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139 第一の犯行のナゾ
しおりを挟む噂をすればなんとやら……
枝垂たちのところにアリエノールが姿をあらわした。
どうして監査部に所属する彼女が顔を出したのかというと、それはこのたび正式に結ばれたコウケイ国とムクラン帝国との婚姻絡みである。
大国と縁続きとなるコウケイ国への事情聴取、一連の事件はことがことなだけに、なかなかにナーバスな問題である。
帝国領内で要人が襲われた時点で、国際間の火種になりかねない。
今回の連合評議会の警護の主要な部分を担っていた連合軍は、みすみすテロ行為を許しただけでなく、身内から内通者も出した。
とんだ失態である。
ここでうっかり勘違いをした高圧的な粗忽者を差し向けて、もしもコウケイ国側がヘソを曲げたら、それこそ目も当てられやしない。
というわけで、アリエノールのところにお鉢が回ってきたという次第。
ラジール王子の婚約者である彼女ならば、穏便にことを済ませられるだろうと上層部は考えて、保身から丸投げすることにした。
「ご無事でなによりでした。よもや裏切り者がいたとは……。うちの者がとんだご迷惑をおかけしたみたいで、心よりお詫びします」
腰を直角に曲げ深々と頭をさげたひょうしに、彼女の銀の長髪がばさりと垂れた。
監査部の人間としては、組織の内部に潜む不穏分子に気づけなかったことに、忸怩たる想いを抱いているのだろう。
けど毛先が床につきそうな全力の謝意に、かえってこちらの方が恐縮してしまう。
謝られた側の方が焦り、エレン姫はおろおろ。
「どうか、もうそのへんで頭をあげてください。こうしてみな無事なのですから」
かくしてひとしきり挨拶と謝罪を交わしてから、話は例の襲撃事件のことについてになるのだが――
「えぇっ! 他にも襲撃があったのですか?」
アリエノールから聞かされて、エレン姫をはじめ一同はたいそう驚く。
ラグール聖皇国とコウケイ国の他にも三件、いまのところ計五件の襲撃事件があったことが確認されている。
けれどもカイトリー枢機卿が爆殺された事件以外は、すべて未遂に終わったという。
一度に五件も……三十九ヶ国の要人や新米の星の勇者たちが集う、連合評議会の期間を狙った同地多発テロだ。
手口は枝垂たちが襲われた方法と似たり寄ったり。
罠を張った死地へと誘い込み、ドカンとやってから、相手が右往左往しているところを強襲するというもの。
不意打ちにて、襲撃当初こそは犯行グループ側が優勢であったものの、それも長くは続かない。すぐに盛り返されて、次々に返り討ちにされたんだとか。
まぁ、それも無理からぬことであろう。なにせ地力が違う。
コウケイ国の一行は予算の関係で極端に少数だが、他国はもちろんそんなことはない。ちゃんと数を揃えている。護衛も選りすぐり、まだまだ新米ながらも星の勇者もいる。
これらをどうにかしようとおもったら、けっこうな戦力が必要となる。
でもさすがにそこまで大規模な軍事行動を起こしたら、周囲に悟られるだろう。
帝都は女帝スフォルツアのお膝元である。連合軍最大の駐屯地もある。
それらの厳しい目をかい潜って襲撃者側が用意できた装備類は、あれが精一杯であったのかもしれない。
☆
ひとしきり一連のテロについての説明を受けたところで、エレン姫が「やはりヘンですね」と口にする。
ジャニスも「たしかに」とうなづく。
主従が気にしたのは、五つの事件のうち、明らかに一件だけ異質なこと。
ラグール聖皇国の場合だけ手口が違う。
爆発物を使用するのは同じようだが、カイトリー枢機卿は高速道路を移動中の公用車に乗っていた。
公用車は動く領事館みたいなもの。
当然ながら一般の魔導車とは異なる特注の車両である。見た目の豪奢さや内部の快適さだけでなく、防備という点でも非常に優れており、そこいらの軍用車両よりも、よほど頑強で安全だ。外部からの激しい攻撃に晒されても、しばらくは持ちこたえられるように設計されている。
それが木っ端みじんに吹き飛んだ。
だったら、事前に内部に爆発物を仕込んでおく?
それこそ無理な話だ。特別な車両は、特別であるがゆえに、管理は厳重を極める。細工をしようとすれば、たちどころに発見されるであろう。
ましてや中央五ヶ国のうちのひとつの公用車ともなれば、なおさらだ。
「やはりエレン姫も気がつきましたか。その辺りのことも含めて、現在、捕縛した連中を締めあげているところですが……」
アリエノールは口ごもる。
実行犯たちの大半が金で雇われたり、反勇者派の思想に染まった者だったりで、揃いも揃って下っ端ばかり。横のつながりはなく、互いのこともよく知らぬよう。
あまり有力な情報を得られていない。
とどのつまりは、使い捨ての駒である。
よくあるトカゲの尻尾切りというやつだ。
世界は違えども、こういうところは地球もギガラニカも同じらしい。
この話を聞き流しながら、枝垂が考えていたのは別のことである。
(カイトリー枢機卿が身につけていた、あの碧い数珠……)
とても高価そうな品であった。だが、目にしたとたんに枝垂はとても厭な気分になったことを、よく覚えている。
そして石繋がりで自然と連想したのは、幻の種族・鉱人のことだ。
枝垂は以前、鉱人についてある恐るべき仮説を立てた。
ほとんど成り行きの根拠のないおもいつきにて、仮説というのもおこがましい妄想の類に等しいもの。
しかし、もしもあれが真実に近ければ、あの碧い数珠は――
だとすれば、第一の事件の犯行の説明が容易につく。
そのことを思い至り、枝垂は真っ青になった。
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