星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

文字の大きさ
上 下
189 / 242

189 疑惑の摂政

しおりを挟む
 
 ゲンウッドは辺境の小国にて、南部域でも取り立てて目立つ存在ではなかった。
 そんな国が立て続けに凶事に見舞われたのは、いまから六年ほど前のことである。
 王太子夫妻が子宝に恵まれ、そろそろ譲位の儀を執り行おうか……というタイミングで王族が相次いで亡くなった。

 王太子一家が乗った馬車の車列が領内視察中のこと、峠道を通りかかったおりに、狂暴な禍獣と遭遇し混乱のさなか、馬車ごと谷底に落ちてしまった。一粒種の赤子は夫妻が身を呈して守ったことで無事であったが、ふたりは帰らぬ人となる。

 突然の訃報に、たいそうショックを受けた王妃は倒れてそれきりとなる。もともと心臓に不調を抱えていたのが、これによりいっきに悪化したせいであった。

 妻と息子夫婦を相次いで亡くしたものの、王は悲しみに溺れることなく毅然とした態度を崩さなかった。
 が、無理をしたのがかえってよくなかったらしい。
 次第に心身のバランスがおかしくなり、書類にて同じミスを繰り返したり、ひとりぼんやりとしていることが多くなった。心神喪失によるウツ状態にて、「これ以上、無理をさせたら……」とドクターストップがかかる。

 国のトップが不在となり、後継者も定まっていない。血統だけならば王太子夫妻の遺児なのだけれども、まだ赤子である。
 せめて王が健在のうちに後継者を指名しておけばよかったのだが、よもや自身がこうなるとはおもわなかったのだろう。
 なまじ「自分ががんばらねば」と責任感が強かったのが仇となった。

 この事態にざわついたのが、残された王族たちである。
 第二王子や、第三王子、第一王女、第二王女らおよび、各々の派閥の目の色が変わった。
 神輿にかつがれた当人らが、どれぐらい本気であったのかはわからない。
 けれども、手をのばせばすぐにでも手が届きそうなところに王座がある。
 ずっとスペア扱い、あるいは一生日陰者の冷や飯喰らいだとおもっていたところに、降って湧いたのがこのチャンス。
 国王という蠱惑には抗えず。野心がむくりとかま首をもたげる。
 もしくは焦りもあった。他の兄姉たちが我先にと動き出すのを黙っては見ていられなかったのだ。
 それに一度権力闘争が勃発した以上は、どう転んでもタダではすまない。
 よくて閑職か、国政の中心から遠ざけられての飼い殺し。
 最悪、粛清という末路も十分にありうる。
 こと権力の座が絡むとキレイごとでは済まされないのは、大国も小国もかわらない。

 誹謗中傷合戦にはじまり、互いの陣営の切り崩し、支援者集め、宮中には策謀や陰謀が渦巻き、ついには武力衝突や、暗殺騒ぎなども起きた。
 結果、生き残ったのは第三王子の陣営であった。
 最後は凶行に走る。みずからの剣で兄のみならず病床に伏せっている父親をも弑逆するという暴挙に及ぶ。
 だが、そんな第三王子も王座につくことは適わなかった。

 抗う敵勢をすべて駆逐して、やれやれ……
 いざ王座へと続く階段をのぼり始めたところで、横合いから疾駆してきたのはひと筋の銀閃である。見事な抜刀による一閃にてその首が刎ねられた。
 殺ったのは此度の血みどろの抗争からは遠ざかり、ずっと距離を置いていた第三王女ゼニーゲバルト・ウル・ゲンウッドであった。
 それが許されていたのは、ゼニーゲバルトの母親のもとの身分が城勤めのメイドであったから。
 いわゆる庶子というやつである。
 王族の末端としては認められているものの、後継者としての資格はなし。
 優秀らしいとのウワサはあれども、それを鼻にかけることもなく身の程をわきまえており、当人には野心の欠片もなく。
 ずっと従順にて後見する派閥もなかったことから、他陣営からははなからいないものと無視されていたがゆえに、お目こぼしされていた。あるいはあとでこき使おうという腹積もりだったのかもしれない。

 そんなゼニーゲバルトが突如として牙をむいた。
 彼女は血塗れの第三王子の首をむんずと掴み掲げると、声高に叫ぶ。

「この者は自分の兄や姉に妹ばかりか、父王をも手にかけた。
 だがそれはべつにかまわない。王座を巡るいざこざなんぞは、大なり小なりどこでもある話だからだ。もしもそれだけであれば、私も目をつむっていただろう。
 だが、どうしても許せんことがある。
 それはこの愚か者が、此度の争いに他国の手の者を招き入れたからだ。
 おだてられるままに、ろくに考えもせずに甘言に乗った。
 それがどれだけ自国を窮地に立たすことか! どれだけ民を危険に晒すことか!
 簒奪者であれ、やることさえやれるのならば文句は云わん。
 しかし、これは、これだけは絶対にダメだ。売国の徒だけは断じて許容できない」

 第三王子の陣営の躍進、その台頭の裏には他国からの支援があった。
 もちろん善意からの話ではない。あとでどんな無理難題を吹っかけられることかわかったものじゃない。
 ゼニーゲバルトは返す刀にて、第三王子陣営の主だった者たちを容赦なく断罪していく。
 それを可能としたのは彼女の支援者たちのおかげだ。
 彼女は王族や上位貴族らが、イス取りゲームに夢中になっている裏で、粛々と通常業務を行い国家運営を下支えしていた。
 これにより志のある城勤めの文官や、身分が低いことを理由に不遇をかこつ下士官を中心とした層より厚い信任を得ていたのである。
 派閥ではない。ゼニーゲバルトであるのならばついていくと、多くの者たちが信じたがゆえの自立的な行動であった。

 なおもゼニーベバルトは止まらない。
 勢いのままに、しぶとく生き残っていた他陣営の有力者らをひねり潰していく。
 彼女はこれを機に国を蝕む膿(うみ)をすべて排除するつもりであったのだ。
 弱っていた他陣営に、それを止めるすべはなかった。

 かくして邪魔者をすべて排除したゼニーベバルトではあったが、彼女は王位にはつかず。
 摂政となり、幼君を守り支える道を選んだ。幼君が成長したあかつきには、これを王に擁立することを公言する。
 憂国の士は、忠烈の士でもあり、そしてとても有能でもあった。
 権力闘争によりすっかり疲弊していた国力を取り戻すために、租税回避地化を敢行し多額の資金を得る一方で、中央の五ヶ国へとすり寄り、そのうちのひとつであるムクラン帝国の寄り子となることで自国の防衛を確固とした。

 多くの者たちが、ゼニーベバルトを女傑と称える。
 でも裏で口さがない者たちは疑惑の摂政と呼ぶ。
 理由は一連の出来事を通じて、もっとも利を得たのが彼女だからだ。
 機を見るに敏(びん)、勇猛にして果断な行動に迷いなし。
 その様はまるで己が思い描いた筋書き通りに、ことを運んでいるように見えなくもない。
 幼君を胸に抱きかかえ聴衆に笑顔をみせるゼニーベバルト、はたしてその真相やいかに。


しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

天才ピアニストでヴァイオリニストの二刀流の俺が死んだと思ったら異世界に飛ばされたので,世界最高の音楽を異世界で奏でてみた結果

yuraaaaaaa
ファンタジー
 国際ショパンコンクール日本人初優勝。若手ピアニストの頂点に立った斎藤奏。世界中でリサイタルに呼ばれ,ワールドツアーの移動中の飛行機で突如事故に遭い墜落し死亡した。はずだった。目覚めるとそこは知らない場所で知らない土地だった。夢なのか? 現実なのか? 右手には相棒のヴァイオリンケースとヴァイオリンが……  知らない生物に追いかけられ見たこともない人に助けられた。命の恩人達に俺はお礼として音楽を奏でた。この世界では俺が奏でる楽器も音楽も知らないようだった。俺の音楽に引き寄せられ現れたのは伝説の生物黒竜。俺は突然黒竜と契約を交わす事に。黒竜と行動を共にし,街へと到着する。    街のとある酒場の端っこになんと,ピアノを見つける。聞くと伝説の冒険者が残した遺物だという。俺はピアノの存在を知らない世界でピアノを演奏をする。久々に弾いたピアノの音に俺は魂が震えた。異世界✖クラシック音楽という異色の冒険物語が今始まる。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 この作品は,小説家になろう,カクヨムにも掲載しています。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!

カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!! 祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。 「よし、とりあえず叩いてみよう!!」 ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。 ※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

処理中です...