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5 魔法
しおりを挟むドラゴンが空を飛び、数多のモンスターが闊歩するファンタジーなこの世界。
お約束のように魔法も存在している。
それは間違いない、だってモンスターらが普通に使っているんだから。
おっさん驚いたよ。スライムボディもぷるぷる震えたよ。
森の中の少し開けた場所にてのこと。
泉でも見かけたことのある頭に角の生えた茶色のウサギみたいなのが、自分よりもずっと大きな相手に向かって火の玉を放つんだもの。
ちなみに相手はイノシシっぽい奴ね。ムキムキで顔が鬼瓦みたいで無茶苦茶怖かった。
ウサギの角の辺りに違和感を感じて、よくよく眺めていたら、そこから力の奔流が巻き起こり、火の玉が発生して、ビューンと飛んで行く。でも悲しいかな、相手は自分の何倍もある巨体だ。攻撃はたいして効いちゃいない。
そんな様子にどうなることかとハラハラしながら眺めていたら、なんとウサギには仲間がいた、それも大勢。どうやら群れで行動するモンスターだったようだ。
群れはイノシシっぽい奴の周囲を幾重にも取り囲む。
そして始まる火の玉の波状攻撃……、いやぁ、数の暴力って凄いね。
後はもう一方的な展開でした。
こんがりローストに仕上がったイノシシもどきに、かぶりつくウサギの群れ。
わりと可愛い見た目のくせに、鼻先に皺をよせて必死になって肉を噛み千切り、くちゃくちゃ咀嚼する姿は恐怖でしかない。ちょっとした骨ぐらいならば、肉ごとバリバリ食べているし、顎の力凄いな角ウサギ。
ウサギの角付近に集まっていたアレが魔力で、繰り出された火の玉が魔法に違いあるまいと確信したオレは、それからは他のモンスターらを注意深く観察するようになる。するとみな似たような発動方法にて、魔法を繰り出していることを知った。
魔法の種類も多彩だ。地水火風に雷やら氷やらの属性攻撃を飛ばしたり、身体強化をしたり、影みたいなのを操るモンスターもいた。
なんという多種多様な生態系! さすがは異世界だと、おっさんは感服する。
さて、その魔法ではあるが、果たしてスライムである自分にも使えるのであろうか? という疑問が当然のごとく浮かぶ。なんといっても自分は誰からも相手にされない雑魚モンスター、ちょっと動けるようになったからといって、状況は変わっていない。
相変わらず誰にも相手にされていないし。
試しに正面の木に向かって「ファイアーボール」と叫んでみた。実際に声は出せないので、あくまで心の中だけで叫んだのだが、何も出なかった。ついでに「アイスランス」とか「ウインドカッター」とか「アースバレット」とかも叫んでみたが、やはり何も出なかった。
すっごく恥ずかしかった。間抜けな自分に身悶えしてゴロゴロ転がった。
気分を落ち着けてから改めて仕切り直し。
まず魔力は見えるし感じられる。初めて見てから意識するようになると、よりはっきりと視認できるようになった。体を動かすときに苦労したのが嘘のように、すんなりと出来た。 これはたぶん認識することで能力を発揮するスライムボディの恩恵であろう。
見て、感じられる、ならばと自身の魔力を調べてみたら、しっかりあった。
ちょっとホッとした。
魔力がある以上は魔法が使えないわけがない、なのに発動しない。
その原因は何だ? オレは考える。もしかしたら体を動かすときと同じで、オレの理解力が足りていないのかもしれない。自分の中で正しく認識出来ていないから発動しない。体の動かし方同様に、魔力の運用方法にも、何らかのコツのようなものがあるのかもしれない。だがここは森の中、そしてオレはスライム、親切に教えてくれるような師匠はいない。
ならば周囲から見て盗む以外に方法はない。
この日から森の中を彷徨い、モンスターの姿を追い求めては魔力の流れ、魔法の発動の瞬間や効果を、じっくりと研究観察する日々が始まる。
闘いは森のそこかしこで起こっていた。
弱肉強食の生存競争が激しいらしく、観察対象には事欠かない。
あっちでバンバン、こっちでビュンビュン、そっちでシュンシュン、色んなモンスターたちが色んな魔法を使いまくって殺し合っている。
森の奥、木陰が濃くなるほどに危険度と激しさが増していく、とはいえドラゴン級はさすがにいないので、オレはのほほんと見学に徹した、だって相手にされないし。でも油断していると流れ玉が飛んでくるので、最低限の用心はしている。
それにしても、どうやらあの泉の周囲は緩衝地帯になっているようだ。とても同じ森の中とはおもえないほど、森の奥の方は殺伐としている。
魔力を意識し、その流れを追い、ただひたすら観る、見る、看る、視る、診る、みる、ミル、みまくってみまくる。
…………で、ついに判明した。
どのモンスターにも体内に魔力が活性化している箇所がある。恐らくはそこに魔力を産み出す器官があるのだろう。
魔法を使う前段階として、その箇所の魔力が高まる。
次に魔法が放出される場所へと魔力が流れていく。その一連の動きは血液が血管の中を流れていくかのように動く。どうやら体内に魔力が流れる順路みたいなものがあるようだ。せっかくの発見なので、オレは勝手にコレを「魔力回路」と命名する。
魔力回路を経て練り上げられた魔力は、体外へと放出される。だがこの時点ではまだ、ただの魔力の塊に過ぎない。そこから魔力の塊に変化が生じる。
火の玉ならば周囲の空気を熱し、一定の温度を超えたところで発火現象が起こり、炎の玉が姿を現す。氷の玉ならば周囲の気温が下がり続け、同様に氷の玉が姿を現す。
魔法の種類はあれども、攻撃を飛ばす放出系は、どれも似たりよったりの流れを経る。
いかに魔法だからとて、瞬間的にぱっと出て、ドンというわけにはいかない。
ちゃんと魔法という現象が起こるための前段階が存在している。
もしも闘うことになったならば、この辺に注意を払い、敵の攻撃を見切る必要があるようだ。
知り得た事を踏まえて、改めて我が身をしげしげと観察する。
うむ……魔力回路ないな……というか内臓器官が一つもない。ぷるぷるボディだけだ。そういうや目も無いのにちゃんと見えるな。もう、これはアレだな。深く考えたら負けだな。スライムとはこういうものだと納得するしかない。でもこれは困った。魔力はあるのに魔力回路がない。これでは魔法が使えないのではないか。せっかく潤沢な魔力があるというのに。
そうそう、他のモンスターをじっくりと観察した結果、体内の魔力量みたいなモノを、ある程度は測れるようになった。やはり強いモンスターほど魔力も豊富な傾向にはあるが、必ずしもそれが単純な強弱の優劣を示していないところが難しい。
あのウサギみたいに個体の非力さを群れでカバーしたり、少ない魔力ながら針のような細さで貫通性を特化することで、威力をあげていたりするのもいるし、みんな生き抜くために工夫を凝らしている。
話が脱線したが、とにかくオレの魔力量はぶっちゃけ多い。もうスライムボディの中にぱんぱんに詰まっている、なのに魔法が使えない。これでは宝の持ち腐れではないか。
《コレか? コレだから雑魚扱いなのか? 誰にも相手にされないのか?》
思考は迷路へと突入し、オレは路頭に迷う。
諦めれば楽になれるよと、オレの中の悪魔が囁く。
そんな悪魔にオレは悪態をつく。
《簡単に割り切れる性格なら、前世からこっち、誰も苦労なんてしてねぇよ》
それに答えるかのように、オレの中の魔力がグルグルとうねった。
おっさんの挑戦はまだまだ続く。
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