星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

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137 はじめてのおつかい

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 コウケイ国一行を運ぶ軍の車列が襲撃を受けた。
 その現場を遠くに望める、とある高層建築内の一室にて――

「ちっ、何をやっているんだ、あのバカどもめがっ」

 舌打ちをしたのは狙撃手である。
 スコープ越しに襲撃現場が混戦に突入したのを目にして、引き金から指をはずし、銃口をおろした。
 敵味方が密集しては入り乱れており、あれではろくに援護射撃もできやしない。
 一方でターゲットのコウケイ国の要人は、こちらの動きを警戒して横転した車両の陰に完全に隠れてしまった。もう狙えない。
 建物の屋上に設置してある結界の魔導具の破壊を目論んだとおぼしき、奇妙な木偶人形も確かに仕留めたはずなのに、すぐに起き上がってはピンピンしているし。
 ばかりか、どさくさにまぎれて屋上へと向かうのを許してしまった。

「あげくにあの盾だ。こっちの銃弾をはじくだなんて……。くそっ、聞いてないぞ! 誰だよ? 楽な仕事だなんていったのは……」

 デタラメにもほどがある。
 狙撃手はぼやかずにはいられない。
 多額の報酬で請け負った殺し――穴倉に追い詰められた憐れな獲物、辺境の弱小国の姫君に風穴を開けて、葬るだけの易い仕事。
 だが、いざフタを開けてみれば、この体たらくである。

「……ふぅ、この仕事はもうダメだな。悪いがこれ以上は付き合いきれん。とっととずらかるとしよう」

 作戦続行は不可能……
 そう判断した狙撃手は、すぐさま撤収作業へと移行する。
 支えに使っていた二脚架を畳む。手早くライフルの長い銃身をとりはずし、ふたつに分け束ねた。かさばる銃床の部分をとりはずす。銃の本体ともども専用のケースに収納する。足下に落ちている薬莢を回収し、薄埃の上に残っていた足跡も消し、自分がこの場にいた痕跡を失くす。
 ほんのわずかな時間で撤収準備を完了する。
 最後にはずしたスコープにて、いま一度現場の様子を確認すれば、そろそろ大勢が決しようとしていた。
 予想通りにて襲撃側が劣勢に追い込まれている。敗北が濃厚にて、狩る者と狩られる者との立場が逆転してしまっている。もはや覆せそうにない。

「にしてもあの獣人の女剣士……やたらと強いな。ほとんどひとりで倒しているんじゃないのか?」

 狙撃手はスコープの向こうの光景に、顔をひきつらせる。
 魔法があり、魔銃があり、異世界渡りの勇者に宿る星のチカラがあり、空には飛空艇が浮かび、地には戦闘用の車両が走り、ゴーレムのような魔導兵器が戦場を闊歩する近代にあって、いまだに剣などという原始的な武器がどうして幅を利かせているのか?
 理由は簡単である。
 それはいまだに第一線級での活躍をみせているからだ。
 特に魔剣と達人の組み合わせは凶悪にて、敵を撫で斬りにしては戦場に血の雨を降らし、一騎当千の働きをみせる。

「ったく、でたらめにもほどがある。これだから剣士は嫌いなんだ」

 ケースを担いだ狙撃手、悪態をつきながらその場を後にしようとする。
 しかしドアノブに手をかけたところで、ぶるりと得体の知れない悪寒に襲われた。

「なんだ?」

 とっさにケースを置いて、懐より拳銃タイプの魔銃を取り出す。
 彼は長年の経験から、この手の勘を「気のせい」では済まさないことにしていた。
 こういう稼業に手を染めていると、時おりあるのだ。そしてこれを無視すると、たいていあとで後悔することになる。
 ドアに張り付く。わずかに開けては、外の様子を伺う。

 ……
 …………
 ………………

 誰もいない。特に不審な点は見当たらない。
 だというのに胸の奥がどうにもざわつく。「すぐにその場を離れるべきだ」と警鐘を鳴らしている。
 だから狙撃手の男はケースを引っ掴むなり、すぐさま廊下へと出て早足にて階段へと向かった。
 けれどもすぐ下の階の踊り場まで降りたところで、かすかに聞こえてきたのは「ハッ、ハッ、ハッ」という息づかいと、カツンカツンという足音である。
 得体の知れない何かが階段を駆けあがっては、ずんずん近づいてきている!
 このままでは階段途中で鉢合わせしてしまう。
 そこで狙撃手は踊り場から、その階の廊下へとそっと移動し、廊下を突っ切った先にあるもうひとつの階段の方へと向かったのだけれども。

 やり過ごしたはずのソレが遠ざかるどころか、ますます近づいている?!

 ハッとふり返った狙撃手がふたたび拳銃を構えるも、銃口の先にあらわれた相手に目が点になった。

  ☆

 襲撃は失敗に終わった。
 結界の魔導具も破壊されて、騒ぎを聞きつけてすぐに援軍が駆けつける。
 すぐさま現場となった路地は封鎖された。
 犯人たちの身柄は押さえられ、怪我人たちが病院へと搬送されていく。
 事後処理に奔走する面々を眺めつつ、迎えの車両が来るのをコウケイ国一行がぼんやり待っていると、そこへフセが戻ってきた。
 ズタボロになった男をくわえてきたもので、枝垂は「めっ! ばっちいから、ポイしてきなさい」


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