星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

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210 続報と凶報

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 中央で事変が起きた!
 大陸を牽引する五ヶ国中のうちの二ヶ国が、同時に人災に見舞われる。
 もたらされる続報を耳にするたびに、辺境にいる枝垂たちは暗鬱な表情となるのを抑えられない。

 同時多発爆破テロに襲われたザレックス共和国――
 犯行声明文が盛大にばら撒かれ、厳戒態勢のさなかにもかかわらず、犯行が散発ながら依然として継続中である。
 そのため市井には不安がはびこり民は萎縮、商業活動も遅延し、物流も滞りがちとなり、政治と経済の機能が著しく低下している。
 無事であった議員らが騒動を収束すべく奔走しているも、ままならず。

 事態をよりややこしくしているのは、現体制に不満を持つ一派の主張に同調する層がおもいのほか多かったことだ。
 ザレックス共和国が商業国家であるがゆえの功罪、ときおり富裕層が生まれる一方でつねに貧困層が増加する傾向にある。
 格差は広がるばかりにて、費やした労力が必ずしも結果に反映されず。本来であれば得られるはずの対価が理不尽な中間搾取によって、明らかに目減りしている。

 親世代の差が、子世代になって縮まるどころかさらに開き、孫世代へと……
 経済格差は教育格差にも通じ、スタートラインにて大きく差がつく。
 富める者はますます富、貧しき者はどれだけがんばっても這いあがれない。
 産まれながらにあらゆる機会に恵まれている者がいる一方で、なんのコネもない者はどれだけ足掻こうとも機会すら得られないこともままある。
 加えて星の勇者への厚遇や、連合軍への出費のために、払った税金が費やされるのだ。
 納得がいかず現状に不満を抱える者は水面下にて相当数燻っていた。それらが今回の騒動にて、いっきに噴出する。
 そのため国内情勢は不安定にて予断を許さない状況が続いている。

 ラグール聖皇国では内乱が激化の一途を辿っている。
 事態を憂いた教皇がただちに騒動の鎮圧と民の慰撫を命じたらしいのだが、託した人選が完全に失敗であった。
 八人いる枢機卿のうちの新参者――爆破テロの犠牲になったカイトリーの後釜――に、その任が下る。
 新人に花を持たせる……といえば聞こえがいいが、ようは他の枢機卿たちから面倒事を押しつけられた形だ。
 しかし新参者とて伊達にこの地位にまでのぼってきたわけじゃない。そんなことは百も承知にて、逆にこの機会を活かして己の実力と名前を国内外に知らしめてやろうという野心に燃える。

 教会の威を示すためにも迅速な解決が望ましい。
 そこで新参者は最悪の選択をした。
 あろうことか聖光騎士団を現場に投入したのである。
 聖光騎士団は教会の生え抜きで構成されており、実力、信仰心ともに群を抜いており、教会と教皇のためならば命を投げ出すことも厭わない者たち。
 教皇が「死ね」と命じれば、笑って己の首を掻き切るような連中だ。
 度を越した忠誠は狂信の裏返しである。
 いかにチカラがあろうとも、そんな連中を紛争地帯に投入すればどうなるか……

 自分たちの正義を信じて疑わない聖光騎士団にとって、教会に仇なす者たちはすべて悪である。
 慰撫するはずの民ごと、鎮圧という名の虐殺が行われた。

 これにより教会側は局所的な勝利は得るも、より大きな反発を招くことになり、結果としては己の首を絞めることになった。
 信仰は揺らぎ、人心は離れ、巷には不信感が渦巻く。
 最悪なのは王族側に大義名分を与えてしまったこと。
 これまでは王族と教会との権力闘争の延長にあった戦いが、「女神の使徒を騙る教会に虐げられし民を救う」という建て前を得たことで、王族側が俄然勢いを増す。
 また聖光騎士団の暴虐をまのあたりにしたせいで、降伏や臣従が認められないと思い込んだことにより、王族側はより強固に一致団結し手強くなった。
 それにより事態の早期収束どころか、内乱は泥沼の様相を呈していく。

 燎原の火の勢いは凄まじく、このままでは争乱は二ヶ国のみに留まらず、周辺にも波及しそう。
 ゆえに残りの五ヶ国および連合軍が介入を表明する。
 だがしかし、ザレックス共和国はこれを歓迎するも、ラグール聖皇国は拒絶した。
 三女神への信仰を軸に置いた宗教国家にて、生い立ちから在り方までいろいろと特殊で、外部からの干渉を極端に嫌う排他的なお国柄ゆえなのだろうが、「一歩でも国境線を越えれば、侵略とみなし攻撃する」と差し伸べられた手を払いのける頑なさだ。
 ならばいっそのこと王族側を支援して……という案もあったのだが、こちらはこちらで「支援は受け入れてもいいが、指図は受けぬ」と言い放つ始末。

 おそらくは内乱後を見据えての発言なのであろうが、その裏には「恩を着せられて傀儡政権にされてはたまらない。それでは意味がない。これまでと同じではないか!」との疑念が強いのであろう。教会との歪んだ関係を続けてきたせいで、疑心暗鬼がとにかくひどい。これを払拭して説得するのは至難だ。

 とはいえ、大陸は北東部の隅っこ暮らしであるコウケイ国にとっては、まだまだ対岸の火事であったのだけれども、悪い時ほど悪い事が重なるもので……

『星の海に歪みあり! 派生・破、星骸来たる。各国、至急荒野に集うべし』

 天界の運行を監視する星読みの塔より警報が発せられ、凶報を携えた伝令が大陸中の国々を駆け巡った。


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