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111 ギスギス空の旅

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 澄み渡る青い空、広大な雲海を泳ぐかのようにして飛空艇は征く。
 ほんの少し高度をあげれば、宇宙にまで手が届きそう。
 だが、残念ながらこれ以上は上へは進めない。
 理由はここから先は空気とともに魔素がみるみる薄くなってしまい、魔法がろくに使えなくなるから。魔導機もたちまち動作が不安定となる。体内に魔力を司る器官を持つギガラニカ世界の住人たちは近寄るだけで辛くなる。
 とどのつまり、空の上もまた海の彼方と同じく最果てがあるということ。
 よってこちらの世界では、宇宙開発はまったく進んでいない。

 人為的に引き起こされた航空事故により、一時は再飛行が危ぶまれた飛空艇であったが、コウケイ国側の全面協力のもと、突貫修理によりわずか三日で復活を果たす。
 おかげでやや駆け足ながらも、どうにか辺境各国を巡って勇者たちを回収できた。遅れも取り戻せたので、この調子ならば旅程を守れそうである。
 動力源となる新しい輝石や、修理に必要な素材が手元に揃っていたこともさることながら、エレン姫とナシノ女史の貢献が大きい。

 趣味が魔導具いじりであるエレン姫、その才能は枝垂が身についている勇者専用の金の腕輪の魔改造ぶりからもわかること。
 常人では十を見聞してようやく三を知るところを、彼女は一を見ただけで十も二十も理解してしまう。壊れた機器やら魔導機をたんに修理するだけでなく、平行して改良まで施してしまう。
 加えてナシノ女史だ。エレン姫の意図をたちまち理解しては、ササッと図面をひいては、部下に的確な指示を出し、ちゃちゃっと改造のお手伝いをする。
 そんなふたりのもとで日頃から鍛えられているコウケイ国の技術者や鍛冶師らも、とにかく器用で仕事が速かった。
 これには飛空艇の艦長および乗務員たちも、みな大いに目を剥いたものである。
 あまりの手際の良さに、ある乗務員が「どうしてこんな僻地でくすぶっているんだよ。中央に来いよ」と褒めつつ誘うも、言われた者は苦笑いにて肩をすくめる。

「これぐらいで大袈裟な。なにせここは離れ小島だからな。やれることは自分でやらないと」

 コウケイ国、国土は小さく、立地もきわきわ。特産品といえば名物の紫イモぐらい。
 だから総合国力ランキングでは三十九ヶ国中でも、ぶっちぎりでビリっけつ。
 人口だって少ない。国家予算はかつかつで、兵力も限られている。そのため、やれることは自分でやるのが当たり前にて、仕事の選り好みなんてしていられないから、自然と環境に揉まれることになる。
 不便ゆえに育まれる逞しさ。
 おかげで数こそは他国よりぐんと劣るが質がいい。個々の実力はなかなかどうして侮れぬ。
 もっともその国力ランキングも近々のうちに変動が起こるだろう。
 星クズの勇者が持ち込んだ梅の木が、梅味の回復ポーションをはじめとして様々な梅関連グッズを続々と産み出している。これらが正式に売り出されれば、島にはきっとプチバブルが到来することであろう。

  ☆

 飛空艇内にて――
 あてがわれた客室は、お世辞にも広くない。
 というか、ぶっちゃけ狭くて武骨な造り。
 天上が低い。小さな丸窓がひとつに、室内にある調度品は二段ベッドがふたつあるだけ。閉塞感が凄くて息が詰まる。
 しかしそれも無理からぬこと。こいつは軍艦にて、客船とは違うのだから。
 だが、そんな船内にも展望ラウンジなるものがある。
 ウミガメのような形をした船体の甲羅の天辺部分がそれに相当しており、そこからならば雄壮な空の大パノラマを堪能できるとのこと。
 だからエレン姫、ジャニス、枝垂、飛梅さん、フセらは気晴らしに行ってみることにしたのだけれども……

「なに? このギスギスした雰囲気」

 ラウンジには妙な緊張感が漂っていたもので、枝垂は思わず後退り。

「おや、ふたつの集団に分かれているみたいですけど、様子が変ですね」

 剣呑なものを感じたのか、ジャニスはさりげなく姫を守る立ち位置をとる。

「あっちのはイーヤル国の大使で、向こうのは……」

 エレン姫ははやくも何ごとかを察したらしい。「あぁ、そういうことですか」と独りごちる。
 姫さまによれば、ふたつのグループの内訳はこうだ。
 片方はイーヤル国、ダヤ国、カララバ国、チバー国らの集まりにて、対赤霧戦にてイーヤル国からの救援要請に応えた者らの集まりである。
 もう片方は、それに応じなかった辺境国の面々だ。
 一歩間違えれば国が滅んでいたかもしれない事態において、駆けつけた者らと静観した者らと。
 そりゃあ、ギスギスもするよね。


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