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150 牧場見学
しおりを挟むここギガラニカ世界は地球と違って、ヒトに似た類人の他にも種族が存在している。
獣人と蟲人だ。
獣人はまんまである。
獣人は総じて身体能力に優れている。魔法もまた身体強化系を得意とする者が多い。なお外見に関しては、人寄りのタイプと獣寄りのタイプがいる。
人寄りのタイプは耳と尻尾をつけただけだが、これが獣寄りのタイプになると野趣溢れる風貌となっている。マンガやゲームなんかではお馴染みのワーフウルフとかミノタウロス、リザードマンなんかを想像するとわかりやすいだろう。
ちなみにケモミミと尻尾が可愛いけど、相手の許可なく触るのは御法度だ。
即痴漢扱いにて御用となる。強制収容所にて心身ともに厳しく矯正され、娑婆に戻ってくる頃にはまるで別人のように生まれ変わっているそうな。
類人は地球の人間とほぼ一緒である。
魔力を司る器官が体内にあるかないかの違いしかない。
総じて手先が器用で、魔導具造りに適しており、細かい魔力操作に長けている傾向にある。
なおファンタジーモノではよくある「人族至上主義」みたいな思想は、こちらの世界には存在しない。
ギガラニカは区別はあれども差別はない世界。
もっとも権威主義みたいなのは存在している。それに国ごとに掲げているモノも違う。
ムクラン帝国では軍事国家らしく、戦力の保有を優先している。
ラグール聖皇国は信仰が第一にて、それ以外は二の次だ。
クランコスタは魔法の研究を、ドラゴポリスは魔導具の開発に熱心にて。
ザレックス共和国はとにかくカネ、カネ、カネ! 資本が生産活動の主体となっている経済体制を確立している。
蟲人は昆虫をベースにしたヒトである。
特撮に登場するヒーローや怪人みたいな容姿で、フォルムがとっても個性的。
でもなんだが、シュッとしておりカッコいい。
魔力量が多く、肉体強度も高め。攻守に渡ってバランスがいい。
いささか表情が読みづらいのでコミュニケーションがとりにくいのが難点だが、親しくなればなんとなく雰囲気でわかるようになるという。
家族や一族にて固まっては、高所や地下を好んで住んでいる。
なおこの世界は魔法が当たり前に存在する世界だけれども、ファンタジーの定番である、エルフやドワーフ、ホビットや魔族といった種族はいない。
獣人、類人、蟲人らの仲はまぁ、良好である。
そしてじつはこの三つ以外にも、かつては樹人と鉱人という種族が存在していた。
ただし、ずいぶんと前に消滅してしまったので、いまとなっては彼らのことを詳しく知る者はほとんどいない。
――とまぁ、ざっとギガラニカ世界の住人についてあらためて触れたのには、ちゃんと理由がある。
それは……
☆
ただいま枝垂はクラスメイトたちと共に、学校の校外学習にて島内にある牧場へとお邪魔している。
小高い丘の上にて家畜を放牧している。
穏やかな風が吹く、朴訥(ぼくとつ)にてのどかな風景。
それはさておき、先にも述べたがこの世界には獣人がいる。
そして数多の動物やら禍獣なんてのも存在している。
獣人は肉を好んで喰らう。島民は海産物もモリモリ食べる。
野菜は……あんまり好きじゃないらしいけど、健康のためにいちおう食べる。でも甘い紫イモは別腹だ。
この世界に暮らすようになって、枝垂が地味に引っかかったのが、獣人と家畜の関係である。
森で狩りをして得た獲物の肉を食べる。
これはなんとなく納得できる。いかにも弱肉強食という感じで。
でも、例えばウシの獣人が乳牛や肉牛を育てるとか、ネコやイヌ系の獣人がペットでイヌやネコを飼うとか……
外部から来た身としては、そこのところがどうにも気になってしょうがない。
さりとて訊いていいことなのか、その判断が難しい。
もしかしたらデリケートな問題にて、彼らにとっては虎の尾となりかねない。
異文化交流は慎重に、ましてや異種族交流ともなればなおのことであろう。
そんな枝垂にとっては、ずっとモヤモヤしていたことを解決するいい機会になりそうなのが、今回の牧場見学である。
だから、密かにドキドキしながら参加していたのだけれども。
「え~と、なにコレ?」
もそもそ牧草を食む生き物を前にして、枝垂はきょとん。
するとシモンが教えてくれた。
「なにって、こいつはニクだよ。でもって、あっちの白いのがチチニクな」
べちゃりと潰れたスライムのような、ぶよぶよした肉塊が蠢いている。
見た目はおぞましいけど草食にて、とても大人しい。毛は生えておらず、肌は赤ん坊のお尻のようにプリンプリンとしている。
これがニクと呼ばれる家畜にて、ある程度育ったらカラダの一部を切り取る。
痛みは感じず、血も流れず。
放っておいたらじきにまた、ぷくぷく膨れて元通りになるそうな。
赤身肉っぽいのがニクで、白い個体がチチニクでこちらは絞るとお乳がでる。
なお城の食堂で出る肉料理の大半は、このニクの肉である。
とどのつまり、枝垂も散々に喰ってきたということ。
いまさらながらに、異世界食肉事情を目の当たりにして、枝垂は「ワーオ」と驚きを禁じ得ない。
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