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8 戦闘
しおりを挟む転生直後はノーチートかよ! 神様酷いよ! とか思っていたが、まさかの前世の記憶があること自体がチートだったとは……地味過ぎて、おっさんちょっと予想外。
ハイスペックなスライムボディに、おっさんの知能が入ったことで成立するチート、それがこのオレ。そんなオレは、今日も飽きずにせっせと自己開発に勤しんでいる。
《だって自分に何が出来て、何が出来ないか、わからないと怖いしね》
処は森の奥の開けた場所、ちょっとした草原になっており、見晴らしは良い。
オレの前にはゴリラのようなモンスターがいる。
二メートルを超える体はムキムキで、目玉が六つもある。事前の調査によって飛び道具系はないが、身体強化の魔法を使うことが判明している。肉弾戦に特化したモンスター、それが奴だ。
オレは体の一部を変形させて武器と化し、奴と対峙している。
互いの距離は十メートルほど、奴がその気になれば、三秒とかからずに距離を潰されることになる。
ちなみにオレの武器は、体の一部を長く伸ばした触手の先を、トゲトゲ玉に硬化した「スライム特製なんちゃってモーニングスター」だ。触手部分は伸縮自在どころか、軌道も変えられる優れモノ、スライムボディから繰り出される一撃は、巨木をもベッキリへし折る。
奴の六つの目は、ぶんぶんと振り回されるオレの武器を警戒して釘付け、それでも警戒しながら体内で魔力を練っている。きっとこちらの攻撃をかわして、身体強化にて一気に間合いを詰めて、勝負を決めるつもりなのだろう。
オレたちの間に一陣の風が吹いた。
木の葉が舞う。オレの射線上に一枚の葉が僅かに重なる。
そのタイミングで奴が駆け出す。
おっさんはたっぷりと遠心力を蓄えたモーニングスターを放つ。
真っ直ぐに奴の下へと飛んでいくトゲトゲ玉、トゲトゲが射線上の葉を蹴散らし進撃。
互いを繋ぐ直線上にて交差するトゲトゲ玉とゴリラの体。
トゲトゲ玉の勢いは充分、当たれは骨は砕け肉は抉れる、だがゴリラの勢いも止まらない。足を止めことなく果敢にこちらへと向かってくる。
両者が交差するその刹那、奴は上半身を強引に捻ってトゲトゲ玉をかわした。だが完全にはかわしきれない、直撃こそは避けたがトゲトゲの部分にその身を抉られた、奴の血飛沫が飛ぶ、被弾箇所は右肩、たぶんこれで奴の片腕は死んだ。しかしそれでも奴は止まらない。
片腕を犠牲にして強引に受け流されたトゲトゲ玉、オレの攻撃は虚しく奴の後方へと抜けていく。
互いの距離が三メートルを切ったところで奴が飛んだ。一息に距離を詰めてオレを葬り去るために。
瞬き一つの間にオレの目の前へと降り立った奴の顔が、ニヤリと笑ったような気がした。
ズンっと腹の底に響くような音が鳴る。奴が地面に右足を強く踏み込んだ音だ。
大地を踏みしめることで産まれた破壊のエネルギーが、足から腰、割れた腹筋を経て厚い胸板から異様に盛り上がった肩から左腕へと伝わる。一連の動作すべてが、十全のパワーを発揮するための布石、すべては必殺の一撃を放つためのもの。
オレの眼前に振り上げられる逞しい左腕、その腕の先端にある拳へと集約するかのように、見事な魔力循環が成されている。
野生の中で生き残るために磨かれた練度、気迫、共に充分過ぎる魂の籠った一撃。死神の鎌にも等しいそれを前にして、オレは、ただただ美しいと思った。
光を失い白濁した六つの瞳が空を見上げている。
地面に仰向けに倒れ、絶命している好敵手の冥福を祈ろう。
奴の額には穴が穿っている。もちろんオレがやった。
奴の最後の一撃が放たれる、まさにその瞬間、オレは魔法を放つ。
風と土とスライムボディを駆使して開発したオリジナル魔法。
なんてことはない。体で筒を作って、土で弾を作って、空気を圧縮して放つ、いわゆるエアガンの再現である。ただし魔改造をしまくっているので、威力は完全に違法レベルだ。はっきり言って本物を超えている自覚はある。
この辺のアイデアは前世の知識を参考にした。だってそうでもしないと魔法が満足に使えないんだもの。ある程度は制御できるさ、でもさっきみたいにギリギリの場面やら、咄嗟の時に「うっかり」やらかしてしまうこと度々、その度に惨事を引き起こす。環境破壊も甚だしいことに自己嫌悪に陥るほど。そこで色々と試行錯誤した結果の一つがコレだ。
いや、実際自分で作ってみてアレだが、銃って道具は武器としては本当に優秀なんだわ。
必要最小限の動作で必殺の効果が得られる。遠近ともに効力を発揮するし、周囲への被害も最小限で済む。弾のほうに魔法属性を付与すれば、敵に当たってから爆発したり、体内からブスブス焼いたりも出来るし、かなり応用が利く。
魔法付与云々を抜きにしても、前世の世界で人類が手放せなかったのも納得である。
倒れた奴の腹を裂いて、ピンポンの玉ぐらいの石を取り出す。
コレが魔力回路の心臓部、安直だがオレはコレを「魔石」と名付けた。ちょっとした宝石っぽいので、なんとなしに倒した相手からゲットするようにしている。もしかしたら後で換金とか出来たら嬉しいしな。体は基本放置、森の仲間たちが勝手に処理してくれる。 たまに綺麗な毛並みのモンスターだけ、皮を剥ぐことにしている。
ゲットした品々は自分の体内にて保存。そうそう、アイテム収納ってのが出来るようになった。これも前世の知識を参考にした。もう何でもありだなスライムボディ。
ときおりオレは自己開発の一環として、今回のように闘っている。実践に勝る特訓はない。
しかし基本的にスライムは誰にも相手にされない存在。
モンスターの前に堂々と姿を晒し「やぁやぁ、我こそは」とやったところで、露骨に無視される。無理矢理、視界の中に入っても視線をつーいと逸らされる。
これは本気で辛い、孤独が過ぎて心が痛い、まじでへこむ。
でも何でもかんでも無視されるのかといったら、そうではなかった。
こちらからちょっかいを出せば、大体やり返される。石をぶつけたら相手もムッとするし、それこそ攻撃を当てたら、怒って反撃してくる。そして先ほどのゴリラとのように死闘へと発展する。
それってヤンキーが、誰彼かまわず喧嘩を売ってるのと同じなんじゃないの?
そうだよ! 同じだよ! いい歳したおっさんが、何してんのって、自己嫌悪しまくりだよ。でも必要なことだからと、自分で自分を励ましているよ。本当は泣きたいけれど泣けない。だってスライムには目がないんだもの。
それに別に荒事ばかりに明け暮れているわけじゃないぞ。ちゃっと生活に根差した特技も、ちゃくちゃくと開発中だ。
中でも一番の自信作、それは「洗浄」だ。
どんなに汚れたモノでも、体内に取り込んでクシュクシュしたら、あら不思議! ピッカピカになっているという優れモノ。あっという間に、血糊がべったりの毛皮だって一発で綺麗に! これでどんなに頑固な油汚れでも安心、カレーうどんだって怖くない。世界中の主婦たちが感涙すること間違いあるまい。
このように我ながら自画自賛する性能ではあるのだが、目下の悩みは活躍の場がないことである。
《そういえば、この世界って人間いるの?》
今更ながら、そんな疑問を抱くおっさんなのであった。
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