星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

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134 襲撃

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 連合評議会に参加した要人が、帰国の途のさなかに不審死を遂げる。
 いかに公用車が動く大使館扱いにて治外法権、すべては自己責任であるとはいえ、帝国領内で事件が起きた以上は知らぬ存ぜぬではすまない。
 ラグール聖皇国との兼ね合いもある。いらぬ難癖をつけられないためにも初動対応は速やかに行う必要がある。
 ムクラン帝国側はただちに厳戒態勢を敷いた。
 そして国外退去しようとしていた各国の要人や星の勇者たちの身柄を確保し、保護下に置く。
 いまのところはまだ犯行声明は出ていない。
 しかし事件が起きたタイミングをかんがみて、反勇者派の犯行を疑ったからである。
 よしんば反勇者派が無関係だとて、第二第三の被害が続けば、ムクラン帝国や連合軍の権威は失墜する。それはなんとしても避けねばならない。

  ☆

 駅から宿舎へとトンボ返りすることになったコウケイ国一行。
 迎えの軍用の魔導車の車内にて事のあらましの説明を受けつつ、先導されて宿舎へと向かっていたのだけれども――

 最初に異変に気がついたのはジャニスであった。
 車窓の景色を目にして「うん? ここはどこだ。道が違うようだが」と言い出す。
 エレン姫や枝垂には土地勘がなく、慣れない都会ゆえにいまひとつ違いがわからない。どこも同じように見える。けれども警護役である近衛士のジャニスは役目上、地図や移動経路は把握しており、頭の中に叩き込んでいる。だからこそ外の景色に違和感を覚えた。
 これが枝垂たちが滞在していた宿舎ではなくて、軍の管理下にある別の場所へと向かっているのならば、おかしな話ではない。
 でも、そうではなかったらしい。
 なぜなら同乗している部隊長が「えっ、なっ、これはどういうことだ?」と慌て出したもので。

「おい! 道が違うぞ、いったいどうなっている?」

 部隊長が運転手を詰問すれば、彼は「いえ、自分は前方の車のあとについて行っているだけでして」としどろもどろ。
 とどのつまり、車列が先頭車両によって、予定外の場所へと誘導されているということ。
 この時点で車列は、人通りや交通量が多い場所からそれて、随分と寂しい場所へと入り込んでいた。

 両脇にそびえ立つ建造物の背がびっちり連なり壁となっている。
 薄暗い一本道。道幅も狭く、一度の切り替えしではUターンできないだろう。
 見上げた先にある空が天窓のようにて、そこだけ世界から切り取られたかのよう。
 まるで都会の死角のような場所……

 部隊長はすぐに車列を止め進路を戻すようにと、指示を出すべく通信機に手をのばすも、その時のことであった。
 枝垂たちが乗る車両のすぐ目の前で火柱があがった。
 運転手が驚き慌てて急ブレーキを踏む。
 おかげで魔導車ごと炎に突っ込むことはなかったけれども、ホッとしたのも束の間。
 続けて、ドンッ!

 もの凄い突き上げを喰らって、車内にいた枝垂たちは揃って天井に頭をぶつけた。
 と――天地がぐりんと逆さまになった。
 視界がひっくり返る。
 いや、違う。ひっくり返ったのは自分たちが乗っている魔導車だ。
 原因は爆発である。ちょうど車両の真下にて何かが盛大に爆ぜては、上にいた魔導車を吹き飛ばしたのだ。

 ドォオォォォンッ!
  ドォオォォォォンッ!

 さらに火柱があがっては爆発が続く。
 中にいる枝垂たちには成す術なし。
 ただ、ただ激しい揺れに翻弄されるばかりであった。

  ☆

 黒煙と粉塵が薄靄となり垂れ込めている路地に、キュルキュルとタイヤが空回りしている音が虚しく響く。
 転倒し腹を見せている車両、車体が半ばひしゃげて潰れている。
 だが全壊はしていない。あれほどの爆発に巻き込まれたわりには、原型を留めていられたのは、頑丈な軍用車両だからであろう。これが普通の魔導車であったら、いまごろ枝垂たちは鉄の棺桶の中で、揃って火炙りになっていたことであろう。

「みんな無事? ちゃんと生きてる?」

 エレン姫の呼びかけに「なんとか」「いちおう」と答えたのはジャニスと枝垂だ。
 危ういところであったが、エレン姫がとっさに風魔法を使って、風のクッション――エアバックみたいなもの――を張ってくれたおかげで、被害は軽いむち打ち程度で済んだ。
 飛梅さんとフセは問題ない。部隊長と運転手もちょっと頭から血を流しているけれども無事だ。

 どうやら何者かの待ち伏せを受けたらしい。
 逃げ場のない路地に誘導して、地雷みたいなヤツでドカンとしてやられた。
 枢機卿の件に続いて、恐れていた事態が起きてしまったのだ。
 いろいろとわからないことだらけにつき、困惑を隠せない。
 とはいえ、いまはこの窮地を切り抜けるのが先決である。
 なにせ襲撃がこれで終わりではなかったもので。

 直後に始まったのは魔銃を用いた銃撃戦である。
 敵勢とグルである先頭車両が道を塞ぐ格好で停車しており、これを盾として襲撃者らがドンパチを始めた。
 こちらも動ける者から随時応戦を開始するが、後手に回っており序盤から劣勢を余儀なくされる。


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