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128 終・狩りの時間
しおりを挟む暴走する岩の巨人により、試合会場はしっちゃかめっちゃか。
これを止めるには、巨人にとり憑いている寄生獣スネカジリシャブリをどうにかするのが手っ取り早い。
でも、スネカジリシャブリは細いヒモ状の形にてニョロニョロしている。
破壊の権化となった全長十五メナレ越えの巨体から、それを探し出してピンポイントでやっつけるのは至難の技であろう。
五つ星のレジェンドレア装備をつけている飛梅さんならば、正攻法でもきっと余裕で殴り勝てるのだろうけど、ケリがつくまでに被害がどこまで拡大することやら。
会場の貴賓席には各国の大使やお偉方がいる。
怪我でもさせたら大事となる。だからとっとと介入して試合を強制的に止めればいいものを、なぜだかその気配はみられない。最強の勇者さまも姿をあらわさない。
ラグール聖皇国が意地を張っているのか、あるいは別のどこかの意図が働いているのか、もしくはわざと放置し見定めているのか。
どうやら五ヶ国といっても一枚岩ではないようだが、なんにせよあまり愉快なことではない。
ぶっちゃけ中央の連中がどうなろうと枝垂は知ったこっちゃない。
けれども、会場の中には知り合いも混じっているし、なによりエレン姫やジャニスに危害が及ぶのだけは看過できない。
よって、すみやかに事態を収束する必要がある。
「ふぅ、しょうがない。フセ~、ちょっとこっちへおいで」
枝垂は呼びかけ、ちょいちょい手招き。
コンベアを完食していたフセが、ぐらつく首を上下させながら「ハフハフ」駆け寄ってきた。
ところへ亜空間収納の「梅蔵」から取り出したオウランの輝石を、その胸元に装着する。
するとたちまちフセの身が光を帯び、膨らんでいく。
――説明しよう。
伝説の神獣と呼ばれる黄金級の禍獣であるオウラン、その三本ある尻尾のひとつとオウランの輝石が「梅蔵」で熟成されることにより、受肉し爆誕したのが赤べこのフセである。
どうして会津若松の郷土玩具、縁起物でもある赤べこの姿をしているのか?
理由は枝垂にもわからない。
おそらくは梅繋がり……、道真公とウシにちなんでだとおもわれるが詳細は不明にて、あくまで憶測の域を出ない。
そんな赤べこのフセの口は、まるでブラックホールのごとし。
食欲は底なしにて、なんでもかんでもパクリとしては、モグモグごっくんしてしまう。
ふだんは大型犬ぐらいのサイズである。
だが、ひとたびオウランの輝石を装着すれば、たちまち巨大化して、ギガンテック赤べことなるのだ。
巨大赤べこは、かつてコウケイ国城内にて大暴れをしてはみなを震撼せしめ、海底大空洞では猛威を振るっていた強敵ダイナムクラーゲンを、パクっと丸呑みしてみせたこともある。
ずんずん巨大化していくフセが、じきに岩の巨人の背丈を上回った。
だがフセはまだ止まらない。さらに相手を見下ろすほどになり、ついには会場の天井をも突き破るほどにもなった。
あらわとなった青い空。
降り注ぐ陽光を受けて、真紅の寸胴ぽってりボディに黒い斑点模様が光る。
短い四肢は太く、首が上下にカクンカクン。
ギガンテック赤べこ、ここに降臨す。
でもって大口を開けるなり、慌てて逃げようとしていた岩の巨人を上からパクリ!
その際にちょっと目測を誤ったのか、周囲の地面やら瓦礫もまとめて食べちゃったのは、ご愛敬。
☆
騒ぎが収まった会場に「くちゃくちゃ」という咀嚼音だけが響く。
それも次第におさまっていったのだけれども、最後の方になったところでフセが、ペッ。
吐き出したのは見覚えのある道化師であった。
どこにも姿が見当たらないとおもったら、さっき石くれにまぎれていっしょに食べられてしまっていたようだ。さしものフセもこれは喰いたくなかったらしい。
「うぅ」
苦悶の声がするも、いまにも消え入りそうなほどにか細い。
グレゴリーはズタボロだ。手足が変な方に曲がっている。
けれども、いちおうは生きている。
さすがは腐っても星の勇者である。無駄に頑丈だ。
にしても、この段になってもまだ枝垂の勝ちが宣告されない。
だから枝垂は嘆息にて、いささか気の毒なれどもトドメをさすべく「えいっ」
召喚した空の梅壺を、うつ伏せで倒れているグレゴリーの後頭部めがけて落として、パカン!
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