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7 この世界の片隅で
しおりを挟むこの世界はドラゴンと剣と魔法とモンスターが溢れるファンタジー。
ついこの前までは、ドラゴンと魔法とモンスターが闊歩するだけのファンタジーかと考えていたのだが、先日、そこに新たに剣の要素が加わった。
森で見かけた血色の悪い緑色の肌をした小鬼みたいな連中が、盾やら剣やらを持って歩いていたからだ。アレはたぶんゴブリンとか言う奴だろう。
RPGではスライムと並んで雑魚モンスターだったはずだが、オレの勘が油断をするなと告げている。見かけたのは十人ほどの集団だったが、統制された動きで歩を進める姿は軍隊を連想させる。
これはちゃんと連携がとれるということ。リーダーの指揮の下、統率された行動を実現する集団が弱いわけがない。
モンスターの中にも群れで行動する奴らはいる。だがそれはあくまで獣レベルの狩猟本能に従ったもの。対してゴブリンの集団は知性と理詰めによる統制、うっかり敵対したら詰将棋のように死地に追い詰められて、ボコボコにされてしまうことだろう。それに個々の力だって侮れない。背丈こそ中学生程度と小柄ではあるが、剣やら斧やらの武器を携帯していることから、膂力だって人並、もしくはそれ以上と推察される。
オレは用心してその集団を遠くから観察していただけで、近寄ることはなかった。
顔を出したところで、どうせ無視されるだろうし。
オレは前世がおっさんの記憶持ちのスライム。
ドラゴンに遭遇していきなり記憶が蘇るわ、体はてんで動かないわ、凶悪なモンスターらに囲まれているかと思ったら、思いっ切り無視され続けるわ、魔法はえげつないわ、なんだか謎生物だわ、と何重苦も背負わされた状況に、すっかり慣れてきた今日この頃。
《ステータスオープン》
心の中で叫んでみるも何も現れなかった。
《スキル発動》
心の中で叫んでみるも何も起こらなかった。
《惚れっぽいヒロインはどこだ!》
心の中で叫んでみるも虚しくなるだけだった。
前世で読んだ物語を参考にして、喰った相手の能力を吸収しちゃうかなと思って、適当に倒したモンスターをもぐもぐしてみたが、変化はなかった。
魔法やら体術の開発の一環で、適当に狩りをしてみたが、いっこうにバーンと強くならない、戦闘技術は向上したがそれだけであった。
たくさん戦って経験値やらを溜めてレベルアップして進化して、ついには人型に変身できちゃう能力を得たりなどと妄想してみたが、そんな気配は毛ほどもない。鯉が竜に成り上がるなんて真似はないらしい、チッ。
確かに経験を重ねるほどに色々と巧くなる。
魔法の手加減も覚えたし、発動までの時間は劇的に速くなった、自在に変形できる体の使い方も随分と多彩になった、だがそれだけだ。
うむ。どうやらこの世界はRPGっぽい風味は満載だが、決してRPGの機能が実装されてないことが確定したな。
やはり前世で読んだ物語のようにはいかないか……、ご都合主義をちょっぴり期待していたのにコレは残念。
時間が空くと、ついつい自分の事を考えてしまう。
《ちみちみと自己開発をしておいてなんだが、オレってかなり高性能》
体の動かし方を理解してからは特に強くそう思っている。
もしかしてオレだけかとも考えたが、実は師匠も結構なスペックの持ち主。体もよく動いているし、魔力量もかなり高い。ただしやってることは能天気だが……。
ふらふらと蝶々を追いかけていたと思ったら、不意に木登りを始めたり、泉に飛び込んだり、道端の小石でパターゴルフっぽいことをしたと思ったら、せっせと芝刈りに精を出す。ゴロゴロと転がったかと思ったら、地面にべちゃあとなってじっとしている。
師匠はなんだか思いつくまま気の向くまま生きているって感じ。
そんな師匠の姿を眺めていると「もしかして自分もいずれはこうなるのかも」と、ちょっと不安になってくる。
24時間365日不眠不休で戦えるスライムボディのオレにとって、一日はとても長い。
何せ活動限界がないからだ。ひょっとしたらあるのかもしれないが、少なくとも三年以上は平気で動き続けている。この辺は今後も継続して要検証だ。
本来ならば食糧の確保や睡眠に費やす時間が余っている。
せっかくなのでその時間を有効利用するためにオレは考える。
考えて、考えて、考え抜いて、たまに師匠を観察しては、また考えてを繰り返す。
そしてオレはついに一つの結論へと至る。
『スライムはチートである』
ただし……ただし、せっかくのチートを活かすための大切なモノが足りない『残念チート』であると、こう結論付けた。
その証拠が師匠である。
まるで幼子が好奇心のままに勝手気ままに行動するのと似ている師匠。
確かにチートを有している。でもそれを活かすための知能が備わっていないのだ。
己の能力を理解していない。己の能力を活かす術を持たない、知ろうともしないし、学ぶという概念もない。
最新型の戦闘機だって、パイロットがいなければ、ただの鉄の塊。
使われることのないチートの塊。宝の持ち腐れという言葉を具現化したかのような存在。それがスライム……、これがオレが辿り着いた結論である。
なんとなくだが、たぶんきっとこれが正解。
ずっと悩んでいた問題が解けて、おっさんスッキリ。
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