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114 連合評議会

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 地上より照らされるライト、幾筋もの光が夜の曇天を切り裂く。
 警戒厳重の中、飛空艇が降り立ったのは、ムクラン帝国内の連合軍本部の管轄下にある空港であった。
 造りは地球の空港に似ている。けど、軍事施設なので独特の物々しさが、遠目にも窺い知れる。

 ――というのも、着地してもすぐに船から降りられず。
 あてがわれた船室にて待機を命じられた。
 入国審査やら諸手続きがあるので、ここから先は呼ばれた順に、国ごとに下船することになるそうな。
 でもって、この順番なのだが国力および寄親との兼ね合いとなっている。
 忖度しまくりにて上から順に先へ行く。順位付けによる露骨な贔屓がどうにも感じが悪い。
 とどのつまり、チカラとコネ、どちらも持たない枝垂らコウケイ国一行は、ここでも後回しにされるというわけだ。

「まぁ、べつにいいんだけどね。でも、なんだかなぁ」

 フセといっしょにカリカリ梅をモグモグ咀嚼しながら、枝垂はつい思っていたことが口からポロリ。
 でもエレン姫は余裕の澄まし顔にて、優雅に飲み物の入ったカップに口をつけては、持ち込んだ本のページをめくっている。

「ふふっ、毎度のことですからね。もう慣れました。それに待ち時間といえども時間は時間ですから。せっかくなのですから有効利用しないともったいないですよ」

 ジャニスもウンウンうなづきつつ、剣の手入れをしている。
 兄姉たちが頼りにならないので、しっかり者の末妹のエレン姫は父であるロバイス王の名代として中央に赴く機会が多い。ジャニスはお付きの警護役として同行する。
 若いふたり、先方にて軽んじられたり侮られたり、理不尽な目に合うこともしょっちゅうだ。
 とはいえ、いちいち目くじらを立てていたら切りがない。

「怒るのにも気力体力を消耗しますから。どうでもいい相手のために貴重なそれらを浪費するのは、ただの損失です」
「そうだぞ枝垂、それに周囲から侮られるのもそう悪くはない。なにせ、すっかり油断しているから、ここぞという所で切り込むのが造作もないからな」

 頼もしいふたりに、枝垂は感心しつつ、新たなカリカリ梅をぱくり。
 フセも欲しがったもので口に放り込んでやった。

  ☆

 コウケイ国の扱いがぞんざいなのは、いまに始まったことじゃない。
 だからエレン姫たちは悠然と構えていたのだけれども、下船した直後に受けた一方的な通達にはさすがに唖然となった。

『各国に振り分けられた星の勇者たちの成長具合を確認し、かつ互いの理解と親睦を深めるために、親善交流試合を行う』

 星の勇者たちは世界線を渡るときに、様々な恩恵を受けており、その身に星のチカラを宿している。
 とはいえ、みんながみんな戦闘に適した能力や性格かといえば、もちろんそんなことはない。
 ランダムで選ばれて異世界のギガラニカに送られた地球の人間たちは、それゆえにいささか語弊はあるが当たりハズレがあることは否めない。
 星クズ判定の枝垂なんてのは、その最たる存在であろう。
 だというのに、そんなのをいっしょくたんにして舞台の上で競わせるとか、ありえない。

「これですか、アリエノールさまが仰っていたのは……。やってくれますね、ラグール聖皇国」

 くしゃりと手にした紙を握り潰したのはエレン姫だ。いつになく激昂している。
 姫さまが特に怒っていたのは、その試合の組み合わせだ。
 ものの見事に中央およびその派閥に属する国々と、これに与しない辺境の国々との対戦カードになっている。
 ちなみに枝垂の相手はラグール聖皇国の勇者であった。
 それすなわち三十九人の同期の中でも、屈指の逸材、五ヶ国が取り合うほどの者ということ。
 星クズ判定を受けた残りものの身には、いささか荷がかち過ぎている。
 ジャニスも「連合評議会の連中は、いったい何を考えているのか!」と憤慨している。

 昔から星の勇者を預かり、育成し、管理してきた五大国。
 そのノウハウを授けられて、何かとアドバイスを受けていたであろう寄子の国たち。
 一方ですべてがはじめての経験、右も左もわからずに手探りで勇者と向かい合ってきた国たち。
 中央は試合にかこつけて、差を見せつける腹積もりなのだろう。
 ばかりか、それを理由に「ほらみろ、やっぱり辺境はダメだ。勇者はうちで預かる」と難癖をつけて取りあげる気マンマンだ。
 にしたって、やり口がえげつない!
 だがしかし――

「ふふふ、そうですか、そこまでこちらを蔑ろにしますか。……いいでしょう。向こうがそのつもりならば、こっちももう遠慮はしません。枝垂、かまいませんから好きになさい。どうせ遅かれ早かれバレるのならば、せいぜい連中の度肝を抜いてやりましょう」

 エレン姫の堪忍袋の緒がぷつりと切れた。


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