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220 分裂
しおりを挟む白銀のケンタウロスが星骸二十二号を圧倒している。
星骸が身に宿した反発力のせいで、ギガラニカ側の攻撃は通りにくい。魔法を主体として発展した文明において、魔法の威力が半減するのはかなりの不利だ。
その穴埋めのために星の勇者なんぞという存在が召喚されるのだけれども、どうやらギガラニカ側はそれだけで良しとは考えていなかったようである。
神さま頼みにて世界の命運を左右しようとはせずに、自前にて対抗手段をずっと模索していたのだ。
その答えのうちのひとつが白銀のケンタウロス……
白銀のケンタウロスのランスが星骸二十二号の胴体に突き刺さった。
逃れようと星骸二十二号が暴れるが、逃れられない。
なおも突進を続ける白銀のケンタウロスに押されるばかり。ついにはカラダを突き上げられて、足が地面より離れ浮かされた。
ジタバタもがく星骸二十二号の四肢がむなしく空を蹴る。爪を立てたり、長い首を大きく曲げては相手に喰らいつき、ひき剥そうとするも白銀のケンタウロスの甲冑がそれを阻む。
絡まった二体の異形たち。白銀のケンタウロスがランスにて星骸二十二号を串刺しにしたまま、荒野を猛然と駆け続ける。それこそこのまま荒野を引きずり回して、挽肉にでもしかねない勢いだ。
星骸の攻撃をモノともせずに、チカラにて問答無用でねじ伏せている。
これがふたつの大国が本気を出した結実……リリン姫の自信ありげなあの態度もうなづけるというもの。
――強い!
だからこのまま勇者隊の出番は回ってこないのではとおもわれたのだけれども、そうは問屋がおろさない。
なぜなら進化していたのは、こちらだけではなかったからだ。
戦況が一変したのは、ほどなくして。
ぐにゃり。
唐突に星骸二十二号のカラダがだらりと弛緩したとおもったら、首の付け根からその身が裂けていくではないか!
まるで繊維がほぐれるかのようにして、七つある首のひとつひとつが分かれては、カラダも七つに割れた。
これにより星骸二十二号はランスから逃れる。
白銀のケンタウロスが急制動をかけて足を止めふり返ったとき、荒野には七体の星骸の姿があった。
分裂した星骸二十二号、個々の大きさはひと回りほど小さくなっている。
そのせいで一見すると弱体化したように見えなくもないが、そうじゃない。
オオカミ、ヘビ、ハリネズミ、グリズリー、ヤギ、ブタ、ライオン……
人面獣身の異形たちが、一斉にゲラゲラと。
野卑た嘲笑が荒野に木霊する。
☆
七体もの星骸に囲まれた。
優勢だったのが一転して窮地に陥る。
馬体にて機動力と突進力こそが持ち味である白銀のケンタウロスが、立ち止まっていたのはほんのわずかのこと。じっとしていたら不利になるので、すぐに動き出そうとする。
けれども少しばかり遅かった。
シュルシュルシュル……
黒い雨により濡れた地面を、滑るようにして這い寄ってきたのは大蛇型の星骸だ。
これが右の後ろ脚へと絡みついたのを皮切りにして、他の個体らも躍りかかってきた。
多勢に無勢、下半身の四肢や胴体にまとわりつくことで白銀のケンタウロスを拘束する。
そうして身動きを封じたところで、前方よりハリネズミ型が丸くなっては針玉と化し転がり迫り、後方からはライオン型が爪を振りあげ襲いかかった。
いかに頑丈な甲冑を身にまとっているとはいえ、さしもの白銀のケンタウロスも七体がかりで責め立てられてはもたないだろう。
残念ながらもはやこれまで……、だというのにまだ勇者隊どころか本陣に動きがない?
飛空艇ヒノハカマのブリッジより、戦いの一部始終を目撃していた枝垂は内心で首を傾げる。
動かなかった理由は、じきに知れた。
プシュウと煙を吐きながら白銀のケンタウロスの馬体の背――鞍部に相当する箇所がガコンと開き、あらわれたのは二本の腕であった。手にはショートソードを模した武器を握っている。
これによりまず上半身の拘束を解いた白銀のケンタウロスは、すかさず手にしたランスをぶん回すのと同時に、ショートソードの二刀流にて、カラダにまとわりついていた星骸たちを打ち払う。
かくして戦いは仕切り直しとなり、しばし牽制とにらみ合いの時間へと入った。
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