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219 決戦兵器
しおりを挟む「な、なんだアレは……」
「デカいぞ!」
「戦闘用ゴーレム、なのか?」
「しかしあの形状は何だ」
「えっ、ウマ?」
上空から戦場の様子を見守っていた飛空艇ヒノハカマのブリッジがざわつく。
みんなの視線を釘付けにしていたのは自陣内のある場所だ。
クランコスタとドラゴポリスが管理していた、大きな棺桶のような鉄の箱があったところ。
シュウシュウと白煙をあげながら、箱の蓋がゆっくりと開き、なかから白銀の巨人があらわれた。
甲冑を身につけた騎士のような勇ましい姿にて、その威容にふさわしい立派なランスをたずさえているのだが、とにかく大きい。
推定六十メナレ――メナレというのはこちらの世界の長さの単位、1メナレでだいたい1メートルぐらい――ようは、列車の車両が五つ分ぐらいと同じということ!
すべてが規格外であり、なによりも目をひくのはその下半身だ。
腰から下が馬体となった半獣半人であるケンタウロス。
ギガラニカ世界に獣人はいるが、このタイプはいない。それゆえにブリッジ内は騒然としていた。
「あれが……リリン姉さまのおっしゃっていた新兵器なのね」
「なんと珍妙な。しかしあの姿がハッタリでないとすれば、相当な機動力と突進力があるとおもわれます」
「すごい、まるでアニメやゲームに登場する巨大ロボットみたいだ」
エレン姫、ジャニス、枝垂らはすっかり度肝を抜かれて目をぱちくりするばかり。
通常、ゴーレムは地属性の魔法をベースにして造られている。
形状の維持および操作には高度な地魔法の技術が必要だ。また大きくなればなるほどに維持するのに必要な魔力量が増えることと、自重による稼働域への負担もあって、実戦投入に耐えうるのはせいぜい三から五メナレ程度の大きさまで。
しかし白銀のケンタウロスは通常の機体の優に十倍以上を誇っている。
これまでの常識を覆す存在、それを可能としているのは、おそらくドラゴポリスの持つ高い魔道具造りの技術なのだろう。
ヒノハカマのブリッジ勢が驚愕していると、白銀のケンタウロスがやにわに前足を高らかにあげては棹立ちとなった。
いななきこそは聞こえないものの、変わりに低いウィーンという音がする。搭載している動力の魔道機が唸りをあげているのだ。
呼応するかのようにして、装甲の繋ぎ目にて青白いラインが光る。それに連動してポッ、ポッ、ポッと人馬体の各関節にも光が点灯していく。
まるでイルミネーションみたいだ。
「おしゃれで、カッコいいなぁ」と枝垂は感嘆するばかりであったが、エレン姫は「ウソでしょう」と絶句する。
エレン姫が顔をひきつらせたわけは、各関節にて光る輝石たちである。
どれもこれも一級品の粒ぞろいにて、かつてコウケイ国に襲来した海の大型化獣のラッコステイから回収されたモノに近しい高品質ばかり。
中央のオークションに出せば、とんでもない値がつくような輝石をふんだんにあしらった贅沢な造り、それらを御するにはより大きなチカラが必要となることより、動力部には落陽水晶体を用いているとおもわれる。
いったいいくら注ぎ込んでいるのやら、想像するだけでクラクラ眩暈がしてくる。
採算度外視のロマン超兵器の登場、にわかに沸き立つ連合軍陣営。
それらを横目に白銀のケンタウロスの前足が地につくのと同時に、今度は後ろ足が跳ねた。
とたんにその足下が盛大に爆ぜ、爆煙が巻き起こり、その巨体が勢いよく前へと飛び出す。
ランスをかまえた白銀のケンタウロスが、進路上にあったすべてを蹴散らし猛然と突き進む。向かうは星骸二十二号のところである。
ジャニスが予想した通り、凄まじい突進力であった。あっという間に自陣を飛び出し距離を詰めていく。
駆けるほどに加速していく。
それとともに手にしたランスの先端が風を巻き込みギュルギュルと高速回転を始めた。
ただのランスじゃない、ドリルだ! より貫通力と破壊力を持たせる仕様となっている。
十本の角と七つの頭を持つ獣と、白銀のケンタウロスと。
くしくも異形の四つ足同士の対決となった。
土煙をあげながら向かってくる白銀のケンタウロスに対して、これまで防戦一方であった星骸二十二号が初めて攻撃を行う。
十本の角と角の間にてバチバチと放電現象がしたとおもったら、放たれたのが雷撃である。いったん空へとあがった雷光が、途中でいくつもに分裂したとおもったら地へと降り注ぐ。
雷鳴が轟きドカン! ドカン! 次々とカミナリが一帯に落ちた。
だが白銀のケンタウロスはものともせず。稲光の下にあって勢いはいささかも衰えず。
すると星骸二十二号は、七つの顔のうち無事な五つの顔の目から灼熱の光線を放ち、獅子のごとき口からは轟々と蒼炎を吐き出した。
すべてを焼き切る熱線、蒼い炎にみえたそれは触れたモノすべてを凍らせる極寒の冷気。
これらを正面から受けることになった白銀のケンタウロスであったが、当たる瞬間にその身につけた甲冑がぶぅんと唸って小刻みに震えた。
かとおもったら熱線は表面を滑るようにしてはじかれそれて、冷気にて凍った部位がすぐさまパラパラと砕けては、なんら影響なし。
雷撃もまた地面へと放電されるばかり。
ギガラニカの叡智を結集して造られた白銀のケンタウロスは止まらない。
突進から繰り出されたドリルランス、対する星骸二十二号はならばとばかりに凶悪な爪を持つクマのような太く逞しい前足にて、これを薙ぎ倒そうとする。
だがしかし――
轟っ!
風が唸り、振り下ろされた星骸二十二号の一撃。
しかし当たる寸前にて、これをすくいあげたのは白銀のケンタウロスのランスである。
流れるような洗練された動き、見事な槍捌きであった。
遠隔操作や自動運転ではありえない反応と技能、どうやら白銀のケンタウロスには熟練したパイロットが乗り込んでいるようだ。
いなされ隙だらけとなった胴体に、ランスの切っ先が突き立つ。
ギュルギュルと回転しては、より深く大きな穴を穿とうとする攻撃に星骸二十二号が悲鳴をあげた。
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