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135 路地裏の銃撃戦
しおりを挟む魔銃は文字通り、そのまんまの飛び道具である。
地球の銃火器類の魔法版だ。いろんなタイプがあるのだが、一般的なのは込める弾丸によって属性を変えられるモノである。
状況に応じて弾丸を使い分けることにより、もっとも効果的な攻撃を放てるのと、自分の魔力をほとんど消費することなく、魔法を撃ち続けられるというメリットがある。
弾薬代が少々値が張るものの、引き金ひとつで誰でも、お手軽にいろんな属性の魔法が放てる。
連合軍および各国の軍部でも正式に採用されている主力兵器だ。
ダダダダダダダダダダッ!
路地裏に銃声が鳴り響く。
降り注ぐ弾丸の雨。
転倒した車体を容赦なく打ちつけ、表面を削っては火花を散らし、チュンチュンとやかましい。
襲撃者たちはおもいのほかに用心深く、行動不能に陥った車列へと不用意に近づいてはこない。
離れたところからの一斉掃射に切り替え、執拗な追撃を仕掛けてくる。
襲撃者たちの手に握られているのは小銃タイプの魔銃だ。
装填されているのは、風属性により威力を高めた通常の弾丸にて。
小銃タイプは弾数が多く連射が効き、発射の反動が弱く使い勝手がいい。だがその分、一発の威力はあまり強くない。
よって貫通力はさほどでもなく、半壊して走行不能となっているとはいえ、軍用車両の装甲を突き破るまでには至らない。
魔銃のデメリットのひとつとして、弾丸の使用制限がある。弾数はもとより銃本体の性能を越える高威力の魔法が込められた弾丸は扱えない。
使えば銃の砲身が耐えられずに、たちまち暴発する。それに強い火力を持つ武器ほど扱いが難しくなるのは、地球の銃火器と同じだ。優れた魔銃には優れた射手がいてこそ、十全に活躍できる。
もしも敵勢の中に一組でもそれが混じっていたら、枝垂たちはいまごろ蜂の巣にされていたことであろう。
とはいえ、不測の跳弾もあるし、いつまでもひしゃげた車内にてカメになっているわけにもいかないので、そろそろこちらも反撃を試みる。
ピカッ!
エレン姫が光魔法による目くらましを発動。
敵前に発生した閃光により、攻勢が一時的に弱まる。
タイミングを見計らって、部隊長が飛び出した。車の歪んだドアを中から蹴破り外へと。
開けたドアはそのままに、盾として身を守りながら魔銃を撃ち返す。動ける隊員らも武器を手にこれに続く。
逃げ場のない一本道で正面からの撃ち合い。
飛び交う銃弾にて、たちまち激しい応酬となった。
襲撃者たちを牽制し体勢を建て直す一方で、負傷者の救助も平行して行う。
死人こそは出ていないものの、どの車両も派手に吹き飛ばされ横転したもので、無傷な者は数えるほどしかいなかった。半数がまともに動けないありさま、骨折などの重傷者もいる。急ぎ病院に搬送したいところだが――
「おかしいですね」
倒れた車両の陰にて、治療を手伝っていたエレン姫が現在の状況を疑問視する。
いかに寂しい場所とて、ここは街中だ。それも帝都の内である。離島のコウケイ国とは違うのだ。
大都会のど真ん中にて何本も火柱をあげるわ、派手な銃撃戦を繰り広げるわ、というのに、ちっとも援軍どころか野次馬ひとり駆けつけてこない。
「おそらくは通信が遮断されているだけでなく、外部に騒ぎが漏れないように、結界用の魔導具が周辺に設置されているのでしょう。まずはそれを破壊しないと」
「結界の魔道具ですか……それはどんな?」
枝垂が訊ねとエレン姫が「三角錐の形をした、ちょうどこれぐらいの大きさのものです」と、両腕を広げてみせる。
幅は三十モナレほどにて、二リットルのペットボトルほどの高さであろうか。
おもったよりもずっと小さい。それを等間隔に配置することで、人工的に隔離された都会の死角を産み出すことが可能となる。
その点では、ここは周囲の建物にて視界も遮られており、最高の立地であった。
本来は行軍中の宿営地などの安全を確保するために使用されるのだけれども、どうやらそれを改造し悪用されているらしい。
というのがエレン姫の見解だ。
だから枝垂はキョロキョロと自分たちの周囲を見回してみるも、それらしいモノは見当たらない。
というか、先ほどの爆発やら激しい銃撃の中にあって、そんなモノがとても無事でいられるとは思えない。だとすれば――
「おそらく上だな。建物の屋上に設置しているのだろう」
ジャニスは建築物の谷間から空を見上げる。
そうとわかれば話は簡単だ。
「飛梅さん、ちょっと見てきて」
空をシュタタと駆けられる飛梅さんならば、上に行くのなんて造作もないこと。
枝垂に命じられて、さっそく飛梅さんは向かおうとする。
けれども、そう易々とはいかなかった。
ダーンッ!
ひと際大きな銃声が鳴ったとおもったら、飛梅さんのカラダが前のめりとなり、そのまま宙ででんぐり返りして落ちてきた。
後頭部に一撃もらったようだ。飛び上がったところを背後から狙われた。
ライフルタイプの魔銃を用いた何者かの狙撃である。
音と着弾のタイミングにほとんどズレはない。狙撃ポイントまでの距離はせいぜい三百から五百メナレといったところか。
どうやら枝垂たちの考えは甘かったらしい。
敵勢の中に、優れた魔銃を持った優れた射手がひとり混じっていたようだ。
ぞわり!
不意に枝垂のうなじが粟立つ。
同時に湧いたのは、いい知れぬ不安である。
もの凄く厭な感覚に見舞われた刹那、襲撃者らがいる所よりもずっと後方にて、チカッと小さな光が浮かんだのが目に入った。
瞬間、枝垂は考えるよりも先に動いていた。
躍り出たのはエレン姫を庇う位置である。
そこでふたたび重たい銃声が鳴り響く――
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