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125 続・狩りの時間
しおりを挟む「ヒャーッ、ハッハッハッ」
グレゴリーが下品な高笑い。
十八頭のガウガウの群れがシュタタタタタ、口元からヨダレを垂らしては目を血走らせて獲物へと襲いかかっていく!
そのあとに起こるであろう無惨な光景を想像し、はやくも客席のそこかしこから悲鳴があがる。
けれどもその直後のことであった。
悲鳴はすぐに止んで、かわりに観客たちの間にて戸惑いのさざ波が起きた。
「ヒャッハッハッハッ………………って、はぁあぁぁん?」
グレゴリーの耳障りな笑いも引っ込んで、ラグール聖皇国の道化師はおもわず前のめりとなった。
なぜなら枝垂たちのもとへと殺到したガウガウたちが、ほんの一瞬のうちに蹴散らされたからである。
飢えた獣たちが迫る中、飛梅さんはずいと前に出て枝垂を庇う。彼女の頭につけている簪(かんざし)の梅の花飾りが、かちゃりとわずかに鳴った。
とおもったら、次の瞬間には血飛沫があがり、折れた牙が飛び散っては、もうガウガウたちのカラダが宙を舞っていた。
拳撃がガウガウらの頬を打っては吹き飛ばし、蹴りにてまとめて薙ぎ払う。
きゃんと悲鳴をあげる暇もないほどの、電光石火であった。瞬く間に雑魚たちを駆逐していく。
一方で群れのボスである赤黒い個体はという、ちゃっかり迂回しては横合いから枝垂の身を狙っていたのだけれども……
「えいっ」
ポコンと放たれたのは種ピストルである。
たしかにガウガウの動きは俊敏だ。禍獣化しているボスの動きはいっとう優れている。けれども日頃からカーラス相手に激烈な攻防戦を繰り広げている枝垂からすれば、余裕で捉えられる程度であった。
なにせカーラスどもときたら、いち早く魔力の流れを察知しては魔法をひょいと避けるわ、編隊飛行にて強襲をかけるわ、その漆黒の翼にて天空を自在に飛翔するわ。
それに比べると、しょせんガウガウの速さは地を這うだけのもの。
ほぼ水平移動に過ぎず、いまの枝垂にとっては片目をつぶって欠伸をしながらでも狙いをはずさない。
パンパンと枝垂の指先から放たれた種は二発。
狙いあやまたず、向かってくるボスの鼻先と右目に当たり、ボスは驚き間抜け面にて足を止めた。すかさず口の中に酸味百倍の激スッパ罰ゲーム仕様の梅干しを放り込む。
たちまち口腔内に広がるは、未知の領域の酸味。
それは脳天からつま先どころか、全身の毛の一本一本の先端にまで到達しそうなほどのスッパサ。口をすぼめるとか、眉根を寄せるとか、身悶えするとか、そんなレベルのものではない。
脳内で処理しきれない刺激により、たまらずボスは「ぎゃぴぃい」という奇声を発する。
でもって、虚ろな目でフラフラしているところを、その喉笛にガブリと食らいついたのはフセであった。
バキ、ボキ、グシャ、ぐちゃぐちゃ。
赤べこの首が上下にゆらゆら。顎が動くたびに小気味よく骨が折れる音がして、肉がひしゃげ、たちまちごっくん。
ばかりか、フセは飛梅さんに打ちのめされて、ヒクヒク痙攣しているガウガウたちのところにも駆け寄っては、片っ端からパックンチョ!
赤べこのフセは食欲の権化である。その口はブラックホールにて、満腹知らず。
普段は枝垂の与える梅干しメインの食事で我慢しているけれども、コウケイ国をかつてない危機に追い込んだのは伊達ではない。
☆
飛梅さんの乱舞、赤べこのフセの胃袋に消えたガウガウの群れ。
赤胴級とはいえ禍獣を手玉にとる星クズの勇者。
予想外の展開に、客席は静まり返り、グレゴリーはしばし固まった。
でも、これで試合終了とはならない。
諦めたらそこで終わりだとばかりに、グレゴリーが再起動を果たす。
「くっ、お、おのれぇえぇぇぇ。だが、いい気になるのはまだ早いぞ。いいだろう、そっちがそのつもりならば、こちらも、もう手加減はせんぞ!」
怒鳴りながら、グレゴリーが指を鳴らすと、ふたたび舞台上に光る魔法陣が出現する。
ただし、今度は相撲の土俵ぐらいのがひとつきり。
魔法陣より立つ光の柱の奥からあらわれたのは、八メナレはあろうかという巨大な獣であった。
コンベアというヒグマみたいな動物である。
基本的に用心深く、めったに人前には姿をあらわさない。しかしチカラは強く、その豪腕は太い生木をまるで小枝のごとくへし折り、爪は鉄の盾をもたやすく切り裂く。ごわごわしたハリガネのごとき毛と厚い体脂肪に守られた肉体は、重厚にして頑強ゆえに、なかなか刃も通らない。
危険な動物である。森で遭遇したら無闇に刺激をしてはならない、特に夏場の子連れの雌には絶対に近寄らないこと。
と――枝垂は学校の授業で習った。
グレゴリーはいけ好かない奴だが、どうやらその身に宿りし「隷属」の星のチカラは本物のようだ。もしも多数の動物や禍獣などを同時に使役できるとしたら、ひとりでスタンピートを起こせる。使いようによっては、大隊か、それ以上の効力を発揮するだろう。
でもって、そんな物騒な能力を有する星の勇者を欲しがるラグール聖皇国というのも、相当にうさん臭い。
「世界線をまたいでも火種となるのか。信仰っていったい何なんだろう」
残念ながら神は実在する。それは間違いない。でもそこから派生する宗教や信仰の存在意義がいまひとつ理解できない。
いろいろあって枝垂の中で神さまの株は大暴落中につき。
ぶつぶつぼやきつつ、枝垂は新たに出現したコンベアと対峙する。
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