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173 大釣果

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 あー、結論だけ先に述べよう。
 ヒゲトゥスの腹の中は、宝の山だった。
 全長百五十メナレ越えの超巨体は伊達じゃない。
 大きなカラダを維持し、厳しい環境を生き抜くために、喰えるモノは何でもかんでも呑み込んでいた。その中には海洋生物のみならず、禍獣たちも含まれていた。

 禍獣は動物が魔素や環境の影響で変異した狂暴な個体にて、この世界に存在する脅威のうちのひとつだ。
 青銅、赤胴、黒鉄、白銀、黄金の等級に分類されており、この順で強くなる。
 そして海の禍獣は陸のものよりも手強いとされている。

 そんな禍獣だが普通の動物よりも強いのかとえいば、必ずしもそうとは言い切れない。
 ギガラニカの世界には、素の状態でもそこいらの禍獣よりも強い動物がいる。
 変異したてのヒヨッコ程度では、太刀打ちできないようなのが、わりといる。
 能力の相性、戦う状況などの影響も大きい。
 そのために下位の者が上位の者を負かす、番狂わせ、返り討ち、下剋上なんてのは日常茶飯事だ。

 枝垂たちを呑み込んだヒゲトゥスはノーマルタイプだが、個体発生過程の最終段階である成体にまで到達しており、なおかつ歴戦の猛者である。
 それゆえに腹の中にはお宝ザックザクであった。

 お目当ての輝石もあった。
 エレン姫さま御所望の白銀級の輝石が見つかった時には、「ひゃほう!」と枝垂たちははしゃいだものである。
 しかも、それが三つも!
 白銀級以下の輝石もゴロゴロ、そこかしこに転がっていた。
 さすがにすべて戦って獲得したわけではないのだろうけど、あらためて海の偉大さを痛感させられるばかり。

 ちなみにお宝は根こそぎ頂いた。
 そして脱出するのもオウランの転移で外に出た。

 えっ、ついでだからヒゲトゥスも倒せばよかったのに?

 やろうとおもえば出来た。
 いかに強大な海洋生物とて腹の中から攻撃をされたら、ひとたまりもない。
 でも、やらなかった。
 理由は「これほどの立派な個体……、おそらくはちょっとしたヌシのようなものであろう。下手に殺すと、海が荒れるやもしれんぞ」とオウランに忠告されたから。

 弱肉強食の海の中とはいえ、それなりに秩序は存在している。
 強者がひとり欠けるということは、一帯のパワーバランスが崩れるということ。
 縄張りを持っていれば、そこが丸ごと乱取りの狩り場と化す。
 空いた席を求めて狂暴な海洋生物が殺到し、血で血を洗う仁義なき戦いへと発展するだろう。
 海に囲まれているコウケイ国にとっては、望ましくない状況である。
 だからヒゲトゥスには、そのまま君臨してもらうことにした。

 お腹の中に溜まっていた消化不良の不用品らを回収されたせいで、胃のつかえがとれたのか、ヒゲトゥスがぴちぴち尾ビレを元気よく振っては軽快に泳いで去っていく。
 その後ろ姿を見送りつつ、枝垂たちも帰路についた。

  ☆

 大釣果? に、エレン姫は飛び上がらんばかりに大喜びだ。
 港は活況に湧く。持ち込まれた大量の収穫物の処理にてんやわんやとなり、目敏い商人たちがはやくも嗅ぎつけており、対応に追われる漁協の組員たちは嬉しい悲鳴をあげている。
 でもって、ロバイス王らお城のえらい人たちは頭を抱えている。
 なにせ海の生物の素材は貴重だ。
 それがわんさか!
 最弱国には過ぎたもの。悪目立ちにもほどがある。
 以前にゲットしたラッコステイの素材を売りさばくのにも、他国の目を気にして慎重に慎重を期していたというのに……

 コウケイ国は中央から距離がある辺境でも有数の隅っこ暮らしであることと、国力最弱の貧乏ゆえに連合軍への兵士の派遣を免除されている。
 代わりに特産の紫イモを納入しているのだけれども、星クズの勇者を受け入れることで状況は激変した。
 いまや成りは小さくとも、中位国を越えるほどの資産を秘匿している。
 枝垂の梅を使ったポーションをはじめとする、各種商品を本格的に市場に投入すれば、さすがに五ヶ国には及ばなくとも、上位国に迫りかねないほど。

「よもやうちが景気が良すぎて悩む日が来るとはなぁ」
「……贅沢な悩みですわね」
「こうなったらもう、アリエノールさま経由で帝国に相談するしか」
「それがよろしいかと。さいわいなことにスフォルツア帝は枝垂に好意的ですから、きっと便宜をはかってもらえるかと」

 ロバイス王、ディラ王妃、ナシノ女史、ジャニスらは「やれやれ」とそろって大きなタメ息をつきつつ、賑わう漁港の様子を眺めていた。


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