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167 新造艦建造計画
しおりを挟むクラスメイトたちの案内は、タンカーにて警護についてる兵士さんのうちのひとりにお任せして、枝垂は飛梅さんのみを連れてエレン姫のもとへと向かう。
いきなりみんなで押しかけて不意打ちをかまそうかともおもったけど、それはやめた。
もしも子どもたちへの教育上、よろしくない姿をさらすことになったら困ると判断したからだ。
そして、その配慮が間違いではなかったことが、じきに判明した。
☆
艦橋の居住区に姫さまの姿はなく、いたのはその直下にある機関部近くの制御室であった。
数日ぶりに会ったエレン姫は、髪はボサボサ、目の下にはひどい隈、頬はこけ、耳も尻尾もへにょんとしており、毛艶は失われて全体がカサカサ、そのくせ瞳だけがやたらと爛々としていた……
島民らに慕われている可憐な一国の姫君、たおやかな白ネコ嬢が見る影もない。
これはもう絶対に何かヤバい薬をキメてるだろう。
というぐらいに酷い有り様にて、とてもではないが子どもたちに見せていい姿ではなかった
目にするなり枝垂は心の内で「アウチ!」と叫んでいた。
とりあえずお小言はあとにして、枝垂は臨時見学ツアーにて第一初等部の子どもらを連れてきていることを告げる。
「さすがにその姿をみられたらマズイですよ。急いでシャワーを浴びて身だしなみを整えて下さい。じきにこちらに来ますから」
すると、しぶしぶながらエレン姫はシャワー室へと向かった。
さすがに自分でも立場上マズイと思ったようだ。これまでコツコツと積み上げてきたキャラクターイメージが台無しになってしまう。
子どもたちを連れてきて正解だったと、枝垂は自分で自分を褒めた。
エレン姫の身だしなみについては飛梅さんに任せるとして、枝垂は制御室内の片づけに着手する。
(……にしてもほんの数日で、けっこうな散らかりようだ)
枝垂はやれやれと嘆息する。
たくさんの文字や数式が走り書きされた大量の紙たち、詰まれた本類、見慣れぬ機器は研究のための道具なのだろう。
かなり私物を持ち込んでおり、城の地下にあるエレン姫さまの工房の様子にそっくり。
エレン姫が片付けられない女であることは、城でも知る人ぞ知るところ。
もっとも王族の姫君ともなれば、身の回りのことは全部お付きの人がやってくれるから、どこも似たようなものなのかもしれないけれども。
前屈みとなり床に落ちているゴミを拾う。
半端に食い散らかされているのは軍の携帯糧食だ。味は二の次にて栄養とボリュームに特化したショートブレッドのような食べ物。ひと口かじれば、たちまち口の中の水分をごっそりもっていかれ、呑み込むのにたいそう苦労する。枝垂も行軍中に何度か食べたが、ぶっちゃけ美味しくない。
書類などは勝手に捨てたら、エレン姫が激怒しそうなので、まとめて束にしておくのに留める。
開いて放置されてある本に関しては、しおり代わりにまだ使われていない紙を挟んで閉じておく。
機材は扱いがわからないので、とりあえず邪魔にならないように壁際へと寄せておく。
そうして片付けを進めていくうちに、枝垂は筒状に丸められた大判用紙を見つけた。
広げてみれば、中身は船の設計図。緻密な書き込みが成されている。
枝垂はただの高校生にて、この手のことにはとんと疎くて、ちんぷんかんぷん。
でも、素人目にもただの船の設計図ではなさそうである。
「それに……なんだろう? 見ているだけで、妙のワクワクしてくるというか、ドキドキするというか」
まだ片付けの途中なのに、枝垂はすっかり設計図に魅入ってしまう。
すると「ふふ、気に入った?」と声をかけたのは、シャワーを浴びて身だしなみを整え終えたエレン姫であった。
「この設計図は姫さまが書いたんですか? これはいったい……」
「そう、それは私が書き上げたものよ。二日ばかり徹夜をしてようやくさっき仕上げたところなの。じつは前々から頭の中に構想はあったんだけど、このタンカー内を調べて研究することで、いっきに完成までこぎつけられたわ」
設計図は飛空艇のもの。
しかし従来のものとは一線を画す。
ギガラニカの技術と地球の技術とのいいとこ取りのハイブリッド。
次世代型の飛空艇だ。もしも開発に成功すれば、魔導機の活動限界により到達できなかった未知の領域にも踏み込めるかもしれない。
エレン姫は枝垂を前にして高らかに宣言する。
「新造艦を作るわよ!」
かくしてエレン姫の号令のもと、新造艦建造計画がここに始動した。
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