらい。オレはそれをのほほんと見守る。時間があったらこっそり王都をぶらりとしにいく予定。

 夕食前にクロアと一緒に別宅内を探検。
 あちらこちらに色ガラスが用いられており、見た目にも愉しい。
 前世の教会にあったステンドガラスに似た品もあり、思わず見惚れる。
 ただこの場には絵柄みたいなモノはなかった。あるのは四角とか菱形の模様を規則的に並べただけのシンプルなもの。モザイク画とか教えたら面白いかもしれない。
 南側の庭に面したところに、サンルームみたいな部屋があった。ガラスは全部色がついてる。もう、まんま礼拝堂といった雰囲気の造り。ただし神に祈る場所ではないようで、たんなる趣味が高じて造られたお部屋。陽が差し込むと、さぞキレイなことであろう。
 あとは取り立てて目につくようなモノはなかった。
 夕食を食べるとクロアはすぐに就寝。朝からちょっと興奮していたから、疲れが出たのであろう。
 王都一日目はこうして終了した。

 翌日は朝からクロアの支度に追われてバタバタとしていた。
 すでに準備は整っているのに念には念を入れる。貴族も楽じゃない。
 有名デザイナーのシーラさん(アラクネ)に仕上げてもらった、青と白の水玉ドレスを着て、髪を梳かしバンダナで纏める。靴は黒のパンプス。一見するとシンプルながらもクロアの踏み込みに耐える逸品だ。どうやら中敷きに秘密があるようで、届けにきた職人が苦労したって言ってた。
 お気に入りの腕輪はもちろん着用。彼女はお風呂の時以外には、この加重機能付き魔道具を決して手放さない。どこまでも自分に厳しい幼女である。
 大きな姿見の前で着せ替え人形よろしく固まっているクロア。
 指示されるままに振り向いたり、ポーズを変えたり。
 どこがどう違うのか、オレにはさっぱりわからない微調整が延々と続く。
 クロアは最初から諦めているのか、どこか悟りきったような遠い目をしている。
 それに比べて元気一杯なのが世話役のルーシーさん。こんな時でもないかぎり自分の主は、なかなかイジらせてくれない。だからこれ幸いとばかりに朝から、もうイジり倒している。普段はしない髪型を試したり、アクセサリーで飾ったり、茶会に着ていく予定のないドレスを着せたりと、やりたい放題だ。
 昼食を挟み、午後の部に突入。陽が少し傾いてきた頃になってようやく解放されるクロア。
 普段からあれほど鍛錬に余念のない美幼女が、ぐったりとソファーに体を投げ出している。
 軽くイビキもかいている。まるで玄関先で酔い潰れたおっさんみたいだ。
 寝冷えをしないように、オレはそっと毛布を掛けてあげた。
 こうして王都二日目も終了した。

 お茶会当日の朝。
 クロアは元気だ。
 一晩寝たらすっかり元通り。若いって素晴らしい。
 先日とは打って変わって、幼女はやる気に満ち満ちている。
 別に王子なんてどうでもいい。彼女のお目当てはメーサだ。久しぶりに会える友達に心がはしゃぐ。もしもメーサが風邪でも引いて不参加を表明していたら、きっとクロアもここには来ていない。王都にそっぽを向いて友達の元へ、お見舞いに駆けつけたことであろう。
 そんなわけで準備万端、出陣する金髪幼女。
 オレも同伴する。大人たちはお留守番だ。
 茶会にはいかなる家も、付き添い不要。すべての面倒は主催者側がみる。
 かつては従者や保護者などの参加も認めていたが、せっかくの子供らのお披露目と交流のための場が、一転して不穏な空気に包まれるので禁止となった。
 なにより夜会や舞踏会の醜い裏側を、幼い彼らに見せるにはまだ早すぎる。

 普通ならば使い魔もペットの類もダメ。なのにオレは許された……というか向こうから是非にとお願いされた。正式な招待状まで貰った。
 そのカラクリは領都で度々行われていた茶会にある。
 初回で見事な「洗浄」技能を披露する。
 次の時には退屈している子を相手に、お手玉やリフティングを披露。百回を超えたときに拍手が巻き起こった。
 その次の時にはグズる子をホバークラフト形態の背に乗せて、会場周りを軽く流す。順番待ちの列が鈴なりとなった。
 その次の次の時にはクロアと一緒になって、トア先生直伝の即興劇を披露し、場を大いに盛り上げた。ちなみにヒーロー役はクロアでオレは仇役だ。前世のデパートの屋上でやっていたショーを参考に、触手を伸ばして手近な子供を人質に取ってみたら、人質役の子がキャッキャッと大喜び。
 こんなことを繰り返していたら評判になった。
 ちょくちょく声がかかるようになった。……主にオレがなっ!
 結婚式や宴会の余興に呼ばれたこともあったよ。
 世話になっているアンケル爺の顔を潰さない程度に応じていたところ、王家より要請がきたというわけである。
 王家主催のお茶会。
 参加するのは五歳になった貴族の子息子女。
 妙に擦れているところがあったり、斜に構えていたり、スカしていたりと、聞かん坊だったりと、色んなタイプの子供たちが集まる。とにかく大変なので、スーラの手も借りたいらしい。
 王家からの手紙の差出人はファチナ・ラ・パイロジウムとなっていた。
 この国の第一王女である。弱冠十二歳という話だが、そんな娘から懇願されてはアンケル爺も無下には出来ない。王族とは関わりたくないが、渋々と言った形で受けることになる。
 まぁ、オレとしてはクロアの側にいられて都合がいいけどね。
 
 そんなわけで、おっさん王家主催の茶会に突撃します。

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