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191 星の勇者不在
しおりを挟む散々に紛糾した末に会議で決まったのは、各々が割り振られた戦場を担当するというもの。
えっ! 戦力の分散、逐次投入はちょっと……
と、不安におもわなくはないけれど、下手に混ぜると逆に混乱し、足の引っ張り合いになってしまいかねないとの判断であった。
無理して連携をとるぐらいならば、いっそのこと互いを競わせて、せいぜい働いてもらう方がいい。
最終的な判断は、ゼニーゲバルトが下した。
みんながヘロヘロになり、喉もからからとなったタイミングで「でしたら、こうしませんか……」とやんわり提案という形をとる。
命令ではなくて、あくまでゼニーゲバルトからのお願いという風を装う。
中身はともかく外見はキレイな蟲人の女性から、上目遣いにて「頼りにしておりますわ」「なんて勇ましいのかしらん」「みなさま方におまかせてしておけば安心ですね」なんぞとおだてられて、各国の代表らはみな鼻の下をのばしていた。
にしてもゼニーゲバルトは剛柔の仮面を巧み使い分けては、思い通りにことを運んでいる。たいそうしたたかな御仁であろう。
「まったく、男ってば単純なんだから」
「ははは、まぁ、こんなものですよ」
「こういうのを『手の平のうえで転がす』っていうんだろうねえ」
エレン姫、ジャニス、枝垂らはやや呆れ顔にて。
とにもかくにも、そうとなればあとは各国の持ち場を決めて、とっとと掃討戦を始めるばかりである。
いったん方針が固まると、そこから先は速かった。
地図を眺めながら、すべてがトントン拍子に決まっていく。
いままでの無駄な時間はいったい何だったのかと叫びたくなるほどに、ちゃちゃっと決まった。
でもって、うちが担当することになったのは……
☆
コウケイ国は飛空艇の乗務員を別にすると、枝垂らを含め総勢で十九人と一匹しかいない。いかに精鋭揃いとはいえ、戦力としては物の数ではない。
かといって飛空艇ヒノハカマを最前線に投入はできない。
いろいろと兵装は積んであるが弾薬に限りがあるし、何より本艦はまだ運用し始めたばかりなのだ。そんなシロモノをいきなり激戦区に投入するとか、正気の沙汰じゃない。
だから飛空艇は兵站などの後方支援中心に運用すると、エレン姫はあらかじめ明言していた。
これに対して一部の国からは「緊急事態なのにもかかわらず、出し惜しみするのか!」との非難の声があがるも、「だったら、もしもの時には弁償してくれるのか。ちなみに建造費用はこれぐらいかかったんだけど」と金額を提示したら、とたんに黙った。
飛空艇は前線に出せない。
人数も少ない。
だから、コウケイ国一行は中央を守るゲンウッド軍の遊撃隊として動くことになった。
まぁ、それはそれでかまわないのだけれども、ちょっと気になることがある。
それは星の勇者の存在だ。
ゲンウッドにきてから、枝垂は同期をひとりも見かけていない。
イーヤル国での対赤霧戦の時には、参加した各国が連れてきていたというのにである。
それにゲンウッドの勇者も見あたらない。
この疑問にはコウケイ国一行と行動をともにする、ゲンウッド軍の将校が答えてくれた。
「あぁ、当国の星の勇者さまですか? 一度もこちらには来ていませんよ。割り当てられた方は、そのまま中央に留まって、あちらの学校で教育と訓練を受けてもらっています」
中央には星の勇者を育てる専用の学園がある。
訓練施設や各種サポート制度が充実しており、先輩の勇者たちから直接教えを受けられる。
蓄積されたノウハウをもとに作られた育成機関は、いわば勇者の超エリート校である。
卒業後は五ヶ国の紐付きとなるが、恵まれた環境にて英才教育を施されるメリットは大きい。
だからゼニーベバルトは勇者を抱える損得を秤にかけて、手間と金のかかる新米勇者のお守りを、寄り親であるムクラン帝国に丸投げしたらしい。
枝垂が連合評議会に参加したおりに、そんな国がいるとの話は耳にしていたが、それを率先して行ったのがゲンウッドであったようだ。
大国の寄り子になっている国が多い南部域では、追随し同じ選択をしたところも多く、それゆえの星の勇者の集まりの悪さであった。
というか、参加しているのは星クズの勇者の枝垂、ただひとりである。
イーヤル国での激戦を経験している枝垂らコウケイ国の面々は、この状況にぶっちゃけとても危惧を抱いている。
だから、いざともなれば飛空艇でトンズラするのもやぶさかではない。
けれども、そんな枝垂たちの考えをいち早く察していたのが、誰あろうゼニーベバルトであった。
いざ、行軍を開始する直前のことである。
エレン姫のもとにこっそり届けられた手紙には、こう書かれてあった。
『もしものときにはバルトロをお願いします』
バルトロとは彼女が摂政として支えている幼君のことだ。
逃げるときには、うちの坊ちゃんをよろしく。
ということらしい。
疑惑の摂政と呼ばれる女性だが、簡潔な文面からは嘘は感じられない。
ますますゼニーベバルトの真意がわからない。
枝垂たちは「う~ん」と首を傾げた。
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