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217 第二十二次・星骸討伐戦
しおりを挟む黒い雨が降る濃霧の中、星骸二十二号はあらわれた。
視界不良のために発見が遅れたばかりか、初動も……これでは第二十一次の時と同じではないか、よもや同じ轍を踏もうとは!
と、枝垂が焦った時のことである。
ドォオォォォォォォォォーーーーーーン!
突如として鳴り響いたのは轟音だ。
大気がビリビリと震える。
それとともに濃霧が切り裂かれた。
右の横合いより猛然と飛来したのは、ひとつの光弾であった。
(――えっ、いまの音ってば、もしかして砲撃なの?!)
枝垂が気がつくのとほぼ同時に、光弾が星骸二十二号に着弾し盛大に爆ぜた。
爆炎と爆風に包まれ星骸二十二号が身悶え、気味の悪い声をあげる。
生じた衝撃によりヤツの周囲の霧が吹き払われる。
とたんに醜怪な全貌があらわとなった。
そこへ今度は左側から飛んできた光弾がぶつかった。
かとおもえば同様の攻撃が四方八方から星骸二十二号へと殺到する。
幾筋も光の筋が中空を疾駆しては、たちまち荒野に垂れ込めていた濃霧をズタズタに切り裂き穴を穿つ。
砲撃による遠距離攻撃だ。
巨大な星骸をも押し包むほどの圧倒的火力にて、包囲殲滅を狙う。
発射音が轟いてから、実際に対象へと着弾するまで少し間があることから、かなり遠くから攻撃をしている。それも大口径と砲身長を誇る大きな砲を用いているとおもわれる。
でも、いささかおかしな話であった。
なぜなら、そのような大きな火砲が配備されているのなんて、枝垂は見ていない。
ひとつでもかなりの巨砲であろうに、それが弾幕を張るほどもの数を揃えていれば、いやがうえにも目につきそうなものなのに……
おかしいといえば、次々と飛来している光弾の軌道も奇妙であった。
飛来する射線が変化している。まるで砲台に足が生えて移動でもしているかのよう。
その段になって枝垂はあることに思い至りハッとした。
「あぁ、そうか、アレはそういうことだったのか……」
陣地のみならず、荒野をもぐるりと囲むようにしてしかれていた鉄道のレール、たんなる輸送手段だけではないとおもっていたけれども、まさかまさかである。
あのレールは超ド級の砲をたずさえた列車砲のために用意されたものであったのだ。
列車砲とは、その重量ゆえに陸上での運用がむずかしい重砲を鉄道車両に搭載し、レールの上を走らせる兵器のこと。
星骸は出現直後はまだこちらの世界に馴染んでいない。
そのため本領を発揮できず。
この初期段階にどれだけ相手の耐久力を削れるかが、今後の戦いの趨勢を大きく左右する。
かといって、相手の手の内がわからないうちに不用意に接近戦を仕掛けるのは危険だ。
だから、まずは中遠距離からの攻撃を行うのが対星骸戦の定石である。
そのために連合軍が用意していたのが多数の列車砲であったのだ。
にしても凄まじい波状攻撃である。
それこそ持ち込んだすべての弾薬を初手にて使い切るかのような勢い。命中精度も高い。
高火力により袋叩きにされて、一方的にやられるばかりの星骸二十二号こそが憐れ。
と言いたいところだけれども――
「これで倒せるような相手ならば、そもそも星の勇者なんて存在は必要ないんだよねえ」
鳴りやまぬ砲撃音、次々と放たれる弾頭が流星のごとく光の尾をひいては、空を突っ切り星骸二十二号のもとへと降り注ぐ。
その様を横目に枝垂は駆け出した。
エレン姫やジャニス、コウケイ国軍が布陣しているところへと向かい合流するためだ。
たしかに凄まじい攻撃、だがこれでケリがつくほど星骸は甘くない。
星の勇者は、地球の神とギガラニカの三女神との間で結ばれた盟約により、地球から派遣される清掃員みたいなもの。
では、どうして清掃員が必要なのかといえば、星骸が持つやっかいな因子のせいだ。
業腹なことに、星骸にはギガラニカ世界の攻撃が通りにくい。
地球とギガラニカ、平行して存在するふたつの世界……本来であれば不干渉の関係である。それどころか、まるで磁石の同極同士が互いを寄せつけないように、反発すらしている。
だからこそ無闇に近寄れないし、ちょっかいも出せなかった。
そんな世界の不文律を破り、理を越えて墜ちてくるのが星骸という存在なのである。
反磁性もしくは反発力とでもいおうか……、そんなチカラを宿している星骸は、ギガラニカにとっては相性最悪にて天敵みたいなモノ。
こちらの攻撃は効きにくい、威力が軽減される。
そのくせ向こうの攻撃はしっかり通るのだから性質が悪い。
比べて星の勇者の攻撃はよく通る。もとが同じ地球由来のおかげだ。
だからこそ勇者隊が戦線に投入されてからが本番なのである。
枝垂は仲間たちがいるところへと急ぐ。
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