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159 喰えない奴ら
しおりを挟むニョロニョロ、ニョロニョロ、ニョロニョロ。
ニョロニョロ、ニョロニョロ、ニョロニョロ。
ニョロニョロ、ニョロニョロ、ニョロニョロ。
ぷぅんと磯臭さが増した。
あまりの臭気に吐き気をもよおす。
喉の奥から酸っぱい液がこみあげてくるも、枝垂はこれを無理矢理呑み込み押し戻す。のんびり嘔吐なんぞしている暇なんてない。
狭い通路の奥からあらわれた長い生物たち。
ヘビというよりもウナギに近いか。
顔がつるんとのっぺりしており、全身が自前のローションまみれでネトネトしている。動きもウネウネにてかなり気持ち悪い。あとなにげに目が四つあるのも不気味だ。
そんなのがたくさんあらわれた!
我先にと競うかのようにして、こちらへと迫ってくる。
その正体はアナゴサーンの稚魚であった。
アナゴサーンとは海洋生物である。
ウミヘビの親戚にて、ふだんは外洋は海底深くの岩礁に生息しては、巣の近くを通りかかった獲物を捕食している。長い巨体にて、泳ぎはあまり得意ではない。
その生態の多くは謎に包まれているが、よく知られているのは特徴的な子育ての方法である。
アナゴサーンの母親は大量に産んだ卵を己の体内にて守り、卵から還った稚魚たちには自身の血肉を与えて育てる。
守り、愛し、慈しみながら、同時に生きながら喰われる。
行き過ぎた自己犠牲、狂気の献身ぶりは他の生物の追随を許さない。「海の狂母」との異名を持つ。
だがそれゆえに母性は非常に強く、子連れのアナゴサーンはかなり危険にて、近づかないのが吉である。
あとアナゴサーンの稚魚は、一匹見たら千匹はいると思えと、漁師たちの間では古くから伝わっているんだとか。
それから見た目こそはウナギっぽいが、微弱ながらも血に毒を持ち、煮ても焼いても臭くて喰えたものじゃない。
☆
どうしてアナゴサーンが、タンカーは船首の錨鎖庫にいるのかはわからない。
船が漂流中にたまたま見つけて気に入ったのか、敵に追われて逃げ込んだのか、あるいは何かのはずみで入り込んでは抜け出せなくなったのか。
どちらにしろこれを排除せねば、タンカーを島へ曳航するわけにはいかない。
大量に押し寄せてくるアナゴサーンの稚魚たち。
すぐさま戦闘態勢を整える調査隊の者ら。
「……ってことは、もしかして稚魚だけじゃなくて、母親もいるってこと?」
迫る脅威を前にして枝垂は顔を引きつらせる。
「それは否定できんな。稚魚どもの大きさからして、まだ健在である可能性が高い」
剣を構えつつジャニスが厭なことを言う。
だが、厭なことはそればかりではなかった。
ジャニスが初弾として魔法にて風の刃を飛ばす。
狙い過たず、風の刃が敵勢の先頭集団に命中する。
が――つるん。
ヌメヌメした体表と粘液により、刃が食い込むことなく滑って攻撃をそらされた。
調査隊の面々が目を見張る中、ジャニスが「やはりか」とつぶやく。
先ほど魔力を帯びた風を放ち、船首内部の様子を探っていたジャニスであったが、奇妙な手応えを感じていた。
その原因がこれである。
あの粘液や稚魚たちのカラダは魔力が通りにくい性質を持つことが、これで確定した。
火でいっきに焼き払いたいところだが、船の火災はとても危険である。うかつなことは出来ない。よって火属性の攻撃魔法はダメだ。
さりとて海の上にて地属性は頼りなく、風もご覧の通り。
残るは水光闇の三属性だが、隊員らの中に光と闇の遣い手はいない。
ならば水の出番であろう。
「というわけで、サクっと凍らせてちょうだい」
枝垂が要請すると、水属性の隊員が「無茶を言うな! あんなマネが出来るのはアリエノールさまぐらいだ」と怒られた。
ムクラン帝国の姫君にて連合軍の監査部に所属する才女は、水属性の持ち主にて、一瞬にして城壁のごとき氷壁を出すことができる。
だから同じ属性の者ならば、それに近しいことができるとばかり……
魔法は当てにできない状況に、ジャニスが隊員らに命じる。
「総員、抜刀にて刃に魔力を注入せよ。あとはひたすら斬って斬って斬りまくれ。一歩も引くな。敵は数が多い、引けばそのまま押し切られるぞ。
それから船員は下がっていろ。枝垂は後方にてみなの援護射撃を頼む。飛梅さんは悪いが私とともに前線で踏ん張ってくれ」
矢継ぎ早やに指示が飛び、素早く防衛体制が整えられたところで、ついに戦端が開かれた。
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