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202 共生関係

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 どうやら枝垂たちは根本的に勘違いをしていたらしい。
 穴はふたつの世界を繋ぐ、たんなる不浄の穴なんぞではなかった。
 あれもまた赤霧であったのだ。
 以降、これを識別名称・天穴(てんけつ)とする。
 とどのつまり、ファクトリーと天穴は共生関係にあるということ!

 共生とは――
 複数種の生き物が相互関係を持ちながらいっしょに暮らすことである。
 ひと口に共生といってもいろんな利害関係がある。
 双方が利益を得る相利共生、片方のみが利益を得る片利共生、双方が利益を得ず害もない中立共生、片方のみが利益を得て片方が害を受けるばかりの寄生、片方のみが害をこくむる片害共生、互いを潰し合うのに離れられない競争。
 形態もいろいろあって、体外共生、体内共生、細胞外共生、細胞内共生がある。
 体が大きい方を宿主、小さい方を共生者という。

 ゆえに今回のケースでは、ファクトリーが宿主で天穴は共生者、そして鬼胡桃はその副産物――もしくは子どもみたいなものというわけだ。

  ☆

 たくさんの腕がのびてきては、こちらを捕えようとする。
 一ヶ所に固まっていたら危ないので、一同はすぐに散開した。

 エレン姫は距離を置きながらの魔法攻撃、風の刃にて近づいてくるものを片っ端から斬り倒す。
 飛梅さんは専用装備を着装し、これまた千切っては投げ千切って投げ。
 赤べこのフセは「ガルル」と唸っては、不気味な腕にガブリと噛みつき、そのまま食い千切る。
 枝垂はそんな仲間たちの邪魔にならぬように、サポートに徹する。

 天穴の腕に特別な能力はない。ただニョロニョロとのびてくるだけだ。あとちょっとネトネトしており油ぎっているのが気持ち悪い。
 ただし、しつこい。倒しても倒しても、次から次に生えてきてきりがない。
 このままでは埒が明かない。それにあまり時間をかけ過ぎたら、資材置き場の方でがんばってくれているジャニスたちにしわ寄せがいく。
 だからエレン姫は腕を無視して本体の方を直接攻撃しようとするも、多数の腕が邪魔をして有効打を決められず。
 ならばと飛梅さんが宙を駆けて、接近して倒そうとするも、とたんに腕たちがわらわらと群がってきて、近寄らしてもらえない。

 天穴の腕そのものは弱く、たいした攻撃手段もなく、動きもやや緩慢にて、手応えもさほどではない。
 一本二本であれば、武器を手にしたら虚弱体質の星クズの勇者でもなんとか殺れそう。
 でもそんな相手も数が揃うと、とてもやっかいとなる。
 ばかりか、戦ううちに知恵をつけたらしく、一本でダメなら二本で、二本でダメなら四本でと寄り添い互いを編み込むことで、より丈夫な腕となる術(すべ)を身につけた。
 前々から感じていたが、ファクトリーはおもいのほかに学習能力が高い。
 いまはまだこちらが優勢だが、何をきっかけにしてひょいとひっくり返されるかわかったものではない。

 そこで枝垂も参戦することにした。
 とはいえ枝垂の攻撃力は低い。無理をすれば天穴を吹き飛ばすほどの攻撃も撃てるが、やったら反動で死にかねない。
 だから枝垂はこうすることにした。

 パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 日頃からイモ畑にて、上空を素早く動き回るカーラスどもを相手にしているだけあって、枝垂の射撃の腕はとても優れている。あくまで梅干しの種を飛ばすだけならば、世界最強といっても過言ではない。
 その精密射撃でもって狙うは、ひょろ長い腕と腕との間にあるわずかな隙間だ。
 当てるのではなくて、あえてはずす。
 真の狙いはその先の天穴である。
 両手撃ちの連射にて、立て続けに飛ばされた種たちが、次々と穴の奥へと吸い込まれていったところで――

「育て梅の木、咲き誇れ梅の花!」

 星のチカラを発動し、放り込んだ種たちを一斉に開花させた。
 これにより天穴は喉をふさがれたような形となる。
 飛梅さんが投げ込んだ鉄屑でもあれほどむせていたのだから、きっと効果があるはずと枝垂は考えたのだが、その読みは当たった。
 天穴は苦しそうに輪郭をぐにゃりと歪めてはぷるぷる震え、どうにかして内部の梅の木たちを掻き出そうとするも、それもじきに止まった。
 ひと際大きくブルリと震えたとおもったら、急にすべての腕がチカラを失いだらりと垂れて、それきりとなった。
 死んだかどうかはわからないけれども、とりあえず産業廃棄物の流入も止まっており、ミッションコンプリート!

 イエ~イとエレン姫や飛梅さんと枝垂はハイタッチし、その周囲をフセが喜び駆け回る。
 けれども直後のことであった。

 ゴゴゴゴゴゴ……

 不気味な地鳴りが始まり、ファクトリーそのものが震動す。

「……なぜだかものすご~くイヤな予感がしますわ」
「おや、姫さまもですか? 奇遇ですね、僕もです」

 ふたりが顔を見合わせていると、飛梅さんもコクンうなづく。
 仲良く意見が揃ったところで、枝垂たちはすぐにお暇することにした。


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