星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

文字の大きさ
上 下
171 / 242

171 ヒゲトゥスの中

しおりを挟む
 
 島の近海よりちょいと遠出して、外洋手前の比較的天候が安定している地域にて、釣り糸を垂らしてみたところ、とんだメガモンスター祭りとなってしまった。
 だが、よくよく考えてみたら不思議でもなんでもなかった。

 コウケイ国は本土から離れた孤島にて、周囲の漁場は豊かである。
 潮流の関係に恵まれたこともさることながら、捕る側に対して魚影の方が圧倒的に多いのだ。それに地球の海のように、各国の船団がこぞって外洋に繰り出しては、魚の群れを追いかけ回しては、我先にと競うように狩ることがない。

 海底油田やら資源の採掘なんぞも行われていない。
 変なゴミを捨てたりもしていない。
 そもそも世界には果てがあり、外海は厳しい環境ゆえに、海洋進出を早々に諦めた。
 よって大海原を渡る船舶もない。
 魔法があり、魔力があり、魔素が存在しているがゆえに、文明として石油などを燃料としていない。だから、船舶の燃料である重油等が漏れて汚染されることもない。
 海軍はなく、内地の国にて水軍はあるが、その数は少なく活動範囲は極めて限定的である。
 本土側の漁師たちは、そのほとんどが陸地が見える程度の沖合にて漁をしている。
 ほとんどヒトが介入していない、いわば原始の海なのだ。

 えー、長々とギガラニカの海について言及したが、ようは何が言いたかったのかというと、こちらの海の魚たち――というか生き物たちは、ちっともスレていないということ。

 弱・肉・強・食!
 エサ、即、喰らう!
 やって後悔、やらずの後悔、悩むまでもなし!
 獲る奴が悪いんじゃない、獲られる奴がマヌケなのだ!
 いま、この一瞬にすべてを賭けろ! 明日? そんなのは知らん!

 虎穴に入らずんば虎児を得ず、死中に活を求める、これを日々実践している猛者たちが集う修羅の国。
 それがギガラニカの海なのである。
 だから、美味そうなエサがあれば悩むよりも先に喰いつくし、隙を見せた奴がいたら容赦なく襲いかかるし、争っている連中がいたら漁夫の利を狙う。
 そしてチカラが強く、大型の海洋生物であればあるほどに、たくさん食べないといけないから、小さい連中よりも生きるのに必死だったりもする。

 諸事情が重なったがゆえに、壮絶な入れ喰い状態を招いたのであった。
 ちなみにメガロドーンとチョクチョウセンコウとアオリマクリらの三つ巴の戦いは、さらにポメラニアンとヒゲトゥスらが乱入して、さらにヒートアップする。

 ポメラニアン――
 ふわもこしたイヌの名前のようだが、四十メナレ級のウミガメっぽい海洋生物である。
 首と四つのヒレを甲羅内部に収納しては、ぎゅるぎゅる高速回転しながら、某テレビゲームのカメよろしく体当たりをぶちかます。短い距離ながらも某怪獣映画のカメのように空も飛べる。
 別名・海の当たり屋。
 けれども肉は美味にて、甲羅は工芸品の高級素材として珍重されている。

 ヒゲトゥス――
 全長百五十メナレ越え、コロンビア級原子力潜水艦ほどもある超ド級のマッコウクジラっぽい海洋生物である。
 額や体中に刻まれた数多の傷が、カツオサイズの稚魚からこの大きさへと至るまでに経てきた、生存競争の凄まじさを物語っている。
 別名・動く海底山脈。
 捕るのは至難だが、捨てるところがないと言われており、ごく稀にだが浜に流れ着く若い個体の死骸を発見しただけでも、立派な城が建つと云われている。

 五体もの大型海洋生物たちがくんずほぐれつ、熾烈を極めたメガモンスター祭りを制したのはヒゲトゥスであった。
 他の四体が大乱闘をしているところへ、突如として沖の方からずんずん小山が近づいてきたとおもったら、そのままズドンと衝突した。
 圧倒的なまでの質量、迫る姿は山というよりも壁である。
 広くて角ばっており、硬くて重たい頭突きを喰らって、四体がピヨっているところを、ヒゲトゥスは大口を開けてはひと口でパクリ!
 海が割れ、大波が起き、渦を巻き、その様は天地開闢のごとし。

 一瞬の出来事だった。
 いきなり、あ~んとやられてしまい、天狼オウランの背にいた枝垂たちも、いっしょにごっくんされてしまった。
 かくして枝垂たちは、現在、ヒゲトゥスの腹の中にいる。

  ☆

 大きなクジラに丸呑みされる……
 旧約聖書のヨナの書、もしくはピノッキオの冒険のような状況になった枝垂は、おおきく嘆息する。

「ピノッキオの冒険? それはどういった話なのじゃ」

 オウランがせがむので、枝垂はかいつまんで物語の説明をする。
 聞き終えたオウランはふむふむうなづきながら「飛梅さんみたいなものか」と言った。
 云われてみれば、同じ木偶人形である。
 だが、あんな怠け者のポンコツといっしょにしては、飛梅さんに失礼であろう。でもピノッキオを作ったおじいさんが傑物なのは認める。
 とはいえである。

「……たしかにちょっと似ているかも。もしかしたら、物語の誕生の裏に樹人たちが関わっているのかも」

 とか、枝垂はちょっと思ったが、いまはそれどころではない。
 はやくここなら抜け出さないと……


しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

コル
ファンタジー
 大学生の藤代 良太。  彼は大学に行こうと家から出た瞬間、謎の光に包まれ、女神が居る場所へと転移していた。  そして、その女神から異世界を救ってほしいと頼まれる。  異世界物が好きな良太は二つ返事で承諾し、異世界へと転送された。  ところが、女神に転送された場所はなんと異世界の無人島だった。  その事実に絶望した良太だったが、異世界の無人島を生き抜く為に日ごろからネットで見ているサバイバル系の動画の内容を思い出しながら生活を開始する。  果たして良太は、この異世界の無人島を無事に過ごし脱出する事が出来るのか!?  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...