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211 派生・破

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 広大なギガラニカ大陸の中央部には、近づく者がほとんどいない空白地帯が存在している。
 荒野と呼ばれる場所――
 命の気配がまるで感じられない、つねに乾いた風が吹く、赤茶けた不毛な地。
 ここにはかつて地上の楽園と謳われたパピロスペタァルという国があった。だが原始の星骸との戦いで滅んだ。
 以降、この地には星骸たちが不定期に降臨するようになり、その都度、大陸全土の命運を賭けた壮絶な迎撃戦が繰り広げられている。

 これまでにあらわれた星骸は二十一体。
 星骸の正体は、地球側からでた不用品の集合体だ。
 現在進行形で進んでいる環境破壊、日々量産され続けているゴミ、終わらぬ争い、消えぬ恨みつらみ、淀み凝り固まる負の霊的エネルギーなどなど……
 それらが寄り集まっては溜まり、巡り巡っては変質変容し、ギガラニカへと墜ちてくるのが星骸なのである。
 ゆえにいくら必死になって討伐しようとも、地球側の問題を解決しないことには、襲来が終わることはない。
 それどころか回を重ねるごとに、星骸がますます強くなっていることから、地球側の状況は良くなるどころか、むしろ悪化の一途を辿っているとおもわれる。

 星骸があらわれる前兆がある。
 天界……夜空に異変が起きるのだ。
 この兆候をいち早く察知するために存在するのが星読みの塔であった。

  ☆

 突如として天界がビキリと軋んで、ヒビが入った。
 まるで鏡に硬い石をぶつけたかのようにて、ヒビ割れが蜘蛛の巣のように、じょじょに広がり、夜空そのものが砕けていく。
 その中心部が、不意にポロリと崩れて穴があらわれた。
 星々が煌めく空にあって、そこだけ黒く塗りつぶしたかのよう。
 空の一部が欠けた?
 いや、ちがう世界を隔てる壁が壊れようとしているのだ。

 遥か天空に出現した穴、地上から見上げれば小さく見えるそれも、実際にはかなり大きいはず。
 穴の向こう側を覗き込むようにして、よくよく注視していると見えてくるのは、光る何か。
 それは目であった。
 ギョロリと動く巨大な目がこちらをじっと見ていた。

 星骸の出現時期は天体を観測することで、ある程度は予測可能。
 過去のデータから、その予兆により出現するタイプもほぼ特定できる。

 夜空が砕けるような現象である派生・破のときには、獣型の星骸が降臨する。
 夜空が裂けるような現象である派生・裂のときには、人型の星骸が降臨する。
 夜空が渦を巻くような現象である派生・渦のときには、特異型の星骸が降臨する。

 強さや討伐難易度もこの並びに順じているが、もっとも手強い特異型が出現したのは過去に二度のみ、第一次と第二十一次だけだ。
 そして観測結果から今回の降臨――第二十二次・星骸討伐戦の討伐対象は、派生・破の獣型であるとおもわれる。

 獣型は巨体で気性が荒いものの、大型禍獣の討伐に近しい戦闘内容になるので、きちんと準備さえ整えて対応すれば、さして苦労することなく倒せるはず……

『星の海に歪みあり! 派生・破、星骸来たる。各国、至急荒野に集うべし』

 天界の運行を監視する星読みの塔より警報が発せられた。
 伝令がすぐさま大陸中の国々を駆け巡った。
 だがザレックス共和国とラグール聖皇国での争乱と重なったことにより、中央はその対応に追われており、連合軍の一部もそちらに派遣されているさなかのこと。
 いかに相手が獣型の星骸とはいえ、予断を許さない。
 そんな状況下にあって、ムクラン帝国の女帝スフォルツアと連合軍から正式にコウケイ国にも出陣要請がきた。
 ロバイス王はこれを受諾した。


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