198 / 242
198 工場迷路
しおりを挟む一つ目の落陽水晶体は難なく回収できた。大きさは六段のカラーボックスほど。あんまりにも簡単すぎてひょうし抜けしたほどである。
回収した品は枝垂の亜空間収納の「梅蔵」に放り込んでおく。
南部の丘陵地帯のファクトリーへと潜入している精鋭部隊にも、闇魔法の遣い手が同行しており、あわよくば持ち帰ろうとしているあたり、あちらもちゃっかりしている。
でも、探索が順調だったのはここまで、二つ目はうまくいかなかった。
「おかしいわね。この辺りのはずなんだけど……」
地図を返すがえす眺めては、エレン姫は首を傾げた。
隊員をふたりばかり連れて周辺の警戒にあたっていたジャニスも、戻ってくるなり「妙ですね。地図にない路地が散見しています」と報告する。
どうやら恐れていたことが起きたようだ。
ファクトリー内部の構造が変化している。
拡張? もしくはダンジョン化しているのかは不明だが、これではもう地図をあてにはできない。ここから先は自力で探すしかない。
「……しょうがありませんね。できれば不測の事態に備えて、魔力を温存しておきたかったのですが」
広大かつ複雑に入り組んだファクトリー内を、闇雲に探していては埒があかない。
そこでエレン姫は光と風の二属性魔法を発動した。
左手に光の玉が、右手に風の玉が浮かび、これを胸の前で祈るように合わせることにより頭上に出現したのは、半透明の精霊のような存在である。
複合魔法により産み出された、広域探査用の疑似精霊ウィルフス。
かつてイーヤル国の南部にある城塞都市ヴァストポリを占拠した、赤霧・残土穢の女王と対峙したときに使用したことがあった。空飛ぶ疑似精霊を放ち、視覚を共有することにより遠隔地の情報を知ることができる。
ただし、今回のは前回のよりもふた回りほど小ぶりにて、かつ数が一体から三体へと増えていた。
ジャニスが日々武芸の研鑽に励んでいる一方で、飛空艇ヒノハカマの建造にばかりかまけているとおもわれたエレン姫だが、じつは裏ではきちんと魔法の鍛錬と開発もしていたようである。
「お願い、奥の様子を見てきて」
命じられるなり、疑似精霊たちがふわりと飛んでは、三方へ散った。
こうなるとエレン姫は精霊たちの操作に集中することになり、一歩も動けなくなる。
枝垂たちはそんな彼女を警護しつつ、静かにこれを見守る。
……
…………
………………
おもいのほか時間がかかっているのは、ファクトリー内部がそれだけややこしいせいであろう。
ギュッと固く目を閉じているエレン姫、その額に珠の汗が浮かぶ。
目元に垂れる前に、さっとハンカチで拭ったのはジャニスだ。姫様付の近衛士の黒ヒョウ姉さんが、甲斐甲斐しく世話を焼くのを横目に、他のメンバーたちは周囲に目を光らせ、耳を澄まし、わずかな異変も見逃すまいと注意する。
ほどなくして、エレン姫がカッと目を見開いては「ぷはぁ」と大きく息を吐いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……あぁ、キツイ。くらくらして目が回りそう。でも苦労したかいはあったわ。見つけた。でも西北の方のがやっかいかも。それにちょっと気になるものも……」
落陽水晶体、ひとつは西南の方角を進んだ先の地下道の奥にある。
もうひとつは西北の方角は資材置き場のようなところにある。いくつもの瓦礫の山があって、それらがおそらくは鬼胡桃たちの素材なのだろう。
問題は、そこでは多数の鬼胡桃たちが運搬作業に従事しており、頻繁に出入りしているということ。
地下道の方はともかく、資材置き場の方での隠密行動はまず不可能にて、戦闘が勃発することはほぼ確実。
そしてこれらとは別にエレン姫が気になるといったのは、資材置き場へと通じているベルトコンベアをさかのぼっていった先であった。
ひどく空気が淀み、明かりひとつない漆黒の部屋。
竪穴のような円筒状の空間にて、そこの天井に開いた不気味な穴から、産廃物やら汚染物質がボタボタと垂れ落ちているという。まるで世界の掃き溜めような場所なのだとか。
不気味な穴があると聞いて、枝垂の顔が曇った。
どうやら悪い予感が的中してしまったらしい。
その穴こそが地球とギガラニカを繋ぐ搬入ラインなのであろう。
落陽水晶体を確保することで、その穴も活動を停止してくれたらいいのだけれども。
エレン姫の回復を待ってから、コウケイ国一行は西南にある地下道へと向かう。
道順はエレン姫がしっかり記憶しているから、迷うことはない。
あれこれ心配事は尽きないものの、まずは二つ目を手に入れなければ……
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~
厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない!
☆第4回次世代ファンタジーカップ
142位でした。ありがとう御座いました。
★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる