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195 第二フェイズ・包囲殲滅戦・地

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 各国の派遣軍は第一フェイズにおける勝利の勢いのままに、南部の丘陵地帯と北東部の石渓地帯に出現したファクトリーを討伐すべく移動する。
 対象を包囲して殲滅するにあたって、派遣軍たちは一度合流して話し合いの席を設ける。
 というのも、対象の内部には複数の落陽水晶体の存在が確認されていたからだ。

 落陽水晶体は高エネルギー体にて、市場価値が極めて高い。手に入れれば、今回の出兵費用を余裕で賄えるばかりか、お釣りが出るほどにもなる。もしも持ち帰れば、自国に多大な恩恵をもたらし、さらには己の地位もぐんと押し上げることになるだろう。
 お宝である。ぶっちゃけ喉から手が出るほどに欲しい。
 けれども、欲望に走るあまり現場で奪い合いやら、殺し合いが始まっては本末転倒であろう。挙句には扱いをあやまって、誘爆なんぞを招けば子々孫々まで非難のそしりを受けかねない。

 その協議の席にて、ゲンウッド側はそうそうに「権利を放棄する」との声明を口にした。「かわりに、申し訳ないがこれをもって応援要請の謝礼とさせてもらいたい」

 戦後には赤霧に荒らされた国内の整備をしなければならない。
 ばら撒かれた汚染物質の回収もたいへんだろう。
 それを考えれば、いかに経済成長著しいゲンウッドとはいえ、出費は極力抑えたいところ。
 ならば、なおのこと欲しがりそうなものだけど、落陽水晶体は降って湧いた泡銭みたいなものである。
 ようは目先の利よりも、のちのちに得られる多大な恩恵の方をゲンウッドは選んだということ。

 すべてはゼニーゲバルトの計算の内であった。
 でも、そんなことは各国の連中もわかっている。
 さりとて、彼らは鼻先にぶら下げられたニンジンの誘惑に抗えなかった。落陽水晶体の持つ妖しい輝きに惑わされた。
 同じように国という看板を背負う立場ながらも、派遣軍らの指揮官と摂政とでは覚悟が違う。その差が如実にあらわれたものとおもわられる。
 つねに自己保身や出世や栄光などについて固執する者と、公私に渡って国を主体に考える者と。
 どうやら疑惑の摂政という渾名は、心無いやっかみから出た言葉であるようだ。

 話し合いの結果――
 南部の丘陵地帯方面では早い者勝ちとなり、北東部の石渓地帯方面ではきちんと等分することに決まった。
 なおコウケイ国は、ゲンウッドに倣って権利を放棄した。
 前線に立っていないこともさることながら、戦後処理のゴタゴタに巻き込まれたくないというのが本音である。あとは目的があくまで第三の聖梅樹の種の調査でもあったから。これ以上、余計なことにかかわってはいられない。

  ☆

 同日同時刻に戦いの幕が切って落とされた。
 南部、北東部ともに激しい抵抗に合うも、すでに鬼胡桃の攻略法は確立されている。
 向かってくる敵勢を着実に屠りながら、全軍が歩調を合わせて、じわじわと包囲網を狭めていく。
 単に倒すだけであれば、魔導兵器の射程距離にまで近づいたところで、砲撃により榴弾の雨あられを降らせれば事足りる。
 しかし、それをやると落陽水晶体を回収できない。
 だから、真綿で首を絞めるがごとき戦運びとなったのだけれども……

 ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 不意に戦場に大きな発射音が響いた。
 音源は自陣ではなくて敵陣である。
 ファクトリー内にて煙突が傾く、突如として出現した巨大な砲塔が回頭し狙いを定め、撃ち出されたのは弾頭を模した鬼胡桃だ。
 クマのような大きな鬼胡桃が空を飛び、ひゅるひゅると白煙の尾をひきながら向かってきたとおもったら、頭上にて盛大に爆ぜた。
 とたんに一帯に降り注いだのは、鬼胡桃の体内にあった産廃物や汚染物質の球たち。

 鬼胡桃の榴弾!

 その威力の凄まじいこと。なまじ足並みを揃えたことが仇となり、大きな被害を受けた。
 無防備な頭上からの攻撃に成す術なし。予想外の反撃を受けて包囲軍は激しく狼狽する。
 しかもたんなる模倣攻撃ではなかった。
 撃ち出された弾の鬼胡桃は、空中にて自壊して上半身と下半身に分かれると、まずは下半身が盛大に爆ぜることで眼下に惨劇を引き起こす。
 一方で、その際に生じたエネルギーにより上半身をさらに奥へと飛ばし、こちらは地面へと着弾と同時に爆ぜた。
 天と地にて散弾がまき散らされることにより、被害が連鎖的に増えていき、阿鼻叫喚の地獄絵図が描かれることとなる。

 そうしてファクトリーからの長距離砲撃がようやく止まったとおもったら、すかさず敵勢が反転攻勢をしかけ、怒涛となって押し寄せてきた。
 自陣をズタボロにされたところへの追い打ち。
 かくして戦線は瓦解し、散り散りとなり逃げることしかできなかった。


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