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103 互恵関係
しおりを挟むギガンテック赤べことなったフセの活躍により、ダイナムクラーゲンは取り除かれ、海底大空洞に平和が戻った。
ハチノヘの女王はことのほかお喜びにて「今後ともよしなに」とばかりに、極上ハチミツをたっぷり分けてくれた。
それらを枝垂の「梅蔵」に収納し、ひとまず一行は帰路につく。
大空洞から本土側へと通じている洞窟の調査は、改めて探検隊を派遣することになるだろう。なにせ本当に大陸まで繋がっているとしたら、かなりの距離になるので。
内部が複雑に迷路化している可能性も高く、ダイナムクラーゲン以上の脅威が潜んでいないとも限らない。現時点での装備と人員での調査続行は不可能であるとナシノ女史がそうそうに判断した。
邪魔者の排除に成功し、ハチノヘとの会談はうまくいった。
堂々の成果を誇る凱旋である。
だというのに青の洞窟内を歩く一行の足取りは重く、雰囲気は微妙であった。
隊員らはみな誰ともまともに目を合わそうとはせずに、黙り込んだまま。
原因は、先のダイナムクラーゲンのダラケ毒である。
人前でおもわぬ醜態をさらしてしまった。そのせいで互いにとても気まずい。
星クズの勇者である枝垂は、いまさらなので特に何も感じないのだけれども、相応の立場にあるナシノ女史とジャニスは、受けたダメージがことのほか大きかったようで、気の毒なぐらいにしゅんとしていた。
そんなお通夜みたいな調子で戻ってきたもので、これを出迎えた城側の者たちは「あ~、ダメだったのかぁ」と交渉が決裂したのかと早とちりしたほどであった。
後日、ハチノヘたちの住む海底大空洞と繋がっている古い枯れ井戸は、行き来ができるようにきちんと整備された。
これにより、ハチノヘたちは自由に城内の梅苑へと蜜の採集に来れるようになり、もしもまたハチノヘたちに危機が訪れたら、コウケイ国側から速やかに援軍が派遣されるようになった。
守護するかわりに、定期的にハチミツを分けて貰う。
ここにヒトとハチノヘ、種族の垣根を越えた互恵関係が成立し、コウケイ国はよき隣人を得た。
このことをもっとも喜んだのは、城の女性陣たちとアラバン医師である。
ディラ王妃をはじめとする女性たちは、新たな甘味を得たことに「よしっ」と両の拳をググっと握りしめ、本業そっちのけで酒造りにのめり込んでいるアラバン医師は「ひゃっほう、これで梅酒造りがさらに上の段階に進めるぜえ」と小躍りしていた。
☆
数日後――
並んで聖梅樹の前に立っていたのは、天狼と星クズの勇者である。
「おぉ、おぉ、よもや、聖樹の種が残っておったとは……。しかも、自分の住んでいる土地のすぐ目と鼻の先にあったとはのぉ」
感嘆しつつ大樹を見上げていたのは天狼オウランだ。
千切れた尻尾はすでに新しいのが生えており、元の三本尾を悠然と右へ左へとゆらしては、喜色にて金色の瞳を細めている。
パピロスペタァル国の消滅と共に永遠に失われたとおもわれた、ギガラニカ産の幻の野生種。それがここに復活!
しっかりと大地に根を張り、雄々しく枝葉を伸ばしては、たくさんの花を咲かせている光景を前にしてオウランは感無量といった風であった。
青の洞窟と海底大空洞、樹人と鉱人たちが整備したと思われる地下空間と、そこに住むハチノヘたち、そして忘れてはいけないのが厳重な封印が施された開かずの門のこと。
もしかしたらオウランならば何か知っているのかもと、報告がてら枝垂が相談に伺ったところ、「是非、自分の目で確認したい」と懇願されての再訪であった。
黄金級の禍獣の降臨に、ハチノヘの女王たちが目に見えて狼狽していたけれども、それはオウラン自身が「なに、かまわずともよい。少し樹を見に来ただけだ」とのお声がけにて鎮まらせた。
なお門のことはオウランにもわからないとのこと。
どうやら彼が天狼となるよりも古いもの――推定で六千年以上前らしく、しばしじっと門をにらんでから「門や、この場所のことは中央の連中には黙っておくがよかろう」と言った。
いらぬ欲をかいたり、好奇心にて身を亡ぼしたなんて例は枚挙にいとまがない。
ようは触らぬ神に祟りなしである。
赤霧や星骸だけでもてんてこ舞い、中央や鉱人らの動向も気になるのに、これ以上はさすがにお腹いっぱい。
というわけで、枝垂は門を見なかったことにすることに決めた。
王さまたちにも、オウランの言葉をそのまま伝える所存である。
「にしても、ククク」帰りの道すがらオウランは肩を震わせる。「わからぬものよ。まさかあのフセが大活躍するとはなぁ」
対ダイナムクラーゲン戦において、文句なしのMVPはフセであった。
これには枝垂もうなづく。
「何気にうちの最高戦力かも。なにせなんでも丸呑みしちゃうし」
この調子で星骸もパクリとできたら楽なのだけれども、さすがにそれは難しいだろう。そんな簡単な相手ならば、わざわざ星の勇者なんぞを召喚したりしないだろうから。
そんなことをぼんやり考えつつ、枝垂たちは帰路についた。
各国に預けられた同期の星の勇者たちが一堂に会する連合評議会が、いよいよ間近に迫っている。
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