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118 第一試合 ブラックアイスバーン

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 ふたりの影が重なる。
 懐に飛び込んでからの横薙ぎ。
 しっかり剣の間合いに入っており、浩然は後退しようとするも、迫る切っ先の方が速い。
 これは避けられない、当たる!
 控室のモニター越しに観戦していた枝垂は、つい我がことのように拳をグッと握りしめていた。
 けれども、その直後のことである。
 今度は仕掛けた今村日美子の方が、大きく目を見開くことになった。
 客席からもどよめきが起きた。

 シャアァァァァァーッ。

 まるでフィギュアスケートの選手のように、銀盤の上を華麗に滑っていたのは浩然である。
 瞬間的に星のチカラにて足下に薄氷を張っては、その上を器用に後ろ滑り、あっという間に窮地を脱する。
 ブラックアイスバーン……道路が薄い氷に覆われる路面凍結だ。
 それを疑似的に発生させ応用する歩法術。
 浩然の巧いのは、一面すべてに氷を張らずに、まるで氷のレールを敷くかのごとく必要最小限の範囲に留めていること。
 星のチカラは有限である。鍛錬次第でのびるが、枯渇すれば意識を失いぶっ倒れる。戦いのさなかに行動不能に陥ることは死を意味する。だからこそ、チカラの使いどころやペース配分には細心の注意を払う必要がある。
 その点、浩然のこの技は燃費が非常に優れていた。

  ☆

 ギガラニカの住人たちの体内には魔力を司る器官があり、それにより彼らは魔法が使える。
 けれども地球からやってきた星の勇者たちには、その器官が備わっておらず、よってせっかくの異世界転移にもかかわらず魔法は使えない。
 でも、その代わりとして授けられるのが星のチカラである。
 宿る星のチカラは各々で違う。
 火を司るチカラならば炎を操れ、風ならば風を……といった具合に。
 他の者と系統が重複することもあるし、たんなる魔法の劣化版に留まるものから、成長次第で上位互換へと至ることもある。もしくは地水火風光闇の魔法属性から大きく逸脱し、まるで異質なものもある。

 だから浩然と今村日美子との第一試合は、準拠と非準拠との戦いという側面をも併せ持っていた。

 レアな異能は、その特異性こそが優位性へと通じる。
 それに比べると幾分は見劣りするであろう準拠能力は、ギガラニカ世界の住人にとって目新しさはない。
 しかし、それゆえにこの系統の星のチカラを宿した者は、現地人から学べることが多々。育成方法が確立されており、いわばマニュアルがすでに存在しているようなもの。先人たちの知恵をすぐに真似して、応用できるというメリットは大きい。
 そして浩然が所属しているイルノートには、優れたハンターたちがたくさん所属している。
 ブラックアイスバーンは、諸先輩方から多くのことを叩き込まれた辺境の星の勇者、その真価のいったんが垣間見えるチカラの使い方であった。

  ☆

 今村日美子の周囲をぐるぐるまわっていた浩然が仕掛ける。

「氷散弾」

 手の平から次ぎ次ぎに打ち出されるのは、氷の礫。
 枝垂の種ピストルと同じような技だが、おそらく威力は段違いであろう。なにせ星クズの勇者とは違って、本物の星の勇者の放つ攻撃なのだから。
 照明を受けてキラキラ光る氷の粒たち、まるでイルミネーションのように美しい。
 三百六十度に張られた氷の弾幕。
 今村日美子にとっては死地にて、その中心に囚われた彼女に逃れる術はない。
 いや、一ヶ所だけ逃げ道が残されている。
 それは上空である。
 でもそれはきっとわざと、浩然の罠だ。
 羽ばたき飛び上がった水鳥を撃ち落とすかのようにして、狙い撃たれることであろう。
 やはり浩然は狩人だ。まるで詰将棋のごとく布石を打っては、獲物を着実に追い詰めていく。

 さぁ、どうする今村日美子。

 一同が固唾を飲んで見守る中、ムクラン帝国の星の勇者が動く。
 彼女が選択したのは、なんと直進であった!
 あえて弾幕へとみずから向かって行く。被弾覚悟で強行突破をはかるつもりか。
 するとここで彼女の全身が薄っすらと光を帯びた。
 はめている白い手袋、その表面に六芒星の紋章が透けて浮かぶ。それすなわち、それだけ中で強く輝いているということ、星のチカラを強く発動したということ。
 それに合わせて、彼女を中心にして例の不可解な現象が起こる。

 カシャッ――
  カシャッ――
   カシャッ――

 まるでカメラのシャッターを切っているかのよう。
 撮影した画像を繋げてのコマ送り。静止、再生、静止、再生、静止、再生……まばたきにも満たない刹那にそれが何度も繰り返される。
 視界の中の時間の流れがおかしい。
 現実がパラパラ漫画になったような錯覚を受ける。
 そんな奇妙な光景であった。
 
 そんな中にあって、ひとり自由に動いていたのが今村日美子である。
 向かってくる大量の氷の礫を躱し、掻い潜り、合間を縫っては、ときに剣ではじきつつ、猛然と浩然へ迫っていく。その顔にはいかにも楽しくてしようがないといった、笑みが浮かんでいた。


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