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175 宿命のライバルふたたび

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 収穫物を狙うカーラスどもは紫イモ畑農家の天敵だ。
 カーラスは地球でいうところのカラスにて姿もそっくり。けれどもサイズがちとおかしい。タカやトンビほどもある。
 カーラスはずる賢くとても横着にて、わざわざ地面に降りて自分でイモを掘ったりはしない。働いたら負けだと思っている。
 だから人がせっせと掘った物を「カァカァ、ごくろうさん」と横からひょいとくすねる。
 直接畑を荒らさないけれども、人の上前をはねる小憎たらしい奴だ。

 カーラスどもは翼による機動力もさることながら、魔力察知能力にも長けており、とにかく魔法が当たらない。ひょいひょい避ける。
 一流の遣い手でもピンポイントで仕留めるのは至難だ。
 だからカーラスを追い払うのはたいへん!
 けれどもそんな農家の前に、ひとりのヒーローがあらわれる。
 星クズの勇者枝垂だ。
 異世界渡りの勇者は魔法が使えない。魔力を司る器官が体内にないからだ。その代わりといってはなんだが、転移特典のひとつとして星のチカラを貰っている。
 能力や性質はいろいろだが、これは魔力や魔素といったものを使用していないがゆえに、カーラスにも察知されにくい。

 ゆえに星のチカラにて梅干しのタネを召喚してはポコポコ飛ばせる枝垂と、カーラスの相性はとても良くて、こと対カーラス戦においては枝垂の独壇場となる。
 けれども、その無双状態は長くは続かなかった。

 紫黒の雷姫――
 紫黒(しこく)の美しい羽をもつ雌の美カーラス。
 枝垂が中央に出向いて島を留守にしている間に、彗星のごとくあらわれては台頭し、瞬く間に大きな群れを率いるようになる。
 つねに先陣を切る果敢さ、軽やかな翼さばきにて戦場を自在に舞い、ときには勇猛さを奮っては獲物へと襲いかかる。
 他のカーラスどもが持つ、ちょっとやさぐれたダメな大人っぽい雰囲気は皆無にて、凛として高貴、華麗にして苛烈……
 ゆえに、いつの頃からか農家さんからこう呼ばれ、恐れられる存在になっていた。

 口惜しいことに、現在枝垂は紫黒の雷姫に負け越している。
 種ピストルや種マシンガンのみならず、地対空種ミサイル・ピクルスシードをも使用したというのに、すべての弾幕を紫黒の雷姫は突破した。
 あれこれ小細工を弄する枝垂をまるで嘲笑うかのように、正面から堂々と打ち破っては、紫イモをひとつだけ掻っ攫っていく姿は、まさに凄腕の女怪盗のごとし。
 そして枝垂が紫黒の雷姫をライバル視しているように、向こうもまたそうなのか、紫黒の雷姫があらわれるのは決まって枝垂が畑に立つときであった。

 ある農家のおじさんは、親切ぶって枝垂に言った。

「いちいち相手をするのはたいへんだろう? たった一個ぐらいくれてやればいい」

 敗れて悔しがる枝垂を見かねての助言であったのだろうけど、枝垂は首を横に振る。

「ちがうんです。数の問題じゃないんです。これはそう……意地の問題なんです。星クズの勇者としての存在価値、尊厳を賭けた戦いなんです。ぼくがぼくであるために、絶対に譲れない戦いなんです」

 それに紫黒の雷姫は空の女王だ。
 大勢の部下を率いている。
 女王の好きにさせては、残りの連中もこぞって押し寄せてくるだろう。
 そうなれば、掘ったはしからパクられることになってしまう。
 毅然と抵抗の意思を示すことこそが大事なのだ。
 もちろん、そこに勝利があればなおよし。
 べつに完膚なきまでに相手を叩き伏せる必要はない。
 一度、もしくは二度ほど、枝垂は勝つだけでいい。

 野生は残酷だ。
 弱いリーダーには誰もついていかない。
 あっという間に支持を失い見限られて離れていく。群れは瓦解する。
 でも、だからこそ紫黒の雷姫も態度にこそは出さないが、内心では必死なはずだ。

「「負けられない」」

 その想いは枝垂と紫黒の雷姫の双方にある。

  ☆

 城内からもうもうと立ち昇る爆発の煙。
 それを横目に畑での農作業を中断した枝垂は、余計なものを片づけ迎え討つ準備を整えた。
 するとまるでそれを待っていたかのようなタイミングで、紫黒の雷姫が率いる群れが西の空にあらわれた。

「やはりきたか」

 つぶやいた枝垂は両手を開いたり閉じたりする。
 この日のために編み出した新必殺技・種バルカンがついに火を吹く時がきた。
 種バルカンは両手の十本の指から同時に種を放つ技にて、発射速度は毎分六千発を誇る。
 枝垂はかつてない種の量と勢いにて、カーラスどもを圧倒する所存。
 けれども成長していたのは枝垂だけではなかった。
 次第に近づいてくる紫黒の雷姫、その姿が明瞭となるほどに枝垂は大きく目を見開いた。

「えっ、なんか前よりずっともっと、ごっつくなってない? もしかして禍獣化した!」

 ちなみにカーラスが禍獣になった事例は、存在していない。
 だからもしも本当にそうなのだとしたら、ギガラニカ世界初ということになる。
 ゆえに等級は不明にて、未知との遭遇。

 この日、枝垂は歴史の目撃者となった。


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