青のスーラ

月芝

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49 ダウジング

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 仮面女ことフィメール・サファイア先生のヘンテコな淑女教育により、すくすく武闘派に成長しているウチのお嬢様。
 そんなクロアがちょっこっと変なことに、オレは気づいた。
 別に悪い意味じゃないぞ。
 なんていうか、こう、小首を傾げるみたいな。そんな変だ。

 ある日の午後。
 庭に彼女の姿があった。
 ロープの先に小石を結び、ぶんぶん振り回す。充分に勢いが乗ったところで、ロープを握っていた手を離す。すると小石は真っ直ぐに的へ向かって飛んでいき、見事に当る。
「いざという時、手近なモノを使って武器にしよう」というテーマの授業で教わったことを、真面目に復習している。勤勉な幼女である。
 先生によれば創意工夫でいかようにも籠城戦、ゲリラ戦を乗り切れるらしい。
 あの仮面女が一体何を想定して、教え子に教育を施しているのかを、考えるのはとっくに諦めた。考えるとこっちが疲れるだけだ。
 的までトテトテ駆けて行っては、ロープの端を掴んで戻ってくる。
 投げては取りに行くを何度も繰り返すクロア。
 百発百中の腕前。
 見学していたオレも感心していたのだが……。

 手にしたロープの挙動がおかしい。
 投げる時にではない。
 だらりと腕から下げている時の動きがおかしいのだ。
 ロープの端を手で握っている。もう一方の端には小石が結んである。
 立って持っているだけの時には、垂直に地面へとぶら下がる格好になる小石。
 その小石が風もないのに揺れている。
 前後にとか左右にぶーらぶらじゃない。
 左に円を描くようにグルグルと回る。たまに逆回転になる。
 わざとかとクロアの表情を見るも、まったく自分の手元の動きに気づいていない様子。
 無意識のうちに、そのような行動をとることもあるだろう。
 だがオレはその石の動きを見て、こう思った。

《ダウジングじゃないの、これ?》

 ダウジングとは、手にした棒や振り子の動きによって、探し物を発見できたらいいなという手法。本当に効果があるのかは知らん。オレが知っているのは、爆弾探知機と謳って詐欺を働いた事件があったということだけだ。被害金額ウン百憶円とかいうから凄まじい。

 だからオレだって信じていたわけじゃない。
 ちょっと興味を覚えただけだ。
 そこでクロアの手のロープがくるくる回る位置に目印を付けておいて、後でこっそり調べてみることにしたわけだ。
 調べたのは三か所。
 いちいち地面を掘り返したりなんてしない。バレがたら怒られるからな。主にエメラさんに。
 自分の体の一部を液状化し地面に染み込ませる。砂や土や石などを避けて進む。すぐに反応があった。なにやら埋まっている。
 幸い小さいモノなので引きずり出す。拳大程度の穴が開いてしまうが、これぐらいの穴ならば許容範囲。後でちゃんと埋め直しておく。
 二か所からは古いコインが見つかった。すっかり錆びた硬貨。見覚えがないので、今の時代のモノではないのだろう。
 残りの一か所からは、よくわからないキレイな石が出てきた。
 表面がツルツルしており、乳白色に紫の縞が混じった模様をしている。瑪瑙っぽいかも。ごく微かだが魔力も帯びている。
 とりあえず全部アイテム収納に放り込んでおいた。
 さて、この今回の調査結果を受けてオレはどう判断したらいい。まさかの全部当たり。偶然で済ませられない結果となってしまった。どうしよう……。
 悩んだ末にオレは、暫く注意深く彼女を観察し検証してみることにする。

 ちょくちょく庭で授業の復習に勤しむクロア。真面目だ。
 ある時には、ベルトで的をピシピシ打つ金髪幼女。
 これは鞭の応用か?
 またある時には、スカーフで的をギュッと絞める金髪幼女。
 ちゃんと捻じり込んで使ってやがる。殺る気まんまんだ!
 またまたあるに時は、リボンで的をスパンと切断する金髪幼女。
 えっ! 気合を入れたらダランとしていたのがキンッてなった!? すんごい切れ味!

 衝撃的な光景に、オレは当初の目的を危うく忘れそう。
 心配だからちょくちょく授業に同席していたのにもかかわらず、オレの知らない技が増えていやがる。しかも物騒なモノばかり。わざとか? わざとなのか? リボンで一刀両断って、どこの達人だよ! おっさん、ちょっとカッコいいとか思っちゃったわ。

 それにしても長物が多くないか。こっちとしてはおかげで検証が楽なので助かるけど。
 で、肝心のダウジング能力については、もはや疑いようがない。
 ベルトの先が回っていた場所を探ったら、指輪が出てきた。
 スカーフでは、壺が出てきた。中にはちょっとした金額が入っていた。誰かの埋めたヘソクリかも。
 問題はリボンの先にあったモノ。
 しばらく地面の下を探るも手ごたえなし。これはハズレかと諦めかけたときに、オレは気づいた。湿度が高まっている、心なしか温度も高い。まさかと思いつつ更に調査を進める。すると深くなるほどにそれらが増していく。

…………で、温泉を掘り当てた。

 いやー、見事な水柱が立ったねー。
 さすがに騒ぎになって家人らも駆けつけてきたよ。
 オレはドサクサに紛れて逃げた。すかさず近くの茂みに飛び込んだ。バレたら面倒だからな。
 駆けつけてきた人らの中には、執事長のクリプトさんやメイド長のエメラさん、仮面女の姿もあったが、たぶんバレてないと思う。

 こうして確定したクロアのダウジング能力。
 古銭から始まり、謎の石、指輪、金の入った壺、そして温泉。
 徐々にパワーアップしていやがる。
 コレは、そのうちとんでもない事になるかも。
 今はまだ問題ない。オレ以外の誰も、本人すらも気づいていないからな。だが何かの拍子で露見したら、間違いなく騒動になる。
 水脈や鉱脈、お宝なんぞを探し出せるご令嬢。
 まるで金の成る木だ。そんなの周囲が放っておくわけがない。かといって、せっかくの子供の才能を大人の都合で腐らすのも、どうかと思ってしまうわけで。
 とりあえずはこの情報は秘匿。なるべく側でバレないように注意しよう。


 昼夜問わずの突貫工事のおかげで、庭に立派な入浴施設が建つ。
 施工期間わずか一週間。
 屋敷に住む女性たちの強い要望を受けての無茶だ。
 陣頭指揮はメイド長のエメラさんが取った。細に密に渡る見事な采配であった。
 こうして完成した泳げるほど広い浴場にクロアも大喜び。

《よもや自分が見つけた温泉だとは思うまい》

 バタ足ではしゃぐ金髪幼女を尻目に、おっさんは湯船に浮かびほくそ笑む。

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