154 / 242
154 艦橋探索
しおりを挟むコォーン……
コォーン……
コォーン……
艦内に響く音が遠い。
キツネの鳴き声にも少し似たそれは、硬質をともなうもの。
おそらくは巨大なタンカーの船底に波がぶつかる音、それがここまで届いているのだろう。
いざ甲板へとあがって、こうして艦橋内へと足を踏み入れてみてわかったが、どうやらこの船はアイドリング状態にあるのではなくて、完全に動力が停止しているようだ。照明も落ちており、内部は暗い。機関部が生きており復旧できればいいのだけれども。もしも死んでたら曳航するのに骨が折れそうだ。
隊員の中で火属性の者が指先に火を灯しては松明がわりとし、風属性の者が周囲に風を送っては暗がりに危険が潜んでいないかを探り、残りは警戒しつつ何かあればすぐに動けるようにと身構える。
そのような布陣にて隊列を進める。
別行動はしない。艦橋内が迷宮化している以上は分散は悪手だ。
外から数えたところでは、艦橋は七層構造となっていた。
でも内部の空間がおかしなことになっているから、見た目通りとは限らない。
表の階段が健在ならばよかったのだけれども、奇妙なことにそれはどこにも見当たらなかった。
この手の船ではセキュリティの観点から、ブリッジへ行き来できる経路は限られている。
まずはそれを見つけないといけない。
安全を確保してから、最寄りの扉を開く。
最初の扉は、掃除用具置き場の部屋のものであった。
デッキブラシにバケツなど、とくに目ぼしい物はなかった。
隣の扉は洗面室、さらに奥の扉を調べれれば、給湯室、何かの保管庫、二段ベッドが備え付けられてある狭い居室などなど。
――部屋の並びがおかしい。
なんというか脈絡がなさすぎる。
船の中、それもこの手の外洋を渡る輸送船ともなれば、使い勝手と機能性を重視しているはずなのに……
枝垂は内心で首を傾げる。
「これも迷宮化の影響か。どうやら部屋の配置もおかしくなっているようだな。この分では階段を見つけても、あてにならんかもしれん」
ジャニスが唸った。
どうやら彼女も同じように違和感を覚えたらしい。
☆
訓練された隊員たちがキビキビ動いては、片っ端から扉を開け室内を確認していく。
一分の隙も無い見事な連携が小気味よい。
さすがだと感心させられる。
だがしかし――
いささか不謹慎ながらも、枝垂は「くわぁ」と小さく欠伸を漏らす。
う~ん、無駄に扉の数が多い。
奥へとのびた長い廊下を等間隔にてずらずらり、しかも廊下の両側にっ!
いったい何部屋あるのか? 数えるのが躊躇われるほどだ。
これを全部検めるのだから、手間がかかってしょうがない。
そのためついつい流れ作業になりがち。
どこも似たような愛想のない造り。敵が出るでもなし、罠があるでもなし。
「いざ、ダンジョン探索だ!」
なんぞいう意気込みもどこへやら。
最初のワクワク感はとうに失せている。
みなに守られて、ついていくだけの枝垂は、はやくも飽きてげんなりしている。
かとおもえば、扉を開けた先が部屋ではなくて、廊下とかになっていることもあるから油断ならない。
とはいえである。
(フム、ぶっちゃけつまらん。船の中ってどこも同じに見えるんだよねえ。機密性が高いから空気が淀んで、ちょっと圧迫感があって息苦しいし)
みんなが真面目に探索しているというのに、そんなことをぼんやり考えていたバチが当たったのであろうか。
急に足下がずるりと滑って、枝垂は盛大に尻もちをついた。
ひょうしに尾てい骨をまともに打って「あ痛っ!」
涙目にて立ち上がろうと床に手をつく。
すると、べちゃり……
なんともいえない気色の悪い感触が伝わってきたもので「うひゃあぁぁぁ!」
手にべっとりとついていたのは、透明なジェル状の何か。
ねちゃねちゃ、ヌルヌルしている。ネバネバした粘液みたいなもの。
鼻を近づけてくんくん、手のニオイを嗅いでみれば「生ぐさっ!」
腐った魚の腸(はらわた)のような臭気に、鼻がひん曲がりおもわず顔をそむける。
飛梅さんが差し出した手拭いにて、丹念に拭くもぬめりはともかく、ニオイがちっとも落ちない。
「うぅ、気持ち悪い。なんだよこれ? 洗ったらちゃんと落ちればいいけど」
枝垂はズボンの汚れを気にする。
一方で床のネバネバを調べていたジャニスは、「何の粘液かはわからん。だが、何かがここにいることだけはたしかなようだ。粘液が乾いていないことからしても、用心は怠らないほうがいいだろう」と言った。
1
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~
厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない!
☆第4回次世代ファンタジーカップ
142位でした。ありがとう御座いました。
★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる