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226 星骸二十三号

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 どぶ川の底からすくいとった汚泥を、そのまま地面にぶちまけたかのような形状をした星骸二十三号が身をよじり、ぐねぐね蠢動している。
 かとおもえば、唐突に中から腕が飛び出してきた。
 ごつごつしていない、女性のようなしなやかなフォルムの右腕。
 キレイな手だ……指先が何かを求めているのか、宙を彷徨う。
 その動きがピアノでも奏でているかのようで、とても優雅だ。
 でも、そんな腕が唐突にのびたかとおもったら、向かった先は倒れているグリズリー型の星骸のところ。
 ぐにゃりとのびたかとおもったら、グリズリー型の死体の足首をむんずと掴む。軽々と持ち上げたばかりか、これを自分の元へといっきに引き寄せる。
 死体はそのまま汚泥の中へと呑み込まれてしまった。
 直後に聞こえてきたのは、ゴリゴリ、バキリ、くちゃくちゃくちゃという咀嚼音……

 星骸が星骸を喰らっている!

 あっという間の出来事であった。
 グリズリー型の死体の近くにいた白銀のケンタウロスおよび、その場面を目撃することになった誰もがろくに反応できず。
 不気味な咀嚼音が荒野に鳴り響いている。
 その音がじょじょに小さくなっていくが、聞こえなくなる前にまたもや汚泥から腕が生えた。
 ただし、今度は二本である。
 二本の腕が各々勝手に動いては、のびた先にはオオカミ型とヘビ型の死体があって、引っ掴むなり、先ほどと同じく呑み込んでは、バリボリ、バリボリ、バリボリボリと――

 不気味で、不吉で、不快で、異様で、気味の悪い異常な光景である。
 全身から冷や汗がどっと噴き出し、肌が粟立つ。
 どう考えてもロクなことにならない。これはきっとよくないモノ……
 荒野に居合わせた誰もが予感というよりも、そんな確信を抱く。

 見かねて真っ先に動いたのは、もっとも近くにいた白銀のケンタウロスであった。
 が――動きが鈍い。精彩を欠いている。
 先の戦闘により、エネルギーを消耗しているせいだ。
 それを押してまで攻撃を強行したのは、得体の知れない星骸二十三号に危惧を覚えたからなのであろう。
 自身の蹄を蹴り砕かんばかりの勢いにて大地を踏みしめ、いっきに接近、唸りをあげては回転するドリル式のランスを振りかざし、のしかかるかのようにして力任せに突き入れる。
 けれども、手応えがおかしい?
 どころかランスまでもが、ズブズブと汚泥の中に沈んでいくではないか!
 底なし沼に突き入れたかのようにて、慌てて引き抜こうとしてもビクともせず。
 それどころか、二本の腕にて脚を掴みにきたもので、白銀のケンタウロスは急ぎ、その場を離脱することを余儀なくされた。

 星骸はこちらの世界にて顕現した直後には、存在が定まっていない。少しあやふやにて馴染むまでに時間がかかる。
 その段階でどれだけ削れるかが、のちの戦いの流れを決めるといっても過言ではない。
 だというのに、星骸二十三号はその奇異な形態ゆえに、物理攻撃がまるで効かない。
 ならばと連合軍の魔法師団が攻撃をしかけるも、これまた当たった端から汚泥に吸い込まれてしまう。
 星骸の死体や白銀のケンタウロスのランスのみならず、魔法をも喰らっている?!
 では何のために?
 そんなこと深く考えるまでもないだろう。

 現時点において攻撃は逆効果だ。相手に利するばかり。
 討伐するには存在が固定化するのを待つしかない。
 だからすぐに攻撃は中止された。
 すると星骸二十三号は食事を再開する。

 戦場に転がっている星骸二十二号の分体たちの死体へと手をのばしては、これを丸呑みしては、くちゃくちゃくちゃ……

 バキバキ噛み砕き、ゴリゴリ反芻し、ゴックンと呑み込む。

 下品な咀嚼音、悪夢のような食事はなかなか終わらない。
 星骸二十三号はグリズリー型、オオカミ型、ヘビ型、ハリネズミ型、ヤギ型ら原型を留めている死体のみならず、自爆したブタ型の飛び散った肉塊をも丹念に拾い集めては貪り喰らう。

  ☆

 こちらに見せつけるかのようにして、じっくりゆったりとした食事風景が続く。
 しかしそれをぼんやり眺めているほど、連合軍および枝垂たちは腑抜けていない。
 この後の戦いへと向けて動き出す。
 想定外のことだがしょうがない。出来うる限りにて迎撃態勢を整えるべく奔走する。
 一方で星骸二十三号にも変化があった。
 腕のみだったのが、頭が出て、胸に腹と上半身が整い、ついには腰から脚へと下半身も姿をみせた。
 その姿は巨大な女型のマネキン、灰色の肌、モデル体型にてなかなかのプロポーションながらも、顔はない。
 つるんとしたタマゴのような、のっぺらぼう。
 女型のマネキンが立ち上がるなり向かったのは残る一体のところである。どうやらお残しをする気はないらしく、きちんとライオン型もたいらげるつもりのようだ。

 ライオン型へと向かう足取りはややおぼつかない。動きがカクカクしている。
 おそらくはまだ人型のカラダや二足歩行に馴れていないせいだろう。
 遠ざかるその背中に注意を払いつつ、枝垂たちは戦闘準備を急ぐ。


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