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11 城塞都市キャラトス
しおりを挟む冒険者が集う辺境の城塞都市キャラトス。
この街は大まかに分けて四つの地区に区分されている。
ぐるりと街を囲む城壁から城のある中央へ向かい、外側から下町、中町、上町、中央の四つが円を作っている。真上から見ると四重の円になっているわけだ。
多くの住民が下町から中町にかけて住んでおり、主要施設や各種商店などもこの中にほとんど納まっている。
中町の一部から上町へとかけては、金持ちやら身分持ちの連中が居を構えている。基本的に中央の城に近づくほど高位になっている。城は役所と領主一族の住まいを兼任している。
街中には他にも細々とした区分はあるものの、わりかし区画整備が行き届いている。主要路にはちゃんと石畳が敷かれており、上下水道完備だし、下町だからって汚いわけじゃない。それどころか貧民窟らしきものも見当たらない。
建造当初からしっかりと計画的かつ堅実に開発をしたのだろう。
オレは今この街にて数多のモンスターらが闊歩する森の中とは違った意味で、ファンタジーな世界を体感している。
なにせ通りを見渡せば人種の坩堝なのだから。
人間、エルフ、ドワーフ、獣人などが普通に歩いている。
数は少ないが下半身が蜘蛛で上半身が人間のアラクネやら、下半身が蛇で上半身が女性のラミアとかいう種族もいる。それらが一緒になって普通に暮らしている。
どうやらこの世界では、知性があり意志の疎通がとれる存在を、総じて人種としているようだ。対して凶暴だったり本能のままに行動するような迷惑な存在は、モンスターとして分類されている。
判断基準が見た目じゃなくて知能の高さ重視って、ある意味凄いよね。
いくら文明レベルが高くても、くだらない偏見と差別に塗れていた、オレの前世の世界がクソのように思えるぜ。
なおこれらの知識は街の教会にて学んだ。
神官さんの有り難い説法会にて世界の創世に纏わる話があって、そこでこんな風な内容を喋っていた。それをこっそり盗み聞いたわけだ。
他にも色々と小難しい話をしていたが、要約すると教会の教義としては「みんな仲良く」ということに尽きる。でもこれって別に博愛主義というだけじゃない。
世界にはモンスターを始めとした脅威が溢れている、だから生き残るためには他者と協力せざるを得ないのだ。そのために「みんな仲良く」が必要なのだ。味方が増えるということは、それだけ敵が減るということなのだから。
だが悲しいかな空気の読めない愚か者はどこにでもいる。
特定の種族主義だったり、特定の種族を毛嫌いしていたり、いかれた思想に染まっていたり、と他者を貶めることで自身のちっぽけなプライドを守り、悦に浸っている連中もいる。
幸いなことにオレが現在お世話になっているこの国には、その手の動きはほとんどないらしいが、他国ではまた事情が違うこともあるようだ。
とても悲しいことだと、神官さんが嘆いていたよ。
説法会が終わったら、話を聞きに来ていた子供たちにお菓子を配る神官さん。
その姿は好々爺そのもの、匂いにつられてフラフラと近寄ったオレにまでお裾分けしてくれた、なんていい人!
お菓子は素朴な味わいのする焼き菓子だった。ほのかな甘みに幸せを感じた。
街での暮らしは知識の吸収と情報の収集に終始している。
ちなみにここでもオレの存在はほとんど無視されている。
気まぐれに撫でられたり、食べ物を貰ったり、子供たちに追いかけられたりすることはあるが、概ね平穏である。たまに酔っ払いや機嫌の悪い野郎が、オレを蹴飛ばそうとすることもあるが、そんな時は体の表面をツルツルに変質させてやる。すると相手はツルっと滑ってすってんころりん、自爆するというわけだ。
そうそう。冒険者ギルド、やっぱりあったよ。
街の中央門に近い広場にある三階建ての堅牢な建物で、ちょっとした役所のよう。倉庫や解体所なんかは併設してあるが酒場なんて隣接していないし、不埒な無法者なんて見当たらない。漂う雰囲気はどこか厳格ですらある。
一階部分の受付は二十四時間営業、建物の中には資料室なるものもあった。
どうやって確認したのかって?
もちろん人気の少ない深夜に、こっそりと忍び込んだんだよ。
万能スライムボディならぬスーラボディを駆使したら壁も登れるし、紙より薄い隙間からでも入れるし、色や柄を変えてカモフラージュも出来るから侵入し放題だよ。鍵穴に体を突っ込んで硬質化したら、即席で合鍵となるから鍵のかかった扉でも引き出しでも開け放題だよ。体内に荷物をしまえるアイテム収納もあるから、その気になれば泥棒し放題だよ……いや、やらないよ。
街に来てからこっち、どんどんと開発されていく盗賊技能に、自分でも驚いている。
日中は街中にて人畜無害な呈を装い情報収集。
夜中には関係各所に忍び込んで、こっそり情報収取。
独学ながら文字の勉強も着々と進んでいる。
街には図書館や本屋に古本屋まであるから、文字の勉強には事欠かない。
何故だか言葉は聞き取れるのに文字は読めないという転生仕様に、小首を傾げつつ頑張っているおかげで、だいぶんと読めるにようになってきた。言語の学習スピードの速さについては、耳で聞き取れるというのがポイントが高いようだ。意味が理解でき、見て、聞いて、読めるというアドバンテージが効いている。この分ならば近いうちに、たいていの本は読めるようになるだろう。
とりあえずは、それまでオレはこの街に留まるつもりでいる。
おっさんは、今日もこの街で元気です。
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