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178 紫黒羽の凱歌
しおりを挟む第一分隊、第二分隊の襲来に合わせて、設置してある防衛兵器を起動する。
地対空種ミサイル・ピクルスシード・マークⅡ――伊達にマークⅡは冠していない。
初代は地面に埋め込んであったピクルスシードが、合図によって一斉に発射されて、飛来した敵を直下から猛射が襲いかかるというものであった。
空を飛んでは近づいてくる者たちにとっては、死角からの不意打ちのようなもの。
だから並みのカーラスどもであれば、これであらかた追い払えた。
けれども紫黒の雷姫には通用しなかった。猛スピードで飛びながら翼を畳んでは、身をすぼめることで矢となりさらに超加速、下方から打ち上げられた種らの間隙を突破してしまったのである。
そこで新型にはいくつかの改良が加えてある。
ひとつは合図から発射までのタイムラグの縮小だ。コンマ数秒の世界、でも、だからこそ刹那の攻防では重大な意味を持つ。
いまひとつは種の構造である。
一つの親種の中に小さな子種らがぎっしり詰まっており、途中で爆ぜては散開するようにした。これにより単純に真上に打ちあがるのではなくて、弾道が網の目のように拡がり、ぶつかり合っては、さらに複雑化する。ひょいと身をすぼめた程度では、とても回避できないようにしてあるのだ。
とどのつまり、通り抜けは不可ということ。
魚鱗の陣形にて突っ込んできた第一分隊は、被害甚大!
雁行の陣形にて突っ込んできた第二分隊は、半分ほどが脱落!
両者の命運を分けたのは、密集と列の差であった。
前後に長くのびていた分だけ、被害が全体に及ばなかったのである。
第一分隊はこれ以上の行軍は不可能と判断したのか、すみやかに撤退を開始する。
意地になっては闇雲に味方を死地へと向かわせない。状況がよく見えており、なおかつ冷静だ。見事な引き際にて、第一分隊を任されている個体は、かなり優秀らしい。
優れた王のもとには優れた将が集まるのは、ヒトもカーラスも同じようだ。
第二分隊は脱落した仲間たちの屍――べつに死んではおらず、打ち身やすり傷程度でピンピンしているけど戦線は離脱――を越えて攻撃を続行する。
戦力は半減したが、戦闘は継続できると第二分隊を率いる個体は判断した模様。
だからとて無謀でも無策でもないのは、その動きを見ていれば明らか。
ほんのわずかな間に陣形を建て直しては、突進力をほぼ維持したままだ。攻防のさなかの行軍中にそれをやってのける……個々の兵の練度もさることながら、率いる将もまた凄い。
つまりは、第二分隊の隊長もまた、ただの猪武者なんぞではないということ。
第一分隊は退けたが、第二分隊が止まらない!
枝垂は紫黒の雷姫にかかりきりなので、相手をしている暇がない。
そうしている間にも、ずんずん接近してくる。
やむを得ずに枝垂はとっておきの隠し玉、三枚目のカードをも切る決断を下す。
「いや、この場合はまんまと切らされたというべきか……。でも、こうなったらもう総力戦だ。梅の木案山子起動! 連中を畑に近づかせるな」
畑を囲むように植えられてあった梅の木たちが、一斉にもざわついたとおもったら、身をよじり、ブゥンブゥンと勢いよく枝を振り始めた。
ふつうは三から五メートルほどで管理されていることが多い梅の木だが、じつは十メートルほどにも育つ。この一帯に枝垂が植えたのは、背の高いものばかり。
なおかつ枝垂の梅は、花や葉や実が同時に存在している特殊なもの。
梅の木案山子――
かいつまんで説明すれば、音に反応してくねくね動くオモチャ「ダンシングフラワー」の梅の木バージョンである。
案山子と同じく設置型にて、地面に根を張っているから、その場からは一歩も動けない。かわりに枝を振って暴れては、畑に害を成そうとする者を追い払う。
戦場に桜吹雪ならぬ梅吹雪が舞う。
馥郁たる香りが薫る。
鞭のようにしなる枝がひゅんと空気を切り裂き、近寄ってきたカーラスどもをピシリパシリ、片っ端から叩き落とす。
動かぬはずの木々たちが、急に動き出したものでカーラスどもは面喰らった。その隙にさらにポコポコ張り倒す。
散る葉もまた空飛ぶ者らの邪魔をする。
ならばと高度をあげて上からの突破を試みるカーラスもいたが、そこへ飛んできたのは大きな青梅の実であった。
たわわに実った青梅は、重たくて当たるとけっこう痛い。
この調子ならば、ほどなくして第二分隊も撃退されるだろう。
だから枝垂は紫黒の雷姫にのみ集中しようとしたのだけれども、見上げた先には驚愕の光景が待ち受けていた。
「なっ!」
枝垂は絶句する。
かなり無理をして種バルカンの連射を続けることで、あらかた掃射したはずの幻影どもが、まるっと復活していたからである。
「そ、そんなバカな……」
相手の地力を見誤ったのか。なんという高燃費!
枝垂が愕然としているところに、さらなる悲劇が襲う。
天に向かってツバを吐くかのごとく、大量の種をダダダと撃ちまくったらどうなるのかなんて言わずもがなであろう。
戦場に雨が降る。
梅干しの種のゲリラ豪雨だ。
オマケに横合いから青梅が飛んできては、頭をこつんとする。
「あんぎゃあぁぁぁぁーっ!」
直後、イモ畑に枝垂の絶叫が木霊した。
☆
文字通り、自分でまいた種により枝垂は敗北した。
飛梅さんが身をていしてかばってくれたが、それでもけっこう被弾して、うつ伏せにてヒクヒク倒れている。
そんな枝垂の頭の上にふわりと落ちてきたのは、一枚のキレイな紫黒羽。
紫黒の雷姫のモノだ。
犯行声明のつもりであろうか、あるいは勝利宣言か。
カーラスたちの群れが「カァカァ」と鳴き、凱歌をあげては遠ざかっていく……
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