226 / 242
226 星骸二十三号
しおりを挟むどぶ川の底からすくいとった汚泥を、そのまま地面にぶちまけたかのような形状をした星骸二十三号が身をよじり、ぐねぐね蠢動している。
かとおもえば、唐突に中から腕が飛び出してきた。
ごつごつしていない、女性のようなしなやかなフォルムの右腕。
キレイな手だ……指先が何かを求めているのか、宙を彷徨う。
その動きがピアノでも奏でているかのようで、とても優雅だ。
でも、そんな腕が唐突にのびたかとおもったら、向かった先は倒れているグリズリー型の星骸のところ。
ぐにゃりとのびたかとおもったら、グリズリー型の死体の足首をむんずと掴む。軽々と持ち上げたばかりか、これを自分の元へといっきに引き寄せる。
死体はそのまま汚泥の中へと呑み込まれてしまった。
直後に聞こえてきたのは、ゴリゴリ、バキリ、くちゃくちゃくちゃという咀嚼音……
星骸が星骸を喰らっている!
あっという間の出来事であった。
グリズリー型の死体の近くにいた白銀のケンタウロスおよび、その場面を目撃することになった誰もがろくに反応できず。
不気味な咀嚼音が荒野に鳴り響いている。
その音がじょじょに小さくなっていくが、聞こえなくなる前にまたもや汚泥から腕が生えた。
ただし、今度は二本である。
二本の腕が各々勝手に動いては、のびた先にはオオカミ型とヘビ型の死体があって、引っ掴むなり、先ほどと同じく呑み込んでは、バリボリ、バリボリ、バリボリボリと――
不気味で、不吉で、不快で、異様で、気味の悪い異常な光景である。
全身から冷や汗がどっと噴き出し、肌が粟立つ。
どう考えてもロクなことにならない。これはきっとよくないモノ……
荒野に居合わせた誰もが予感というよりも、そんな確信を抱く。
見かねて真っ先に動いたのは、もっとも近くにいた白銀のケンタウロスであった。
が――動きが鈍い。精彩を欠いている。
先の戦闘により、エネルギーを消耗しているせいだ。
それを押してまで攻撃を強行したのは、得体の知れない星骸二十三号に危惧を覚えたからなのであろう。
自身の蹄を蹴り砕かんばかりの勢いにて大地を踏みしめ、いっきに接近、唸りをあげては回転するドリル式のランスを振りかざし、のしかかるかのようにして力任せに突き入れる。
けれども、手応えがおかしい?
どころかランスまでもが、ズブズブと汚泥の中に沈んでいくではないか!
底なし沼に突き入れたかのようにて、慌てて引き抜こうとしてもビクともせず。
それどころか、二本の腕にて脚を掴みにきたもので、白銀のケンタウロスは急ぎ、その場を離脱することを余儀なくされた。
星骸はこちらの世界にて顕現した直後には、存在が定まっていない。少しあやふやにて馴染むまでに時間がかかる。
その段階でどれだけ削れるかが、のちの戦いの流れを決めるといっても過言ではない。
だというのに、星骸二十三号はその奇異な形態ゆえに、物理攻撃がまるで効かない。
ならばと連合軍の魔法師団が攻撃をしかけるも、これまた当たった端から汚泥に吸い込まれてしまう。
星骸の死体や白銀のケンタウロスのランスのみならず、魔法をも喰らっている?!
では何のために?
そんなこと深く考えるまでもないだろう。
現時点において攻撃は逆効果だ。相手に利するばかり。
討伐するには存在が固定化するのを待つしかない。
だからすぐに攻撃は中止された。
すると星骸二十三号は食事を再開する。
戦場に転がっている星骸二十二号の分体たちの死体へと手をのばしては、これを丸呑みしては、くちゃくちゃくちゃ……
バキバキ噛み砕き、ゴリゴリ反芻し、ゴックンと呑み込む。
下品な咀嚼音、悪夢のような食事はなかなか終わらない。
星骸二十三号はグリズリー型、オオカミ型、ヘビ型、ハリネズミ型、ヤギ型ら原型を留めている死体のみならず、自爆したブタ型の飛び散った肉塊をも丹念に拾い集めては貪り喰らう。
☆
こちらに見せつけるかのようにして、じっくりゆったりとした食事風景が続く。
しかしそれをぼんやり眺めているほど、連合軍および枝垂たちは腑抜けていない。
この後の戦いへと向けて動き出す。
想定外のことだがしょうがない。出来うる限りにて迎撃態勢を整えるべく奔走する。
一方で星骸二十三号にも変化があった。
腕のみだったのが、頭が出て、胸に腹と上半身が整い、ついには腰から脚へと下半身も姿をみせた。
その姿は巨大な女型のマネキン、灰色の肌、モデル体型にてなかなかのプロポーションながらも、顔はない。
つるんとしたタマゴのような、のっぺらぼう。
女型のマネキンが立ち上がるなり向かったのは残る一体のところである。どうやらお残しをする気はないらしく、きちんとライオン型もたいらげるつもりのようだ。
ライオン型へと向かう足取りはややおぼつかない。動きがカクカクしている。
おそらくはまだ人型のカラダや二足歩行に馴れていないせいだろう。
遠ざかるその背中に注意を払いつつ、枝垂たちは戦闘準備を急ぐ。
1
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!
カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!!
祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。
「よし、とりあえず叩いてみよう!!」
ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。
※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!

天才ピアニストでヴァイオリニストの二刀流の俺が死んだと思ったら異世界に飛ばされたので,世界最高の音楽を異世界で奏でてみた結果
yuraaaaaaa
ファンタジー
国際ショパンコンクール日本人初優勝。若手ピアニストの頂点に立った斎藤奏。世界中でリサイタルに呼ばれ,ワールドツアーの移動中の飛行機で突如事故に遭い墜落し死亡した。はずだった。目覚めるとそこは知らない場所で知らない土地だった。夢なのか? 現実なのか? 右手には相棒のヴァイオリンケースとヴァイオリンが……
知らない生物に追いかけられ見たこともない人に助けられた。命の恩人達に俺はお礼として音楽を奏でた。この世界では俺が奏でる楽器も音楽も知らないようだった。俺の音楽に引き寄せられ現れたのは伝説の生物黒竜。俺は突然黒竜と契約を交わす事に。黒竜と行動を共にし,街へと到着する。
街のとある酒場の端っこになんと,ピアノを見つける。聞くと伝説の冒険者が残した遺物だという。俺はピアノの存在を知らない世界でピアノを演奏をする。久々に弾いたピアノの音に俺は魂が震えた。異世界✖クラシック音楽という異色の冒険物語が今始まる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この作品は,小説家になろう,カクヨムにも掲載しています。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。

俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる