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187 渦中で火中

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 ゲンウッドにて赤霧が発生し、領内各地で戦闘が行われている。
 辺境の小国にとっては国家存亡の危機である。
 だが、いまのところ各地にて戦線を維持し、敵勢の侵攻は食い止められている。
 それを可能としているのは十分な戦力があるから。

 なにせゲンウッドはタックス・ヘイブンの地にて、ここを利用しているお金持ちは大勢いる。もしも国が滅んだりなんかしたら大損である。だから自国の首脳陣をガンガン突き上げては、すみやかに援軍要請に応じさせたという次第。
 が――いいことばかりじゃない。
 数や規模だけみれば立派な戦力だが、実力や装備に練度がまちまちにて、国際色豊かになり過ぎてまとまりを欠く。
 裏ではいろんな思惑も絡んでおり、この騒ぎに乗じて……
 なんて目論む輩もチラホラと。
 いわゆる船頭多くして船山に上るというやつで即席の寄せ集め、中央の連合軍のようにはいかない。

 さて、ではそんな調子でごった返しているお城にノコノコ新型の飛空艇で乗りつけたらどうなるか?
 答えは、めっちゃ好機の目にさらされて巻き込まれる。
 である。

 飛空艇ヒノハカマの存在を知るのは、本国をのぞけばムクラン帝国だけにて、しばらくはその存在を秘匿する予定であった。
 その辺の事情については寄り親である帝国から、ゲンウッド側へも事前に通達してあったはずなのに、緊急事態のせいでいきなり大勢の耳目に晒されてしまう。
 しかも援軍として派遣されてきた各国の軍隊にばっちり見られた!

「うぅ、最悪だわ! よりにもよってこんな形で新造艦のことが外部に露見してしまうだなんて。もう、いっそのこと何もかも放り出してすぐにでも引き返したい」

 今後、予想される厄介ごとを想像し、エレン姫は頭を抱えた。

「ですね。帰国したらすぐにでもロバイス王に進言して、防諜対策を見直さないといけません。いや、こうなったら暗部機関の抜本的見直しも必要かも」

 過熱するであろう諜報戦、本国に入り込む密偵対策にジャニスはしかめっ面となる。
 地球から漂流してきたタンカーのこともある。
 星クズの勇者関連の秘密も多々。
 ふらふら気軽に城へと立ち寄る天狼オウランのことや、国に多大な恵みをもたらすことから『幸福のハチノヘ』と呼ばれている巨大蜂というよき隣人のこともある。
 本土から離れた孤島ゆえに、地の理はコウケイ国側にあるが、アリエノールとラジール王太子との結婚式とかにかこつけて、使節団にまぎれてはこぞってスパイを送り込んでくることであろう。
 それらを退けつつ秘密を守るのは至難!
 各国のお歴々が集っている祝いの席の裏で、血で血を洗う抗争が勃発することは必定、さぞや苛烈な争いとなることであろう。
 これまた非常に頭の痛い問題である。

 城の者に案内された客間にて。
 うんうん唸っているエレン姫とジャニスを横目に、枝垂は出された茶を啜りながら、薄ぼんやりとこんなことを考えていた。

(ずいぶんドタバタしているし、これでは第三の聖梅樹の種の調査どころじゃないよねえ。というか、たぶん助力を求められるだろうし。
 あ~、そういえばこの国の星の勇者ってどんな人なんだろう?
 グレゴリーみたいに性格がひん曲がっていなければいいんだけど)

 グレゴリーとは、枝垂の同期にてラグール聖皇国に囲われている星の勇者である。
 道化師みたいな格好をした男にて、ひと言でいえば「いけすかない奴」だ。
 宿りし星のチカラは「隷属」というもので、これは動物や禍獣などを召喚し使役できるというもの。ヒトにも有効なのかどうかはわからない。
 問題は、そんなチカラを他者を蔑み見下げる加虐性欲の持ち主が保有しているということ。
 下衆が外道なチカラを持つとか、ちょっとシャレにならない。
 もっともそんなグレゴリーは連合評議会にて催された親善試合にて、枝垂にけちょんけちょんに負けて、おおいに面目を失った。

「……っていうか、ぜったに根に持ってるよね。なにせあの手のタイプはネチネチで執念深いから。ゆめゆめ関わらないように注意しておかないと」

 なんぞと枝垂がブツブツ独り言をしていたら、ノックの音がして扉がひらく。
 入ってきたのは小さな男の子を連れた蟲人の女性だ。
 誰かとおもえば、ゲンウッドの摂政であるゼニーゲバルト・ウル・ゲンウッドの登場に、コウケイ国一行は慌てて椅子から立ち上がり、彼女らを迎える。


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