星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

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221 左翼の戦い

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 オオカミ型、グリズリー型、ライオン型、ヘビ型……星骸二十二号の分体たちが四方より囲む。
 隙あらば襲いかかろうとするそれらを牽制するのは白銀のケンタウロスだ。四本腕にてランスと二刀のショートソードを巧みに操っては、間合いを詰めさせない。
 だがしかし、星骸二十二号は狡猾であった。
 白銀のケンタウロスをまんまと足止めしたところで、残りの分体――ハリネズミ型、ヤギ型、ブタ型らが目指すのは連合軍の陣地である。

 させじと本陣側も迎撃を開始。
 砲撃隊、魔法師団がすみやかに配置については、近寄らせまいとする。
 枝垂たちの乗る飛空艇ヒノハカマも空より援護する。
 一方で戦場を迂回するように地を駆っていたのはふたつの別働隊だ。

 ひとつは戦闘用ゴーレムの集団にて。従来ならば機動性に欠けるはずなのに、おもいのほかに移動が速いのは足下が戦車のキャタピラのようになっているから。荒野の悪路をモノともせずに突き進む。
 にしてもいささか強引な動きにて、とてもヒトが乗っているとはおもえない。おそらくは無人の遠隔操作タイプなのだろう。

 もうひとつは騎竜に跨った勇者隊だ。
 見事な手綱さばき、一糸乱れず動く騎竜の集団、なんら臆することなく勇猛に駆けている。それすなわち乗り手である先輩勇者らが、まったく怖じ気ついていないということ。
 人竜一体となっては進軍している。

 向かってくる三体の星骸へ、正面から集中砲火を浴びせつつ、別働隊が側面からいっきに接敵しては痛打を喰らわせる。
 本陣からの迎撃が止まるのと同時に、まず戦闘用ゴーレムの集団が左翼に位置するブタ型へと突進した。
 殺到し勢いのままにブスリと突き刺したのは大きな杭のようなもの。
 杭の端――槍でいうところの石突の部分からはチューブみたいなものがのびており、ゴーレムの腰背部の真ん中あたりに繋がっている。
 戦闘用ゴーレムたちが次々とブタ型の星骸に杭を打ち立てては、そのままヒシとはりつき離れない。
 自身に群がるゴーレムたちを嫌い、振り払おうとブタ型が暴れる。
 それによりゴーレムが破損していくも、杭は深々と突き刺さったままにて、チューブの先では四角いブラックボックスみたいなものが、まるで携帯電話のストラップのようにぷらんぷらん……

「なんだあれは?」

 戦いの状況をヒノハカマのブリッジから見ていた枝垂が訝しんでいると、答えはじきに知れた。

 ボンッ!

 鈍い爆発音が鳴ったとおもったら、四角い形状が一変して丸いボールのようになる。
 かとおもえば、すぐさまベコリクシャリとつぶれて、小さくひしゃげてしまった。
 ブラックボックスの内部で発生した爆発、生じた破壊のエネルギーが外部へと発散されることなくチューブを通じて杭へと送り込まれる。
 とどのつまり、あの杭は注射器のようなものであったのだ。

 反発力により外部からの攻撃が効きにくいのであれば、内部からとの考えなのだろう。
 その目論みは当たった。
 一つ一つの威力は弱くとも、それが数十ともなれば相当なもの。
 そんなシロモノをいっきに体内へと注入されたもので、ブタ型の身が歪に膨らんでいく。
 よほど苦しいのか、ブタ型がのたうちまわる。
 けれども大口を開けたところへ、トドメの杭が突き込まれ、そして――

「――っ! すぐに後方へさがれ」

 血相を変えた艦長の指示により、飛空艇ヒノハカマが急ぎ戦場を離脱する。
 直後にそれは起きた。

 地上に太陽が落ちてきたかのよう。
 眩い閃光が夜の闇、星々の瞬きを一掃する。
 爆風が荒野を席捲し、あとには禍々しいキノコ雲の姿があった。
 ブタ型の星骸が爆ぜたのだ。
 しかし威力が大きすぎる。おそらくあの個体はもともとそういう仕様――自爆型であったのだろうが、それにしても凄まじい……
 もしも自陣営近くにて爆発されていたらと考えるだに、ゾッとする。きっと第二十二次・星骸討伐戦は終わっていただろう。

  ☆

 艦長がいち早く危機を察知してくれたおかげで、難を逃れた飛空艇ヒノハカマであったが、それでも風を受けてかなり揺れた。
 艇内はしっちゃかめっちゃかにて、とっさにしがみつくところがなかった運の悪い乗員らは、転倒して腰をしたたかにぶつけたり、頭にコブをこさえたりした。
 枝垂は飛梅さんがしっかり抱きとめてくれたおかげで、軽く舌を噛む程度ですんだ。

 左翼にて起きた大爆発により、地表には爆煙が垂れ込めており、またもや視界不良へと陥る。
 回線も混乱しており、本陣との連絡もつかないものの、雑音まじりの通信機越しに聞こえてくる音声からして、混乱はあるもののいちおうは無事っぽい。

 まるで雲海のようにて、上空からでは地上の様子がわからない。
 かといってうかつに高度を下げて近づくのは危険なので、しばらくは現在地位から見守っていたところ、雲海の一部が波打ち、水柱ならぬ煙柱が立つ。
 場所は右翼に位置するところであった。


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