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177 空の幻影、地の砲火
しおりを挟むスコープ越しの逢瀬――
禍獣と化した新生・紫黒の雷姫の姿に枝垂はしばし見惚れるも、一度深呼吸をしてから引き金をひこうとする。
が、寸前にて目が合ったような気がしたとおもったら、紫黒の雷姫の姿がスコープ内から消えていた。
「気づかれた! いや、ちがう、殺気を読まれたか」
枝垂はすぐに周辺に視線を走らせ、行方を探す。
すると先ほどの位置より、右へと横滑りしているのを見つけたもので、ふたたび照準を合わせるも、とたんにまたしてもサッと逃げられた。
右へ左へ、紫黒の雷姫は一瞬にして移動する。
そのせいで狙撃のタイミングをことごとくはずされる。
このままでは翻弄されるばかり。
「ならば!」
と枝垂はあえて狙いが定まらぬままに一発種ライフルを発射!
もちろん目標に当たることはない。だが、狙いはそこじゃない。第一射は相手を脅し、真の狙撃ポイントへと誘導するためのモノだ。
猛然と飛来する梅干しの種が、紫黒の雷姫の右わきを通り過ぎる。
これを厭い、紫黒の雷姫が左側へと身を寄せる。
そこをすかさず狙い撃つ。
枝垂は第二射を発射!
射線、タイミング、ともにどんぴしゃにて、これはかわせない。
かとおもわれたのだけれども――
「なっ!」
驚きのあまり枝垂は大きく目を見開く。
狙い通りの弾道を突き進み、種は紫黒の雷姫の左翼に突き刺さるかとおもわれたのだけれども、直前にてクリンとロールしては、鮮やかにかわしたのである。
華麗なるアクロバティック飛行、だが驚くのはそれだけではなかった。
お次はこちらの番だ、とばかりに紫黒の雷姫が仕掛けてくる。
大きくループして天高く舞い上がったとおもったら、その頂点にて脱力しては、身を翻し落ちてくる。
ぱっと見にはきりもみにて墜落しているかのようだが、そうではない。
もの凄い重力と、暴れる気流、牙をむく遠心力らをねじ伏せては、支配下においての急降下を敢行しているのだ。
ぐりんぐりん回っているので、照準が合わせられない。
というか、そんな相手をスコープ越しに追っていたせいで、枝垂の目が回る。
けれども、こんなものはまだまだ序の口。
新生・紫黒の雷姫の本気はこの先にこそあった。
ブゥン……
ブゥン……
ブゥン……
ブゥン……
妙な音がかすかに聞こえたとおもったら、ひとつがふたつ、ふたつがよっつに、紫黒の雷姫の姿が増えた。
「すわっ、分身の術か!」
枝垂は空を見上げたまま、あんぐり。
そうしているうちにも、紫黒の雷姫はまだまだ増えていく。
ブゥン……
ブゥン……ブゥン……
ブゥン……ブゥン……ブゥン……
ブゥン……ブゥン……ブゥン……ブゥン……
ブゥン……ブゥン……ブゥン……ブゥン……ブゥン……
見る間に空一面が幻影の紫黒の翼で埋め尽くされた。それらが一斉に向かってくる。
この中から本物を見極める?
そんなの絶対にムリっ!
だから枝垂は一枚目のカードを切る。
「飛梅さん、フセ、いくよ! 喰らえ、種バルカンっ!」
ダダダダダダダダダダダダダダダダ……
空を埋め尽くす幻影めがけて、枝垂の十指が火を噴く。
毎分六千発にて吐き出される梅干しの種たちが、次々と幻影を撃ち抜いては掃討していく。
怒涛の制圧力にて、枝垂は空を蹂躙する。
けれどのその横顔に余裕はない。
広域展開された大量の幻影を片っ端から薙ぎ払う。
いかに飛梅さんやフセの支えや助力あるとはいえ、両腕にかかる負担が大きい。指先や腕がどんどん熱くなっており、じりじりと焼けるようだ。星のチカラの消耗も想定以上に速い。
それでも歯を食いしばって連射を続け、ついに三分の二ほども幻影を撃ち消した頃であった。
雷姫と分かれて迂回していたカーラスどもの分隊が押し寄せてきた。
右からは、中心が前方にせり出し両翼が後退した三角形のような魚鱗(ぎょりん)の陣にて。なおこれを以降、便宜上第一分隊と称する。
左からは、斜めに長く並ぶ雁行(がんこう)の陣にて。こちらは以降、第二分隊と称す。
枝垂の目を空に釘付けにしている隙をついての強襲。
だが、この動きは読んでいた。
「地対空種ミサイル・ピクルスシード・マークⅡ、起動」
号令一下、勢いよく畑周辺の土が爆ぜて、飛び出したのは大量の種たちである。
あらかじて設置されてあったのが一斉に発射され、接近する第一第二分隊を迎え討つ。
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