星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

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117 第一試合 エリートと叩きあげ

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 舞台上のふたりの男女は対照的であった。
 ムクラン帝国の星の勇者の名は、今村日美子(いまむらひみこ)といい、枝垂と同じ十代とおぼしき黒髪の美少女。
 いかにも生徒会長とかやっていそうである。
 黒のブーツに、藍の地に金紐の飾りが着いたジャケット風のマントを羽織り、ズボンを履いている。優雅さの中にも毅然とした造りの着衣は、軽騎兵を彷彿とさせる。腰には剣を差しており、古式ゆかしい軍服を連想させる制服姿は、勇者を育成するための学園のもの。
 白手袋をはめており、手の甲に刻まれている紋章は外からでは見えない。
 意図して隠しているのか、手袋もまた制服の付属品なのかは不明だ。
 ただし、たんなるコスプレなんぞではなくて様になっている。全身から滲ませる自信と、その着こなし具合からして、見かけ倒しということはなさそう。
 さすがは大国が第一シードで選んだ勇者だけのことはあるということか。
 大陸随一の軍事国家が欲したチカラやいかに?

 これと対するはカララバの国の星の勇者である浩然だ。
 浩然は二十代前半の中国人の青年、宿す星のチカラは氷を操る。彼がホームステイしている先は国土のじつに八割が森林という土地柄ゆえに、獲物が豊富で狩猟が盛ん。
 それゆえにイルノートが大きな支部を構えている。
 イルノートは、採取や動物、禍獣を専門に狙う者らが所属するハンター組合のことである。大陸の各地に支部を持ち、所属できるのは一定以上の技能を認められた者のみ。
 辺境送りとなった浩然は、いきなりイルノートのブートキャンプに参加させられて、ぞんぶんに揉まれた猛者である。やや斜に構えているものの、気のいい兄貴だ。
 そんな浩然は、使い込まれたマントに革鎧という身軽な装備にて、いかにも狩人とか冒険者といった格好である。

 片や恵まれた環境にて英才教育を施されたエリート勇者。
 片や過酷な現場で揉まれて泥にまみれた叩きあげの勇者。

 宿りし星のチカラだけならば、差は歴然。
 だけれども、戦いはそれだけで決するわけじゃない。
 こと戦闘経験に関しては、浩然は辺境の勇者たちの中でも屈指を誇るであろう。実際、イーヤル国での対赤霧戦においてもよく動けており、目覚ましい活躍をしていた。完全実力主義であるイルノートという組織の一員として認められるとは、そういうことなのだ。

  ☆

 じっとにらみ合う今村日美子と浩然。
 試合の立ち上がりはとても静かであった。
 双方ともに動かずに、相手の出方を伺っている。
 でも両者の表情を見比べると、今村日美子の方にはやや気負いが見え隠れしているようだ。大国の看板を背負っており、指導に当たったであろう先輩勇者らからも発破をかけられているのかもしれない。
 比べて浩然は飄々としており、自然体であった。

 先に動いたのは浩然であった。
 やおらマントを脱ぎ捨てる。
 宙に広げられたマントが、まるで生き物のようにふわりと舞う。
 その動きに多くの観客らが目を奪われたことであろう。かくいうモニター越しに観戦している枝垂もそうであった。そしておそらくは対峙している今村日美子も……

 ひゅん!

 鳴ったのは弦の音にて、放たれたのは短い矢。
 小弓だ。折りたたみ式にて腕に装着してあったもの。
 マントの下にそのような武器を隠し持っていたことを、浩然は億尾にも出さなかったもので、客席にてどよめきが起きた。
 注意をそらしての不意打ち。
 じつに狩人らしい一射にて、獲物を完璧に捉えており、これは避けられない。肩口あたりに矢が突き立つ。
 誰もがそうおもったのだけれども、ここで信じがたいことが起きた。

 すいと、さも当然であるかのごとく今村日美子が矢を躱したのである。
 それも目で見て避けたとか、身体能力により飛来物に反応したとかではなくて、まるでそこに矢が来るのがあらかじめわかっていたかのような動き。
 あまりにも不自然! あまりにも不可解!
 まるで矢が飛んでくる一瞬だけ、時の流れがぶつ切りにされたかのよう。コマ送りのフィルムを切り貼りしたかのような歪さがあった。

 浩然は訝しむも、そこへすかさず抜刀した今村日美子が踏み込んでくる。
 速い!
 一朝一夕で身につく動きじゃない。おそらくは武道経験者、それもかなり上位の。
 だが勢いよく向かってくる動物や禍獣との戦闘を、狩りを通して経験している浩然もむざむざとやられたりはしない。
 すかさず距離をとりつつ、罠を張る。
 浩然はここで星のチカラを発動、彼のチカラは氷を操るというもの。
 駆け寄ろうとする今村日美子の足下にポコッ、ポコッと生えたのは氷の塊だ。大きさはレンガ程度だが、足をとられたらたちまち転ぶであろう。
 だがしかし――

 今村日美子は足下をちらりとすることなく、氷の塊をかわしては突き進んでくる。
 まただ。またもや不自然かつ不可解な動きにて、今村日美子は進撃する。
 そのせいでたちまち距離を詰められた。
 今村日美子の銀の一閃が疾駆し、浩然は大きく目を見開く。


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