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201 穴
しおりを挟む踏み込むのがためらわれるほどの漆黒だ。
筒状の竪穴のような空間は、部屋というにはあまりにも広く闇が濃かった。
エレン姫が魔法にて光玉を出現させては、照明代わりに放つ。
白光に照らされた足下は産業廃棄物にて埋まっていた。
ドサドサドサドサ……
闇の奥から聞こえる落下音の正体は大量のゴミたちである。
見上げた先、高い天井にぽっかりあいた大穴から、ぼたぼたと吐き出されている。
地球とギガラニカを繋ぐ不浄の穴だ。
「あの穴をはやくどうにかしないと――っ!」
もの憂げにつぶやくエレン姫に、枝垂たちもコクンとうなづこうとした矢先のことであった。
不意に視界がブレて、足下がぐわんと動く。
右へ左へ、まるでこの場所全体が身じろぎしているかのように揺れた。
ひょうしに足下の産業廃棄物たちが波打ち、たわんでうねる。
「きゃっ!」「うわっ!」
もとから四つ足のフセは平気なようであったが、エレン姫と枝垂は立っていられず這いつくばることになった。
と、そこへ横合いからどっと押し寄せたのは塵芥(ちりあくた)の高波である。
危うく呑み込まれそうになったところを、寸前にて飛梅さんがふたりを両脇に抱えて脱する。フセは波乗りの要領にてやり過ごす。
やがて竪穴の揺れが止んだ時、一面が平らにならされていた。
どうやら時折りああしてファクトリー自身が身じろぎをすることで、竪穴内部にできるでこぼこの山を崩しては、全体がかさばらないように整理をしているらしい。
その姿はまるで大食いファイターが、大食いチャレンジ中におもむろに立ち上がったかとおもったら、お腹を上下させては胃の中のモノを下へ下へと押しやり、食べ物を詰め込むスペースを確保しているかのようである。
「ふぅ、驚いた。ありがとう飛梅さん、助かったわ。なるほど、だからここには鬼胡桃たちの姿がなかったのね」
「みたいですね。にしてもまるで人間ポンプみたいな奴だ」
「人間ポンプ?」
人間ポンプとは――
金魚、電球、碁石、ガソリン……なんでも飲みこみ、吐き出す命がけの芸のことである。
たんに呑み込んだものを吐き出すゲロゲロな芸と侮るなかれ。
すごいのになると、白と黒の碁石をいくつも呑み込んでは色分けして吐き出したり、金魚を呑み込んでは釣り針にて釣りあげたり、バケツ数杯分もの大量の水を呑み込んではそれをドバドバ噴出し、消防ホースのごとく燃え盛る炎を消したり。
と、とにかくカラダをはったファンタスティックな芸なのである。
その妙技、大道芸スピリッツ、素晴らしさを力説する枝垂であったがエレン姫の反応は「へえー」と薄かった。どうやらあまり女子受けする芸事ではなかったらしい。
まぁ、それはさておき、問題は天井の穴である。
「まずはひと当てしてみましょうか」
エレン姫の提案により、飛梅さんがそこいらに落ちていた鉄屑を拾うなり、ぶぅんと思い切り穴めがけて投げた。
鉄屑が穴の中へと真っ直ぐに吸い込まれていく。
ガンッ!
強肩から放たれた鉄屑がもの凄い音を響かせた。
しかし反応がない。
だから、もう一度飛梅さんが投擲を行う。助走をつけて、より強めに勢いをつけて放つ。
ガンッ! ガガンッ!
さっきよりもずっと大きな音がした。どうやら穴の奥で反射したらしい。
すると今度は変化があった。
「がっ、ゲホッゲホッ」
穴がむせたかのように咳き込む。
まるで生きているかのような反応を示したもので、おもわずエレン姫と枝垂は顔を見合わせた。
もしも物理的な攻撃が一切効かない、不可思議な現象のような存在であれば、手の打ちようがなかった。
ベルトコンベアのところを封鎖し、外部に産業廃棄物が漏れないようにしてから、ファクトリーごと破壊するぐらいしか方法が思いつかない。
でも、こちらの攻撃が通るとなれば話は別だ。
「飛梅さんは投擲を続けてください。私も魔法で攻撃します。枝垂は周囲の警戒をお願いします。それからフセは……、ここにあるのはばっちいから食べちゃダメですよ」
言うなりエレン姫は右手人差し指を穴へと向けた。
たちまち指先がピカッと光って、放たれたのはビームである。光魔法による攻撃だ。硬い岩や鉄板をも貫く光線が照射されては、ジジジと穴の奥を焼き切る。
それを横目に、飛梅さんが矢継ぎ早やにそこいらに落ちている廃材などを投げて、投げて、投げまくる。
一方的に攻撃にさらされた穴の輪郭がぐにゃりと歪む。
それどころではないらしく、ゴミの吐き出しも止まっている。
「ぐぉぉおぉぉぉぉぉ」
という苦悶の声も聞こえてきた。
こちらの攻撃が効いている証拠だ。
だから、エレン姫はこのまま押し切ろうとしたのだけれども、その時のことであった。
穴の中からニョロニョロと姿をあらわしたのは、クラゲの触手のようなものたち。
数十、いや、優に百を越えるそれらの先端には、よくよく見てみると手が生えていた。
大量の手が一斉にこちらへとのびてくる!
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