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222 右翼の戦い
しおりを挟むギュルギュルギュルギュル……
高速回転にて地表に充ちていた爆煙をかき回し、渦を巻いていたのは右翼にいたハリネズミ型の星骸である。我が身を丸めては激しく回転させ、そのまま体当たりで向かってくる者たちを蹴散らそうとする。ときにはその針を撃ち出す。
針といっても一本一本が電信柱よりも大きい。そんなものが次々と飛んでくる。
避けるのに必死になっていたら、間髪入れずに本体が突撃してくる。
これに対するのは騎竜に乗った勇者隊だ。
星の勇者たちのなかでも選りすぐりの猛者ぞろいにて、対星骸戦の経験者たち。
とはいえ生身の人間なので、いかに召喚時の恩恵にて身体を強化されているとはいえ、敵の攻撃が当たれば即死をまぬがれないだろう。
ただし、当たればの話だけれども……
ハリネズミ型の攻撃により、巨大な針が周囲にばらまかれる。
いかに騎竜の動きが機敏とはいえ、煙により視界が悪い中、突然にして煙の向こうから鋭い先端が突き出てくるのでは、さすがに対処しきれない。
が、あわやというところで、出現した半透明のオレンジ色をした盾が攻撃を防ぐ。
勇者隊のうちの誰かの星のチカラだ。まるでギリシャ神話に登場する神の防具のごとき形にて、それが瞬時に二重三重にと展開されては仲間たちを守る。
かとおもえば、どこからともなくあらわれた不動明王のような存在が星骸の放った針をむんずと掴んでは、これを力任せにベキリとへし折ったりもする。
守護霊とか守護精霊みたいなモノを召喚する能力であろうか?
星の勇者のチカラについて――宿るスキルはおおまかに二系統にわかれている。
ひとつは火や氷に土といったものを操る、ギガラニカの魔法に準拠したもの。
いまひとつは枝垂の「梅」のように特殊なもの。
前者は汎用性があり、似ているがゆえに育成しやすいというメリットがある。
発展次第では上位互換となりうる。
だが一方では優れた魔法の遣い手と変わらないと言えなくもない。
後者に関しては判断が難しいところ。
特化といえば聞こえはいいが、良くも悪くも癖が強すぎる。
しかしいかに癖が強くとも使い道が明確ならば話は別だ。
それこそいま戦っている勇者隊の面々のように。
☆
右翼での戦い。
地水火風光闇、いろんな属性の魔法が飛び交い、剣戟が鳴り響く。
ハリネズミ型の星骸と勇者隊との衝突が続くさなかのこと。
ギュルギュルギュ……ル……ギュ……ギュギュ…………ギギ……ギ……
急にハリネズミ型の動きが鈍くなった。
あれほど激しく回転しては縦横無尽に暴れていたというのに、その勢いがみるみる衰えていき、ついには回転そのものが止まってしまった。
みれば、全身にねちゃりとした液体がまとわりついては、いくつも糸をひいているではないか?!
……そういえば攻防の中で、勇者隊のとある女性が、せっせと水弾みたいなのをぶつけていた。
てっきり水属性の魔法の遣い手なのかとおもいきや、じつはそうではなかった。
一見すると水に見えていたソレは、粘性を持った特殊な液体にて、邪険に払おうとすればするほどに伸縮しては、より粘性を増しこびりつく。
そんなシロモノをいくつももらったハリネズミ型は、ついにこれに絡めとられてしまったのだ。
地味だがなにげにおそろしいチカラである。
それこそ顔面とかに喰らって鼻や口を塞がれたら即終了。
ばかりか、このチカラは敵味方を識別する。
勇者たちにとってはただの水にて、星骸にのみ厭らしい能力を発揮する。
逃れようにも、動くほどにかき混ぜた納豆みたいに糸をひき、執拗にまとわりついてくるのだからおそろしい。
ついに球体を保っていられなくなったハリネズミ型が、丸めていた背をのばす。
これによりいままで隠されていた顔や腹部などがあらわとなる。
針に覆われた頑強な鎧のごとき背面部に比べて、前面部は毛皮こそあるが裸にも等しい。
すかさず勇者隊の猛攻が集中したもので、ハリネズミ型があわててふたたび丸まって身を守ろうとするも、そうはさせない。
脚を薙ぎ払われてひっくり返されてしまった。
ジタバタ足掻いては起き上がろうとするも、例の粘性のある液体のせいでままならず。
見事な連携だ。
危なげない戦いぶりにて、そろそろ右翼の戦いもケリがつきそうである。
だが――
「あれ? そういえばヴァシリオスの姿がいつのまにか消えている。いったいどこへ行ったんだ」
勇者隊を率いていたはずなのに、気がついたらいなくなっていた。
ひょっとして意図的に戦線を離脱したのか?
彼の真意はほどなくして判明する。
右翼にてハリネズミ型がいよいよ討伐されようかという段になって、突如として戦場のど真ん中に巨大な光の剣があらわれた。
天突くほどもの大きなそれは、星のチカラにより産み出されたもの。
その名を「星斬り」という。
最強の男の振るう絶刀が――斬っ!
地表の雲海もろとも、中央にいたヤギ型の星骸の首を一刀両断する。
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