上 下
129 / 242

129 女帝

しおりを挟む
 
「やっぱり納得がいかない。どうして、あれが引き分けになるんだよ」

 枝垂は小皿に取り分けた肉料理をつつきながら、不満たらたら。
 それを「まぁまぁ」となだめていたのは、ドレスで着飾ったエレン姫と、近衛士の礼服姿のジャニスである。
 場所はムクラン帝国の宮殿内だ。むさい試合会場とはうってかわって、優雅な音楽が流れる煌びやかな親睦パーティー会場の片隅である。
 結局、親善交流試合は第四試合をもって打ち切りとなった。
 なにせ岩の巨人とギガンテック赤べこが暴れたもので、会場の建物は半壊し、内部もしっちゃかめっちゃか。とてもではないが続けられないと判断された。

 ――それはともかく、枝垂がむくれていたのは第四試合の判定である。
 誰がどうみても、あれは枝垂の勝ちであろう。
 きちんとトドメもさした。いや、さすがに殺してはいないけど……
 なのに無効試合にされてしまった。
 たぶんラグール聖皇国が難癖をつけたのであろう。親善交流試合なんぞを仕組んでは、辺境組を槍玉にあげたり、各国が保有する勇者を取り上げようと画策したり、あるいは辺境に対してマウントをとろうとする手口といい、あの国はやることなすことがとにかくコスい。

 もちろん枝垂は「そんなのおかしいだろう!」と抗議するも、ダメであった。
 逆に運営サイドのえらい人から「認めてもいいけど、そうなると責任問題が……。会場の修繕費、いったいいくらかかることやら」と耳元で囁かれてしまった。
 暗に賠償のことをほのめかされて、枝垂はグギギと歯噛みする。
 お金のことを言われると弱い。
 あくまで試合中のアクシデントとして突っぱねたいところだが、フセが壊した範囲って、じつは岩の巨人よりもずっともっと多かったりする。
 六対四ぐらいで、フセの方が会場をぶっ壊している。天井は完全に抜け落ち、建屋は傾き全体が歪んでヒビだらけ、土台も損傷していることであろう。たぶん建て直しとなる。
 現在、星クズの勇者はコウケイ国に身を寄せている。
 よって立場上、コウケイ国にしわ寄せがいく公算が高い。それだけはなんとしても避けなければならぬ。
 ゆえに枝垂も口を閉じるしかなかった。

  ☆

 親睦を深める名目のパーティーは絢爛豪華にて、目もくらむほど。
 料理もたくさん用意されておりどれも美味しい。折詰にして持ち帰りたいほどだ。シモンやクラスのみんなにも食べさせてあげたい。
 だが、パーティーそのものはちっとも楽しくなかった。
 試合を終えてノーサイド? 和気あいあいムードとはほど遠い。

 冷静になって会場内を見渡せば、そこにはギガラニカの世界情勢の縮図があった。
 寄親と寄子――大国とその取り巻きたちで構成された五つの集団と、そこに属さぬ辺境の小集団らと。連合軍サイドはいちおう中立を保っているものの、こちらにも派閥があるらしく、いくつかの集団に分かれている。
 表面上は穏やかなれども、目には見えないせめぎ合いにて空気がピリピリしている。
 距離を縮めるどころか、いっそうの溝と開きを感じる。
 よくもまぁ、こんな調子で世界の災厄である星骸に対抗してこれたものだと、枝垂はむしろ感心した。

 とにもかくにも巻き添えはごめんである。
 気まずい空気から逃れるようにして、会場の片隅にて縮こまっている枝垂たちのもとへと、挨拶に訪れたのは連合軍に所属しているラジールとアリエノールであった。
 黒髪の偉丈夫と銀髪の美女のふたりは付き合っており、いまは婚約が正式に承認されるのを待っているところである。
 なおラジールはコウケイ国の王太子にしてエレン姫の兄、アリエノールはムクラン帝国の王女さま……とはいえ王位継承権は第二十八位と末端も末端だけれども。
 どちらも立場があるので、何事もおいそれとはいかない不自由な身なのである。

 再会を喜ぶ一同。

「いやはや驚いたぞ。強いなぁ、辺境の勇者たちは……もちろん枝垂もだ。だというのに、無効試合だと? 聖皇国の連中はいったい何を考えているのやら」
「まったくですね。以前から信仰を盾にとっての、連中の厚顔っぷりには目に余るものがありましたが、あれほど恥知らずとはおもいませんでした。
 にしても、よもや枝垂があの赤べこを使役するとは驚きです。しかもあのような芸当まで」

 ラジールとアリエノールから面と向かって健闘を称えられて、枝垂は「いやぁ、それほどでも」
 星クズの勇者はあまり褒められ慣れていないもので、赤面してモジモジ照れた。
 が――楽しく歓談していられたのはここまで!
 次の瞬間、会場の空気がざわりとする。
 同時に視界の中の人だかりが、さっと左右に割れた。
 あらわれた道をこちらに向かってくるのは、プラチナの長髪に黒い毛が混じっている獣人の女性である。純白の豪奢なマントを羽織っており、頭には王冠を被っている。肩で風を切ってどころか、それこそ世界そのものを切り裂いて突き進むかのごとき威風堂々っぷり。そんな女傑が多数のお供や取り巻きどもをぞろぞろと引き連れて。
 圧倒的なまでの存在感だ。彼女が一歩動くたびに、自然と周囲が動かされている。いや、それどころか彼女の一挙手一投足に会場中が釘付けとなっている。

 雰囲気や目元がどことなくアリエノールに似ているかも。
 なんぞと枝垂はおもったのだけれども、それもそのはずだ。
 この御方こそがアリエノールの母親であり、ムクラン帝国を統べる女帝スフォルツア・ウル・ムクランであったのだから。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

処理中です...