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196 第二フェイズ・包囲殲滅戦・天
しおりを挟むファクトリーの包囲殲滅戦において、枝垂たちは戦線に立つことはなく、飛空艇ヒノハカマにての後方支援に従事していた。
追加の支援物資を積んで向かうは、北東部の石渓地帯である。
南部の丘陵地帯の方は、平地ということもあって比較的移動が安易であるから自前の輜重兵(しちょうへい)で賄えるので、コウケイ国は石渓地帯の方を重点的に支援することになっていた。
飛空艇の運用は艦長および乗務員らが行うので、枝垂らはブリッジにて座っているだけだ。
安全な空の上にて、お茶の入ったカップ片手にのんびり歓談しているだけのお仕事は素晴らしい。
しかしながら、ゆっくりしていられたのはわずかな時間だけであった。
そろそろ現場が見えてくるはず――
という段になったもので、自然とブリッジに居た面々の視線が戦場となる石渓の方へと向けられていた矢先のこと。
突如として響いたのは「ドンっ! ドンっ! ドンっ!」という大気を震わす轟音、そこかしこにて爆発も起き、大地より砂煙が立ち昇る。
何かが降り注いだとおもったら、大量に巻き上がった砂塵が地表を埋め尽くす。
上空からでは下で何が起きているのかよくわからない。
けれども、ビンビンと伝わってくる気配が剣呑にて様子がおかしい。尋常ならざることが起きたことだけは確かであろう。
「……いったい何が起きたの?」
エレン姫のゴクリと喉を唾を呑み込む。
ジャニスや枝垂たちは事態を見極めようと地上をじっと凝視している。
でも山風が吹き、そろそろ煙が薄まって視界がもどってくるかとおもわれたところで――
「――っ、右舷回頭、急速上昇!」
艦長が叫ぶ。
操舵手は反射的にその指示に従った。
いきなり機首を巡らせ、移動速度をあげたもので、ブリッジ内にて小さな悲鳴があがった。
乱暴な運転である。
だが、誰も文句は言わなかった。
なぜならこの急制動に前後して、飛空艇近くにて爆発が発生したからである。
地上からの砲撃!
みんなの視線が地上の味方勢の方へと釘付けとなっているさなか、飛空艇へと迫る危機にいち早く気がついた艦長のおかげで、どうにか直撃を回避する。
そして自分たちが狙われたことにより、おぼろげながら地上の現状を理解した。
現在、地上部隊はファクトリーからの砲撃をモロに受けて壊滅状態にある。
さらには追撃の敵勢が、すぐ間近にまで迫ってくるではないか。
このままでは戦線が瓦解し被害が甚大となる。
待ったなしの惨状を目の当たりにして、エレン姫はすみやかに決断する。
「いけますか艦長?」
エレン姫の言葉に艦長は黙ってうなづく。
これにより飛空艇ヒノハカマは急遽参戦、ファクトリーへの絨毯爆撃を敢行することとなった。
全滅の憂き目だけはなんとしても避けなければならない。
もはや落陽水晶体にかまっている余裕はない。運がよければ瓦礫の下からひとつかふたつ、欠片ぐらいは回収できるであろう。
飛空艇ヒノハカマが意気込み突っ込んでいく。
が、ファクトリーに近寄れない!
幾筋もの射線が空を切り裂き、雲に穴を穿つ。
もの凄い対空砲火を浴びて、飛空艇は慌てて引き返すハメとなった。
ならばと高々度からの爆撃を試みるも、落とした爆弾のほとんどが途中で撃ち落とされてしまい不発に終わる。残りは山風に煽られてまるで見当違いのところに墜ち、ファクトリーに与えられたダメージは軽微に留まる。
空の上から狙った場所に爆弾を落とすのにも、高等な技術を要する。
コウケイ国初の飛空艇、新造艦ゆえの訓練不足なのは否めない。
積んでいた爆弾もはや尽きた。
恐ろしく守りが固い。斥候部隊が簡単に潜入できたことから、ファクトリーの防衛力を見誤った。
飛空艇ヒノハカマに出来たことといったら、帰還途中に味方へと肉迫している敵勢へと向けて掃射を行い、地上部隊の逃走を手助けすることぐらい……
それでも逃走中に援護を受けられた北東部方面軍はまだマシであった。
敵勢の追撃の出足が鈍ったこともあり、被害が二割程度で済む。
悲惨であったのは南部の丘陵地帯の方だ。
なまじ落陽水晶体を早い者勝ちにしたせいで、進軍速度が速く、より敵陣深くへと入り込んでいたもので撤退が遅れた。なだらかで見通しのいい地形ゆえに、隠れてやり過ごす場所もない。
そのためじつに五割もの損害をこうむり、南部方面軍はほぼ壊滅した。
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