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171 ヒゲトゥスの中

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 島の近海よりちょいと遠出して、外洋手前の比較的天候が安定している地域にて、釣り糸を垂らしてみたところ、とんだメガモンスター祭りとなってしまった。
 だが、よくよく考えてみたら不思議でもなんでもなかった。

 コウケイ国は本土から離れた孤島にて、周囲の漁場は豊かである。
 潮流の関係に恵まれたこともさることながら、捕る側に対して魚影の方が圧倒的に多いのだ。それに地球の海のように、各国の船団がこぞって外洋に繰り出しては、魚の群れを追いかけ回しては、我先にと競うように狩ることがない。

 海底油田やら資源の採掘なんぞも行われていない。
 変なゴミを捨てたりもしていない。
 そもそも世界には果てがあり、外海は厳しい環境ゆえに、海洋進出を早々に諦めた。
 よって大海原を渡る船舶もない。
 魔法があり、魔力があり、魔素が存在しているがゆえに、文明として石油などを燃料としていない。だから、船舶の燃料である重油等が漏れて汚染されることもない。
 海軍はなく、内地の国にて水軍はあるが、その数は少なく活動範囲は極めて限定的である。
 本土側の漁師たちは、そのほとんどが陸地が見える程度の沖合にて漁をしている。
 ほとんどヒトが介入していない、いわば原始の海なのだ。

 えー、長々とギガラニカの海について言及したが、ようは何が言いたかったのかというと、こちらの海の魚たち――というか生き物たちは、ちっともスレていないということ。

 弱・肉・強・食!
 エサ、即、喰らう!
 やって後悔、やらずの後悔、悩むまでもなし!
 獲る奴が悪いんじゃない、獲られる奴がマヌケなのだ!
 いま、この一瞬にすべてを賭けろ! 明日? そんなのは知らん!

 虎穴に入らずんば虎児を得ず、死中に活を求める、これを日々実践している猛者たちが集う修羅の国。
 それがギガラニカの海なのである。
 だから、美味そうなエサがあれば悩むよりも先に喰いつくし、隙を見せた奴がいたら容赦なく襲いかかるし、争っている連中がいたら漁夫の利を狙う。
 そしてチカラが強く、大型の海洋生物であればあるほどに、たくさん食べないといけないから、小さい連中よりも生きるのに必死だったりもする。

 諸事情が重なったがゆえに、壮絶な入れ喰い状態を招いたのであった。
 ちなみにメガロドーンとチョクチョウセンコウとアオリマクリらの三つ巴の戦いは、さらにポメラニアンとヒゲトゥスらが乱入して、さらにヒートアップする。

 ポメラニアン――
 ふわもこしたイヌの名前のようだが、四十メナレ級のウミガメっぽい海洋生物である。
 首と四つのヒレを甲羅内部に収納しては、ぎゅるぎゅる高速回転しながら、某テレビゲームのカメよろしく体当たりをぶちかます。短い距離ながらも某怪獣映画のカメのように空も飛べる。
 別名・海の当たり屋。
 けれども肉は美味にて、甲羅は工芸品の高級素材として珍重されている。

 ヒゲトゥス――
 全長百五十メナレ越え、コロンビア級原子力潜水艦ほどもある超ド級のマッコウクジラっぽい海洋生物である。
 額や体中に刻まれた数多の傷が、カツオサイズの稚魚からこの大きさへと至るまでに経てきた、生存競争の凄まじさを物語っている。
 別名・動く海底山脈。
 捕るのは至難だが、捨てるところがないと言われており、ごく稀にだが浜に流れ着く若い個体の死骸を発見しただけでも、立派な城が建つと云われている。

 五体もの大型海洋生物たちがくんずほぐれつ、熾烈を極めたメガモンスター祭りを制したのはヒゲトゥスであった。
 他の四体が大乱闘をしているところへ、突如として沖の方からずんずん小山が近づいてきたとおもったら、そのままズドンと衝突した。
 圧倒的なまでの質量、迫る姿は山というよりも壁である。
 広くて角ばっており、硬くて重たい頭突きを喰らって、四体がピヨっているところを、ヒゲトゥスは大口を開けてはひと口でパクリ!
 海が割れ、大波が起き、渦を巻き、その様は天地開闢のごとし。

 一瞬の出来事だった。
 いきなり、あ~んとやられてしまい、天狼オウランの背にいた枝垂たちも、いっしょにごっくんされてしまった。
 かくして枝垂たちは、現在、ヒゲトゥスの腹の中にいる。

  ☆

 大きなクジラに丸呑みされる……
 旧約聖書のヨナの書、もしくはピノッキオの冒険のような状況になった枝垂は、おおきく嘆息する。

「ピノッキオの冒険? それはどういった話なのじゃ」

 オウランがせがむので、枝垂はかいつまんで物語の説明をする。
 聞き終えたオウランはふむふむうなづきながら「飛梅さんみたいなものか」と言った。
 云われてみれば、同じ木偶人形である。
 だが、あんな怠け者のポンコツといっしょにしては、飛梅さんに失礼であろう。でもピノッキオを作ったおじいさんが傑物なのは認める。
 とはいえである。

「……たしかにちょっと似ているかも。もしかしたら、物語の誕生の裏に樹人たちが関わっているのかも」

 とか、枝垂はちょっと思ったが、いまはそれどころではない。
 はやくここなら抜け出さないと……


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