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132 足止め

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 連合評議会は、親善交流試合がむちゃくちゃになったりして、途中ちょっと荒れたもののいちおうの日程を消化してお開きとなった。
 帰りは空の旅ではなくて、辺境国は各自で陸路を乗り継ぐことになる。
 というのも、来るときに世話になった飛空艇は到着後すぐに、ドック送りとなったからだ。なにせ一度墜落しているし、突貫工事にて修理し、あり合わせの輝石を搭載しており、調整もままならぬ状況の中で飛行をしたものだから、あちこちかなりガタがきていたからしょうがない。

 それでも枝垂たちはご機嫌であった。
 なぜなら修繕やら輝石の代金をたんまり貰えたから。なにせ提供した輝石は海の禍獣ラッコステイのモノにて、等級は準白銀級のめったにない上物だ。中央のオークションに出せば、かなりの値がつくのは確実である。
 ぶっちゃけ手に入れたものの扱いに困り持て余していた。そんな不良在庫を引き取ってもらえたのだから、コウケイ国側は万々歳である。そして期せずして、いい輝石を手に入れられた連合軍側も大喜びという次第。

 でも、枝垂たちがホクホク顔でいられたのは中央の駅のホームにて、帰りの列車を待っていた時までである。

 ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ――

 規則正しくも硬質な足音が大量に聞こえてきたとおもったら、枝垂たちはたちまち軍人らに囲まれてしまった。

「えっ、えっ、えぇーっ!」

 意味がわからず枝垂はオロオロするばかり。
 飛梅さんはそんな枝垂を庇うように前に立ち、フセも「ぐるる」と威嚇する。

「これは何事か? 当方をコウケイ国のエレン姫の一行と知ってのことか!」

 ジャニスも腰の剣に手をあて、軍人らをねめつける。
 でも、いきり立つジャニスを制し、エレン姫は努めて冷静に「どういうことでしょうか」と訊ねた。
 すると軍人らを率いていた者が一礼し、言った。

「申し訳ありません。不測の事態が起きたもので、皆さま方には宿舎の方へお戻り願います。ここではちょっと……詳しい事情は向かいながら説明させていただきます」

 慇懃だが有無を言わさぬ態度であった。
 これは逆らうだけ無駄だと判断したエレン姫により、枝垂たちは素直に従うことにする。
 しかし迎えの魔導車に乗り込み、宿舎へと向かう道すがら、聞かされた話に枝垂たちは驚愕する。

  ☆

 親善試合でひと悶着あった後の一昨日の親睦パーティー。
 終わってみれば女帝スフォルツア・ウル・ムクランの独壇場にて、ムクラン帝国のひとり勝ちとなっていた。
 なにせ、辺境対中央の勇者対決での負けをあっさりと認めては、それを糧により精進するようにと激励し度量の広さを示すわ。
 みずからエレン姫のところに歩み寄り声をかけることで、他の国は知らぬが少なくとも自国は、辺境を蔑ろにはしていないとアピールするわ。
 アリエノールとラジールとの婚約発表をすることで、中央と辺境との結びつきを厭うことはないと知らしめるわ。
 一方で信仰を錦の旗に掲げては、ここのところ何かと専横が目立っているラグール聖皇国をこきおろしギャフンと言わせては、みんなの留意を下げるわ。
 挙句の果てにはパーティー終了間際のことだ。

「では、そろそろ今宵のパーティーを終えるとしよう。だが、そのまえに……」

 女帝は新たに酒が注がれたグラスを掲げた。

「先のイーヤル国で起きた対赤霧戦において、敢然とこれに立ち向かい散っていった英雄たち、チーバ国の勇敢なる星の勇者ヴィクターへの哀悼と冥福をみなで祈ろうではないか」

 死者への手向けの言葉。
 これに辺境の国々の代表たちはハッとする。
 枝垂や浩然、岡本英二に黒岩保ら、ヴィクターと共に戦場を駆けた者らは、自分でも気づかぬうちに涙が頬を伝う。
 全員で黙祷を捧げ、パーティーはしめやかに幕を閉じた。

 中央五ヶ国に対する辺境諸国の不信感は何世代にも渡って累積されたもの、すぐには払拭されないであろう。
 それでもムクラン帝国は違う。
 少なくとも女帝スフォルツアが君臨している間は、信用してもいいのかもしれない。
 もちろん、この一事でもって全面的に信じるほど各国の代表たちは甘くない。
 それでも……期待させる何かを残すことには成功した。いわば、未来への種まきのようなもの。ちゃんと芽が出るかどうかはこれから次第。
 だがそれで十分、現状においてはこれ以上の成果はないであろう。

 パーティーの翌日、つまり昨日になるのだが、その日は偉い人たちが集まっての会議にて日を費やし、決まったのは現状維持という方針であった。
 なお希望する国は、随時、勇者を中央に返納することが可能となり、さっそく二ヶ国ほどが申し出たそうである。
 こうして本日は帰国の途につくはずであったのだが、急遽、足止めを受ける。

 理由はラグール聖皇国の大使であるカイトリー枢機卿が急死したためである。
 死因は爆死……乗っていた魔導車が突如、爆発炎上して還らぬヒトとなった。死体は四散し炭化して、ほとんど原型を留めていないという。

 要人を狙った爆破テロが勃発!

 これにより帝都内には厳戒態勢が敷かれ、まだ国内に留まっていた各国の大使および星の勇者たちも留め置かれることとなった。


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