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231 謀り

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 切っ先を天へと向けてそそり立つ、眩い光を帯びた巨大な剣。
 星斬り――勇者の序列第一位にして、歴代最強といわれているヴァシリオスの必殺技だ。剣の間合い内のすべてを薙ぎ払い、決戦の勝敗を左右する戦略兵器級の強い威力を持つ。

 一閃!

 ひと筋の光刃が疾駆し、斬り落とされたのは星骸二十三号の首であった。
 刃が届く寸前、ハッと気がつきとっさに両腕で刃を防ごうとするも、その腕ごとバッサリいった。
 両腕の肘から先と、頭部を失った星骸二十三号が両膝をつく。でも倒れることはなく、へたり込んだ態勢のままで動かなくなった。
 それを取り囲み警戒を続ける勇者隊のメンバーたち。
 一方で刎ねられた首の確認に走る者もいた。
 すみやかに星珠を回収するためだ。大きさはソフトボールぐらいだが、超高エネルギー体にて、これ一つで国ひとつの日常動力をまかなえるほどに強力である。だが、それゆえに扱いには細心の注意が必要だ。
 せっかく星骸を倒したというのに、こいつの扱いをあやまってドカン! なんてことになったら、それこそ目も当てられない。
 はずなのだけれども……

「? ない! ないぞっ、星珠がどこにも見当たらないっ」

 叫んだのは首を調べていた者である。
 とたんに現場に緊張が走った。
 そこにあるはずのモノがない。二から一を引けば残るは一にて。
 しかしながら、それならばどうして星骸二十三号はあれほど懸命に頭部を守っていたというのか?

 ――謀略っ!

 まんまと騙された。
 そのことに思い至るまでにさして時間はかからなかった。
 一同は戦慄を禁じ得ない。
 にしてもあの激しい攻防のさなか、そんな小細工を弄する余裕があっただなんて信じられない。
 賢しい星骸だとはわかっていたが、よもやこれほどまでに奸智に長けていようとは……
 だとすればいまの状況はかなりマズイことになる。
 なぜなら勇者隊の全員が足を止めては、星骸二十三号を取り囲んでいるのだから。
 これではヤツの間合い内に誘き出されたようなもの。

「いかん! すぐに散開し――」

 いち早く危機を察知し、ヴァシリオスが仲間たちに警告を発しようとしたが、その言葉が最後まで続けることはできなかった。
 切り落とされた首と両腕が同時に爆発し、周辺一帯がたちまち大炎上する。
 しかもただの火ではなかった。
 爆発にて飛び散った星骸二十三号の血肉は、増粘性のあるゼリー状にて、これが燃料となっている火は、カラダにまとわりつきなかなか消火できない。
 まるでナパーム弾のような凶悪な攻撃!

「ぎゃあぁぁあぁぁぁ」

 運悪くまともに血肉を浴びた星の勇者が生きながらに火だるまにされ、絶叫をあげた。
 仲間たちが助けようとするも、下手に近づけばたちまち飛び火、類焼して、自分も焼かれることになる。
 ばかりか、急激に広がった炎と燃焼により、付近よりごっそりと失われたのは酸素。
 これにより業火の洗礼を回避できた者も、ふっと意識を失いパタパタと倒れていく。
 酸欠による窒息、あるいは一酸化炭素中毒である。

 突如として出現した阿鼻叫喚の地獄絵図。
 その絵を描いた星骸二十三号がゆらりと立ち上がる。
 立ち上がる際に両腕の傷口から、ドッと勢いよく血が噴き出した。
 とおもったら、傷口から新たな腕がにょきっと生えた。
 再生時にまき散らした血もまた悪質な燃料にて、炎獄に火勢を添える一助となる。
 でも、首から上は変わらずそのまま。
 かわりに首の付け根、両乳房の上のちょうど鎖骨と鎖骨の間あたりに浮かびあがってきたのは女の顔であった。その額には真紅の輝き、大きなティアドロップの形をしたルビーのような宝石が埋め込まれている。
 ふたつの目に瞳はなく、暗い洞がぽっかり開いているばかり。
 口の奥、喉もまた黒かった。
 灰色をした石膏細工のような顔に生気はなく、まるでデスマスクのよう。

 星骸二十三号がふらりと動く。
 向かったのはヴァシリオスのところ。
 巨体を活かし一足飛びにて距離を詰めてから、無造作に放ったのは蹴りであった。
 大技を使った直後にて疲弊していたヴァシリオスはかわせない。
 そんな彼を守るべく前面に展開されたのは、半透明のオレンジ色をした盾である。まだ意識を保っていた勇者隊のメンバーによるもの。
 意地にて瞬時に五重もの盾を展開したのはさすがであった。
 だがしかし――

 パリン、パリン、パリン、パリン、パリン!

 星の勇者のチカラにより発現され、高い防御力を誇るはずの盾がすべて砕け散った。
 正体をあらわし本気になった星骸二十三号は止められない。
 振り抜かれた足、星骸二十三号の蹴りにより轟っと風がうなり、土煙があがり、大地が裂ける。
 直撃!
 蹴り飛ばされたヴァシリオスの身が荒野の彼方へと消えた。


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